第151話 肉まん食べてあぅーっじゃなかった九尾なのじゃ
そろそろ肉まんの食べ納めかねというぽかぽかとした時期。
加代の奴が何を思ったのか、近所のコンビニで大量に冷凍肉まんを買いあさって帰って来た。
「狐娘は肉まんを食べるとキャラが立って人気者になれると聞いたのじゃ!!」
「またお前はそんな、限りなくしょうもないことで無駄遣いしおって」
いったいどこの情報だ。
俺が知っている限り、そんなのはもうかれこれ十年前の話だと思うのだが。しかも人気かというと――たいやき娘やジャム娘に比して、彼女がそうだったとはとても思えない。
なんにせよ、また、しょーもないことをしてくれたものである。
ずらりと机の上に並べられた、肉まん、あんまん、カレーまん、ピザまんという多種多様な饅頭の数々。
かつてそれは、川の氾濫を抑えるために、某公明の手により人の頭の代わりに作られたとかどうとか。まさかここまでバリエーションが出るとは、彼も思ってもみなかっただろうね。
「どれ食べるのじゃ、
「肉まんじゃないのかよ。お前、全然なり切る気ないだろ」
「なんのことなのじゃ?」
「――あぁ、いや、なんだ。元ネタについてはお前、知らないのか」
よくそんな中途半端な知識状態で、肉まんがどうとか言い出したな。
ひと昔前だったらネットでつるし上げられてるぞ。
とりあえず、俺は普通のでと頼むと、鼻息を鳴らして皿の上に加代が饅頭を並べる。表面にしっかりと水を塗って湿らせてラップをすると、彼女はそれを電子レンジの中へと放り込んだ。
ぐぉんぐぉんと音がして、淡いオレンジ色の光の中を、饅頭が回りだす。
「しかしまぁ、商品入れ替え時でお安かったとはいえ、コンビで一個百円と考えると、だいぶお得じゃのう」
「ありゃ、いつ食べてもふわふわふかふかな、技術料に百円払ってんだよ」
「なにおう、
ほう、大きく出たなこのオキツネ。
スチーマーの実力を甘く見てもらっては困る。あれは人類――もとい肉まんメーカーが心血を注いで開発した人類の英知の結晶である。そんなたいそうなモノに、きさまごときぽんこつ九尾が、太刀打ちできると本気で思っているのか。
ではそのお手並みを拝見しようかね、と、じっとレンジの中で回る肉まんを眺める。
こういうの、片手間になんかしながらするのが正しいんだろうがね、ついつい、やることもないものだからそんなものに見入ってしまうのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
数分後。
出来上がった肉まんは、ふわふわふかふか――というには残念な、ごわごわがびがびの硬いものだった。
「なんでなのじゃ!! ちゃんとお水をしっかり表面に塗ったのじゃ!!」
「はっはっは、この程度か加代よ。ふわふわふかふかとはほど遠いこの肉まんでは、とてもではないがコンビニで働くことはまかりならぬ」
「ぐぬぬっ、もう一回、もう一回なのじゃ!!」
そう言って、今度はカレーまんとあんまんを皿にセットしてレンジする。
どうでもいいけど、匂いの強そうなカレーマンと、匂い移りしそうなあんまんをセットでレンチンするあたりからして、もう期待できないよね。
◇ ◇ ◇ ◇
またまた、数分後。
「のじゃぁ、今度はびしゃびしゃびっちょりなのじゃ。なんか潰れておせんべいみたいになってるのじゃ」
「蒸らすためにレンジの中に置き過ぎたな。こういう塩梅も難しいよな、肉まんって」
「のじゃぁ!! もう一回、もう一回なのじゃ――」
◇ ◇ ◇ ◇
はたして数時間後。
俺は加代の奴にふわふわふかふかの饅頭を食べさせてやる――そう宣言されて以来、ずっとできそこないのごわごわべとべとねっちょり肉まんを食べさせ続けられていた。
果たして俺の食欲が尽きるのが先か。
それとも肉まんのストックが尽きるのが先か。
そもそも、こんなに人生で肉まんを食うことがあるのだろうか。
いや、ないだろう、きっとない。
というかなぜ俺はこんなことをしているのだろうか。
そもそも肉まんとはなんなのか。
なぜ俺達は肉まんを食べ続けなければならないのか。
ただ一つ、分かることは。
「あぅーっ!!」
「のじゃっ!? 桜ぁっ!?」
Kan○nは文学ということだけだった。
もうゴールしてもいいよね。
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