第291話 ニンニクマシマシで九尾なのじゃ
「へいらっしゃいなのじゃ!! 食券買って、奥の席からどうぞなのじゃ!!」
「うわぁ、〇郎系ラーメン店に入ったら、説明もなくナチュラルに狐が出て来るこの感じ、センスあるぅ!!」
会社帰り。
ちょっと遅くなったのと、今日は加代の奴がバイトがあるからということで、久しぶりに外食でもしようかと店に入ればこれである。
あれだよ。
一応ね、腹持ちのいいようにと思って、がっつり系のラーメン屋を選んだのよ。
あんまり厚くないお財布のことを考えての選択だったりする訳なのよ。
それがこんな裏目に出るなんて。
「どうせあれだろ、にんにくの代わりに、あぶりゃげマシマシしますかってなるんだろ。知ってる。俺、もうこの話のオチ知ってるから」
「なんなのじゃお客さん、入って来るなりいきなりさめざめと」
「それかあれだろう。どん〇郎が出て来るんだろう。あれ、実際、近い味するよね。けど、よくよく考えるとニンニクで誤魔化されてる気がするというか、刻みニンニクぶっこんどけば、とりあえずどんなラーメンでも二〇になるんじゃ」
「のじゃ、とりあえず、早くカウンターについて欲しいのじゃ」
嘆いても仕方ない。
お腹が空いているのは事実なのだもの。身内が働いているのをとりあえず、ここは一旦スルーすることにして、俺は食券を買って空いている奥のカウンターに座った。
並盛の食券と、チャーシュー増しの食券を置くと、それを受け取る。
「のじゃ。お客さん、うち、大盛店だけど、そこんところ分かってるのじゃ」
「分かってるって。さっきもう、オチまで分かってるって言っただろう」
「のじゃ。お残しは厳禁なのじゃ。インスタ映え狙って、無理して食べようとかそういうのはやめて欲しいのじゃ」
安心してくれ。
学生時代から二〇系ラーメンには結構世話になってるんだ。
今まで、どんなことがあっても食べられなかったことはないよ。
まぁ、お揚げさんマシマシにされたら、流石に分からないけれどな。
「いいから、大丈夫だから、はよ作ってくれ」
「のじゃ。分かったのじゃ」
食券を受け取りすごすごと戻っていく加代。
彼女を見送ると、俺は溜息を吐き出した。
銀色のテーブルに息がふきかかり曇る。どうして二〇系ラーメン店なんかに入ったのだろう。普通にサイゼリ〇とかにしておけばよかった。
けど、そっちに入ったら入ったで、こいつがいるんだろうな。
そういう運命なのだ。
店に入れば同居狐が居る。
トレンディドラマのタイトルかなとか、脳内ツッコミを入れながら、俺はまた、目の前のテーブルを溜息で曇らせるのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
しばらくして。
「あぶりゃーげ入れますか?」
オーダーの確認に加代の奴がやって来た。
ははは、こいつめ。
まぁ、そうなるだろうとは思っていたけれど、二郎〇の否定から入って来るとは予想外だよ。ニンニクのこと聞かなかったら、二〇じゃないだろ、そこは。
安定のポンコツぶりを発揮する加代に、俺は笑顔で答えた。
「ニンニクマシマシヤサイマシアブラマシマシカラメマシで」
「……のじゃぁ。あぶりゃーげ入れるかどうかを聞いておるのじゃ。なんの呪文なのじゃ」
なんの呪文なのじゃじゃないよ。
ここは二郎〇ラーメン店だろう。
なんで呪文が通じないんだよ。
きょとんとした顔をする狐に向かって、俺は凍り付いたような笑顔を向けた。
「のじゃぁ、もう一度聞くのじゃ。あぶりゃーげ入れますか?」
「ニンニクマシマシヤサイマシアブラマシマシカラメマシで」
「はい、か、いいえ、で、答えるのじゃ!! RPGの主人公でもできることがなんでできないのじゃ!! たわけ!!」
「うるせぇ!! たわけてんのはお前の接客だろうが!! この駄女狐!!」
あ、この感覚も久しぶりだわね。
加代の奴を怒鳴りつければ、ポンと尻尾が九本出る。
久しぶりに見たそれはどれも怒髪天を突くように天に向かって逆立っていた。
相当オコなご様子である。
やめろよなぁ、もう。
もやしの代わりに毛が入るだろう。
そんなもんマシマシされても困るだけだっての。
「そんな呪文みたいな注文するラーメン屋がある訳なかろう!! というか、ラーメン屋にいったい何を求めておるのじゃ!!」
「あるんだよ!! ここなんだよ!! ラーメンだよ!!」
頼むから、普通にラーメン食わせて。
たわけ狐にコンコンセツセツ、俺はこの特殊なラーメン屋のシステムについて教えることになるのだった。
よかった、あまり人気のない二郎〇ラーメン店で。
人気店だったらほんと大惨事だったよ。やっぱ関西圏では人気ないから助かるね。
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