第256話 資格で九尾なのじゃ
「のじゃ。就職に有利になるよう、何かパソコン系の資格でも取りたいのじゃ。桜よ、何かいい資格はないかのう?」
「そんなことより障碍者手帳貰って、障碍者枠で就職した方がいいんじゃない?」
「のじゃ!! ネタがブラックすぎるのじゃ!!」
いやいや。
実際問題として加代さん、アンタこれだけあっちこっちでトラブル起こして会社クビになってるんだから、普通にそういう診断書出るんじゃないの。
発達障害とか、ADHDとかさ。
昨今、障碍者枠で働いてる人も多いと聞く。
企業側も法律により、事業規模に合わせて一定の人数を受け入れなくちゃいけないから、それなりの需要もあるはずである。
仕事で苦労しているのは間違いないのだから、そこは割り切って――。
と、思ったが、加代はオキツネ。
気が付くと、暗い顔をしてその場に俯いていた。
「のじゃぁ。受けたいのはやまやまなのじゃが、なにせ、
「――あぁ、まぁ、そういうのもあるよね」
ちと、こいつは地雷を踏んでしまったかなと後悔する。
やれやれ。
「IT系の資格ねえ。まぁ、普通にMOUS検定とか取っとけば安泰なんじゃない。事務系の仕事でもアピールできるし」
読んでいた雑誌をたたんで加代へと向き直ると、俺はその相談に真面目に乗ってやることにした。のじゃ、と、喜色ばんだ声をオキツネ娘があげて目を輝かせる。
世話の関わる駄女狐さまである。やれやれ。
「のじゃぁ、マウスを捕るのは得意なのじゃ!! なるほど、どの事業所も、鼠の被害に苦労しているということなのじゃな!!」
「マイクロソフト・オフィス・ユーザー・スペシャリスト検定な。ワードとか、エクセルとか、そういうのを使う能力を示す資格だよ」
のじゃぁ、と、あからさまに残念そうな顔をする加代。
鼠捕まえる検定ってなんだよ。
というかそもそもIT系の資格って話じゃなかったのかよ。鼠捕りにITまったく関係ないじゃないかよ。
それなら猟銃免許でもとれっての。
「いや、それやったら、某有名漫画と同じネタに……」
「のじゃぁ、他には何か、何かないかのう」
「ITパスポート検定とか、ゴリゴリ情報系でやってくなら基本情報処理試験とか。けど、お前、そういうタイプじゃ――」
と、言いかけて。
俺は先日、こいつがサーバールームから出てきたことを思いだした。
うん、ちょっと待て。
「お前さ、サーバー管理とか普通にしてるよな?」
「のじゃ? まぁのう?」
「そっちの資格とか何か持ってるんじゃないの?」
「のじゃぁ、どうじゃったかのう。仕事で必要と言われて、なんか受けた気がするが。そう、たしか、えりゅぴっくがどうとか、こうとか」
LPIC。
サーバ系OSとして導入されているLinux。
それに関する総合的な技術力を測る試験だ。
MOUSがどうとかこうとかそういうレベルじゃない。相当に難易度の高い試験であり、俺も過去に何度か受けたが、結局合格していない。
いや、真面目に勉強していないだけ、というのもあるが。
「……ちなみに、レベルは?」
「のじゃ? たしか、300を取った思ったが。正直、いっぱいいっぱいで、よく覚えていないのじゃ」
LPI-300。ファイルサーバー・ドメインコントロールに関する試験区分だ。
そして、LPICで最高位のレベルの試験である。
それに合格している時点で。
「――俺よりIT技術者としてはランク上じゃないかよ」
もはや俺からこいつに教えることなどなにもない。
なにもないけど。
どうしてそんな有益な資格を持っていて、安定した仕事に就けないんだ。
本当に、何かこう、そういう病気なんじゃないのだろうか。
「のじゃぁ、IT系じゃなくて、もっとこう、こじんました会社で、重宝されるような人材になりたいものじゃのう。そうすればきっと人生楽なんじゃろうのう」
「――その資格持ってりゃ、大抵の会社で重宝されるはずなんだけどなぁ」
資格が身を助けないことも、世の中にはあるのだ。
世の無常をじんわりと噛みしめながら、俺は少し、申し訳ないというか情けない気分になるのだった。
「のじゃぁ。弱った、弱ったのう。なにかよい資格はないかのう」
※ 現在MOUS検定はUを取り払いMOS検定に改称されていますが、ネタの関係上MOUS検定としました旨ご理解くださいなのじゃ。桜くんも最近資格にとんと縁がない人なので、その辺りのトレンドついていけてない――ということでひとつ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます