第101話 おわかりいただけただろうかで九尾なのじゃ

「いやぁ、壮絶なレースでしたね、アシスタントディレクターさん」

「そうですねディレクターさん」


「まさか最後の最後、勝負に出たホクトコクオーゴー。騎手の羅王ラ・ワン選手が天に還って、重りを軽くする作戦に出るとは予想外でした」

「まぁ、普通に死んで逆に重くなりましたがね」


「中盤マリオ選手が、歩くキノコにあたって小さくなるハプニングがありましたが、あれも作戦だったんでしょうかね」

「どうなんでしょう。最後の最後でグリーンドラゴンを乗り捨てようかと迷っていましたが、時すでに遅しでしたね」


「しかしなんといっても一番目を引いたのはマツカゼフユイベント」

「まさかの牝馬とは思えない暴れっぷりでした。突如現れた侍たちをばったばったとなぎ倒しての堂々とした走りっぷり。あっぱれです」


「そんな妨害もあって、最後は我らが加代ちゃんさんジョッキーと、覆面ジョッキー誰セガールの一騎打ちになりました」

「エビドリアエビドリアと叫ぶゴールデンラズベリー。しかしながら、ここに来て必殺のスレイプニルスペシャルを加代ちゃんさんジョッキーが繰り出す」

「まさか八本の尻尾を使って馬を抱えて走るとは、いやぁ、度肝を抜かれた」

「あれには流石に誰セガールも沈黙できずに、んなアホなって、関西弁でつっこんでましたね」


 本当にね。

 トンでもレースを見せつけられましたよ。


 こんなもん競馬関係者が見たら、金返せと言われてもしかたのない内容だ。

 競馬関係者でなくても、金返せって内容だろう。


 とまぁ、ディレクターとアシスタントディレクターのダイジェストで振り返ったレース結果であるが、結論からいうと、のじゃ子が乗るハンソクオーと、ゴールデンラズベリーが接戦の末に、写真判定ということになった。

 現在、絶賛審議中。

 着順掲示板には、一位と二位を覗いた順位が点灯していた。


 というか、そもそものじゃ子が抱えて走った時点で落馬ではないのか。

 人が死んだり、侍が乱入したり、小さくなったり、いろいろありすぎてもう何が何やら訳が分からない状態で、そんなこと言うのもなんだけれど。


「あっ、いま、着順掲示板に光がともりました!!」

「一位は――やったぞ、一枠一番ハンソクオーだ!!」

「写真判定の画像も一緒に表示されます。鼻先はどう見ても同じ――いや、よく見るとゴールデンラズベリーの方が前に出ている。これはいったいどういうことだ!?」


 中央のディスプレイにでかでかと表示されたゴール時の写真。

 その写真が徐々に徐々に、まるでよくごらんください、とホラー番組のように拡大されていく。


 それはハンソクオーの鼻先。

 徐々に徐々に拡大された、その鼻先から――どうだろう、何か黄色いものが伸びているではないか。


 間違いない。

 お分かりいただけただろうか。


 鼻先から出ていたのはまさかのナインテイル――加代の残された一本の尻尾だった。


「着順掲示板に表示された着差、ハナもといシッポ差!! 加代ちゃんさんジョッキーみごとに記念レースを制しました!!」

「いやぁ、まさか残した一本を、こういう風に使うとは。見事です。策士、ダートの上の策士というしかないですね」


 見事じゃねえ。

 なんだこの茶番。


 付き合ってられるか、と、俺はしらけた気分で中央広場勝利ジョッキーインタビューを受ける加代を眺めたのだった。


「のじゃのじゃ。人馬一体、馬の気持ちになって走るのがやはり速さの秘訣かのう」

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