第167話 勇者ロボで九尾なのじゃ

 ギャグ漫画やアニメなんかだと、唐突に世界観が変わる様な展開が起こったりして、あぁ、作者や製作者もついにいろいろと尽きて来たんだなと実感させられることがあったりする。

 その点において、俺の周りにはまぬけな九尾娘という、ちと付き合うのに骨の折れる強烈なキャラクターこそいるが、まぁ唐突な展開だけはなかったので、これは漫画とかそういうのではないのだろうなと、メタ的なことを意識することはなかった。


「桜よ、お主、ロボットの操縦はできるのかえ?」


「産業用ロボットか? まぁ、仕事で扱ったことはあるが――公的な資格とは持ってないけど、前に居た会社で仕事で触れるようにって講習は受けたぜ」


「のじゃのじゃ!! では、この仕事なぞどうかのう!!」


 そう言って、同居人が突き付けてきた求人は、ロボ操縦者求むと書いてあった。


 おそらく、なにがしの生産工場で稼働するロボットの調整か何かだろう。

 いいねおもしろそうだと二つ返事で承諾すると、俺はその会社に電話を入れた――そして。


「いい、桜くん!! 活動限界時間は残り十分!! それまでにあのバケモノを制圧するのよ!!」


「――あ、ちょっと待ってこれ、どういうこと。タイトル的に勇者シリーズものじゃないの?」


「敵熱源反応増大!! 光子砲来るのじゃ!!」


「さぁ早く動いて!! 住民の避難は完了しているわ!! ビルも公園も電波塔も、自由に使って戦ってちょうだい!!」


 右のレバーを手前にひけば、まったくよく理屈は分からんが、左に向って視界が動く。このロボット、よく分からんぞ。アム○だってマニュアル読んでたんだから、俺にもマニュアルくらいつけてくれ。


 ギャグ漫画かな。俺は巨大なロボットに乗って、迫りくる巨大な敵と戦っていた。

 そう、お仕事ととして。


「地球防衛企業ダ○・ガードとか、そういうやあったよなぁ」


「なにやってるのじゃ!! ボサっとしてないで戦うのじゃ!!」


「ほんでもって、なんでオペレーターがお前なんだよ、加代」


「ヒロインじゃからしかたないのじゃ!!」


「――認めたくないものだな、自分自身の若さゆえの過ちというものを」


「なにが過ちなのじゃ!! いいからとっとやるのじゃ!!」


 頭の上のスピーカーから流れてくるのは、間違いなく加代の声である。

 それに混じって聞こえてくるボスはなんというか、セーラームー○の声だ。あきらかに東急系のロボットモノではない。


 けれど、そんなことをのんきに言っている場合ではない。

 向こうからは、学研雑誌に載っていそうなフォルムのモンスターがのっしのっしと歩いてくるのだ。


 このデザインはやばい、逃げたらアカン奴や。


 ううむ、どうしてこうなった。


「戦うのは良いのですが、主な武器はこれ、なんなんでしょうか」


「スーパーロボットなのじゃ!! ロケットなパンチ、ダイレクトにキック、あとは噛みついたり、カラテを見せてやるのじゃ!!」


「超電磁武器もないのか――」


 こんなんでなんとかなるのだろうか。幸い、産業用ロボットの扱いの経験があるためか、それとも、誰が乗ってもそこそこ動く親切設計なのか、動かすことには苦労しないが。

 なんて思っている所に、正面からピンク色したレーザーを喰らった。


 おわっち。熱い熱い。なんだこれ、サウナの比じゃないぞ。

 助けてください大佐って感じだ。


「むむっ、なんということ、いきなり大ピンチなのじゃ」


「桜くん!! はやく体勢を立て直して!!」


「んなこと言われましても、ろくに訓練も受けてない上に、別におやじの情熱もおかんの魂が入っているわけでもないこのロボットで、いったいどうやっていきなり戦えというのですか」


「のじゃ!! つまり、そういう科学考証設定があれば戦えるということなのじゃ!!」


 待ってましたとばかりに加代が指を鳴らす。

 やだこれ、嫌な予感しかしない。


 またピンク色の光線を売って来る敵から逃げ回りながら、どうするんだよと加代に問い返す、すると彼女は司令と声を荒げた。


「ファイナ○フュージョンの承認をお願いするのじゃ!!」


「なんでそこだけ勇者シリーズなんだよ!!」


「――許可する」


「んで。ノリはなんで新世紀なんだよ!! どっちかに統一してくれ!!」


 スーパーロボット大戦じゃないんだ。俺はな、自慢じゃないがスパロボは一つだってまともにやりきったことがないんだよ。クロスオーバーネタは勘弁してくれ。

 と言っている間に、上のほうでごちゃごちゃと加代が叫び始める。


「司令の許可が降りたわ。これより、アブラゲリォンファイナルフォームへの、変形を開始します!!」


「あ、アブラゲリォンっていうんだ、このロボット。やだ、嫌な予感しかしない」


「のじゃのじゃのじゃぁっ!! 臀部ジョイント部分開放完了、ナインテイルプラグ射出準備、いつでもいけるのじゃぁっ!!」


「桜くん、アブラゲリォンの尻を天に向かって突き上げるのよ!!」


「なんだそれ!!」


 いいから早くするのじゃ、と、加代がまた叫ぶ。ええぃ、ままよ、俺は言われるがままにこの、人型決戦兵器アブラゲリォンをその場に四つん這いにさせた。


「ナインテイルプラグ射出!!」


「発射なのじゃ!!」


 どぅんどぅんと音がする。

 三百六十度見渡せるようになっているコクピット。後ろを振り返ってみればどうだろうか、こちらに向かって飛んでくるあれは――。


 間違いない、狐の尾っぽである。

 それがこのロボットの尻に向って飛んできている。


 恐怖しかない。こんなものは、恐怖しかない。


「九尾の力がこもった九つの尻尾プラグを装備することで、アブラゲリォンは最終形態――キュウビゲリォンになるのじゃ!!」


「もうどこから突っ込んでいいのかわかんねえよ!!」


◇ ◇ ◇ ◇


 尻にぴとりと何かが当たる感覚で俺は目を覚ました。


「――のじゃぁ、しゃくらぁ。そんないっぱいごはんよういされても、わりゃわ、たべりゃれないのじゃぁ」


 のじゃふふふと、背中から聞こえてくるのは加代の声。

 布団の中、どうやら、彼女に後ろから抱き着かれる状態になっているようだ。

 よほど人肌が恋しいのだろう。くっついて離れぬその感じは――なるほど先ほどの悪夢の原因はこれであったかと直感させてくれた。


 まったく、なんて夢を見させてくれるのだろう、この九尾の狐は。

 ファイナル○ュージョン承認だなんて、お前、そんなくだらないネタ、今時同人誌でもやらないだろうに。


 起き出すにはまだ早い。

 もぞりもぞりと、俺は柔肌の狐娘から身体を離すと、もうひと眠りすることにしたのだった。


 よかった、ほんと、夢オチでよかった。

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