第247話 タブレットで九尾なのじゃ
長年、家でゲームやネット閲覧に使っていたタブレット端末がついに壊れた。
原因は寿命である。もっとも、トドメを刺したのは、その存在に気付かず尻の下に敷いた加代さんであったが。
バリバリに割れた液晶画面に苦笑いが漏れ出て来る。
そんな俺に頭と九つの尻尾を下げて、加代は平身低頭、三つ指ついて謝って来た。
「のじゃぁ、ごめんなのじゃぁ。
「いやまぁ、仕方ねえよ。というか、そもそも論として、俺もそろそろ買い替えようとか考えてたところだったし」
「のじゃ? そうなのじゃ?」
「流石に五年も使ってるとな、最新のOSも入れられないし。ちょうどいい機会だよ」
むしろいいきっかけを作ってくれた。
顔を上げた加代に対して俺はしぶしぶという体で感謝してみせた。
まぁ、データ類の移行ができないのは残念だが、最近はゲームもたいしたものをやっていなかった。電子書籍アプリは、アカウントさえ移行すれば、次の端末でも使えるだろうし――まぁ、なんとでもなる。
オーケィ、オーケィ、気にするなよ。
そう言うと、ほっとした感じで加代は胸を膨らませて息を吐き出したのだった。
「のじゃ。これはもう、弁償まったなしかなと思って、ちょっとビビッていたのじゃ」
「お、してくれんの? だったら、薄給の加代ちゃんに新しいの買って貰おうかな?」
「……今月厳しいのじゃぁ。分割払いでなんとかならんかのう?」
「冗談だっての。もともと、俺も買い替えようと思ってたんだ」
性質の悪い冗談はよして欲しいのじゃ、と、加代がぷんすことかぶりを振った。
悪い悪いと言いつつ、ふと、俺はバキバキに割れたタブレット端末に視線を向けた。
うぅむ、さて。
どの端末に買い替えるのがいいやら。
「今度はそこそこのスペックの奴がいいな。最近は、ゲームもカクカクで、まともにプレイすることができなかったし」
「のじゃ。安物買いの銭失い、ちゃんとしたのを買って来るのじゃ」
「携帯ショップで管狐を売りつけていたとは思えない口ぶりだな。心配されんでも、そんなもん俺も買わないっての」
「最高級品とまではいかなくても中流品にしておくのじゃ。そこそこ強くて、タフなのを買って――と、そこでおすすめなのがこのオキツネタブレット!!」
いきなり、九尾が尻尾の中からタブレット端末を取り出す。
黄色いカバーのかけられたそれには、怪しい狐のロゴマークが入っていた。
……お前なぁ。
「安心の完全国内生産。全国のオキツネの息がかかった直営工場で、厳密な品質管理の下作られているからこそできる高品質・高性能。落としても壊れない、踏んづけても割れない。メーカーの実験では、仙界大戦にも耐えうる頑丈さが実証されているのじゃ。禁鞭で百回打っても、表面には傷一つ使ない――殷王朝のラスト宰相も認める、まさにタフなタブレットなのじゃ」
「……お前、まさか、それを売りつけようと思ってわざと割ったんじゃないだろうな」
にっこりと、笑顔と共にドスの利いた声を向けてやると、のじゃぁ、と、加代。
「違うのじゃぁ。ちょうど今、家電量販店でお仕事してるから、ついそのノリで」
まぁ、悪気があったら、こんなハイテンションでまくしたてるように言わんだろう。
やれやれ俺も意地悪が少し過ぎてしまっただろうか。
また、冗談だよ、と、加代の奴をフォローをしてやる。
やれやれ、まったく世話のかかるオキツネさんだ。
まぁ、それは、それとして。
「オキツネ製品はどんなソフトが仕込まれてるか分かったもんじゃないからな。頼まれても買わんてーの」
「のじゃぁ!! 酷いのじゃ!! 偏見なのじゃ!! 日本メーカーみたいに、ごちゃごちゃ要らないソフトが入っているのより、よっぽどすっきりしていて使いやすいのじゃ!! 不当なオキツネメーカーへの偏見に、前言撤回を要求するのじゃ!!」
「けどお前、どうせまた、通信システムに管狐とか入ってるんだろ?」
「管狐も最近はデジタル化が進んで、情報転送量が上がっておるのじゃ!!」
なんだその技術革新。
管狐の奴も大変だなぁ。よく分からんけど。
なんにしても、そのタブレットを買うことだけは絶対にない、と、俺は念を押した。
「のじゃぁ!! 今なら特価9999円でご提供なのじゃ!! 絶対お得なのじゃ!!」
「そんな正月初売り特価みたいな値段で売られても、いらんものはいらんてーの」
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