第174話 海辺でみこーんじゃなかった九尾なのじゃ
サバイバル生活やらなにやらやったおかげで妙な顔が売れてしまった。
いつものように職を探しにハローワークに出かけたところ、ぜひとも君に来てもらいたいと声がかかったので来てみれば、そこは漁師小屋であった。
銛を持ち、ふんどしを巻き、角刈りな、まさしく一昔前の海の男という感じのおっさんが俺を前に仁王立ちしている。
どうしてこんなところにいるのだろう。
なんというか、世界観が違うよね、世界観が。こっちはスーツなのに、向こうはふんどし一枚とかそういう所じゃなくて、もうなんというか、全体的な何かが。
「俺はここいら一帯で、ただ一人、素潜りで漁をしている漁師、磯野鰤男」
「空目すると心臓に悪いんでブリさんと呼ばせていただいていいですか」
「なんでも構わねえ。海の男はそういう細かいことは気にしないんだ。ちなみに嫁の名前はカメノテだ」
「うーん、絶妙に海育ちしか意味の分からんところをついてきたぞ」
某、半導体事業で業績好調だったはずの企業もあんなことになってるのに、ネタにして大丈夫なのだろうか。
火曜枠が消えてはや二十年くらい。このまま、日曜日枠まで消えてしまったらと思うと、あれで育った日本人としては悲しいものがあるのだが。
まぁ、ブリさんのことと、彼女の嫁の名前および実在性は置いておいてだ。
この人が、例の無人島生活を見て、ぜひ俺に仕事を手伝ってほしいと、ハローワークに掛け合ってくれたらしい。
いやはやなんともありがたいことだが――ちょっとほいほい出てきたことを後悔している。
「見てのとおりよ、うちは完全歩合制の獲ったもん勝負の漁師業。生半可な覚悟じゃ勤まらないぜ。今までも多くの弟子志望が辞めていったもんだ」
「じゃぁ、生半可なうちに帰りますね、僕」
「しかし、無人島で無事に生き延びられるアンタなら、もしかしたら俺の跡をついでくれるかもしれねぇ。そう思って声をかけさせてもらったんだよ。俺の代で、この長らく続いた素潜り漁を終わらせちまうのは、どうにも忍びないからな」
「これから生まれてくる未来の息子に託してどうぞ」
逃げ出そうとする俺の手を掴んで離さない毛深い漁師。
この野郎。見た目も中身も体育会系、流石は海の中で魚と格闘しているだけはあって、完全に力では敵わない。
がっちりと肩をホールドされてしまった俺は、それきり動けなくなってしまった。
まずい、このままだと、流れで漁船に乗せられて、沖合に放り出されること風林火山の如しである。
実はあの番組で、漁をしていたのは俺ではなく、こっそりとついてきた俺の同居人の九尾であった――などと言ったら、許されるだろうか。
いや、まず、許す許さないの前に、信じてもらえるかというところからして怪しいな、これ。
「頼むぜアンタ!! あの無人島生活番組で見せた狩猟能力は、まさしく海の男――
「いや、あれは、その、番組の都合もあって」
「大丈夫だ!! 数年の休載期間があったって、すんなりと再開できるくらいの才能がお前にはある!!」
「なんの
「あいや待たれよなのじゃ!! その話、ちと口を挟ませてもらってよいかのう!!」
この前半で意味の分からん話をして、後半から唐突に加代が出てくる流れも、もはやお決まりになりましたね。
しかしながら、今回ばかりは頼もしいというほかない。
よかった加代ちゃん、今日ばかりは君が止めてくれて。
少しほっとした面持ちで振り返ったその先、立っていたのは九本の尻尾をひとつだけぽろりと出し、麦わら帽子に水着の上から白Tシャツ、浮き輪とパラソルを持った――。
「
「なんの
「違うのじゃ!! 今は
関係ねえよ。
関係ねえけどお前それ、いろいろと問題あるだろう。
あと、やってる人間にしか意味通じないよ。
というかどれだけ嬉しいんだよ。呼符ラス1で水着キャス引いて、やったこれで酒呑ちゃんに続いて★5二枚目だ。女の子ばっかりで、デュフフ、我が○ルディアは実に眼福な場所ですなぁ。カクヨムでは★3引くのもなかなか難しいけど、こっちでは○ミヤも全員揃うし、なんかちょうしいいでござる、うははって、コラーッ!!
そんなだから!! そんなだからお前、ちゃんとやれっていろんな人に怒られるんだろ、お前、こらーっ!!
その癖、夏バテして鼻血出して倒れるし、睡眠時間ぐちゃぐちゃで、体力的にも結構しんどい上に、本当だったらこんなの書いてる状況でもないのに。
そんな中、先生も、会社も、スタッフさんも、みんな、お前のこと心配してるのに、こんなアホなもん書いて、ほんとどうするんだよ。
社会的にも肉体的にも
「ストップストップ、それ以上、よくないのじゃ。流石にちと、
◇ ◇ ◇ ◇
さて、まぁ、なんのかんのでいつもの通り、加代がやって来た訳ですが。
その装いは完全に遊びモード。ビーチ満喫という感じである。
来てくれて助かったなんて一時でも思っといてなんだが、ぶっちゃけ、そんな恰好で来られてもなというものだ。もはやため息さえも出てこない。
あ? 地の文がもとに戻っている?
はてさて、なんのことやら――。
「のじゃのじゃ!!
「あ、海の幸限定なんですね。よかった、俺、
「ほう、なかなか威勢のいいお嬢ちゃんじゃないか」
「威勢だけじゃなくって実力もあるのじゃ!!」
ふふんと鼻を鳴らして、ない胸を張る加代。
来てしまったからには仕方ない、そう言わんばかりに、彼女に正面から対して腕を組むブリさん。
やれやれどうやら、この二人の意地の張り合いは長引きそうだぞ。
「言っておくがな、俺の漁は生半可な覚悟じゃ勤まらないぜ」
「もちろん、そんなものは覚悟の上なのじゃ」
「いい返事だ!! 気に入ったぜ九尾のねーちゃん!!」
よし、ついてきな。
そう言って、ブリさんは俺たちに背中を向けると漁港を後にした。
そう、後にしたのだ――。
◇ ◇ ◇ ◇
「見るのじゃ桜よ!! こんなにでっかいはまぐりが獲れたのじゃ!!」
「貝かよ!!」
「馬鹿野郎手を休めるんじゃねえ!! そんなペースで、浅利が獲れるとおもってんじゃねえぞ!!」
「貝かよ!!」
「当たり前だろ!! なんのパロディだと思ってたんだよ!! 磯野なんだから、沖に出たらまずいだろ!!」
「もういろいろと混ざっててわかんないよ!!」
とりあえず、俺はこの仕事を丁重に断った末に辞めた。
名は体を現すというが、今回はオチですかそうですか、ちくしょうめ。
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