第95話 いたずら子悪魔で九尾なのじゃ
【前回のあらすじ】
森でバイクを発見した桜と加代。しかし、そのバイクには悪霊がとりついていた。
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「あれはトヨール。マレーシアで信奉されている悪魔の一種です」
「トヨール?」
「自動車メーカーなのじゃ? マレーシアにも進出してたのじゃ?」
そりゃト○タだバカお狐。
怖がってる割には余裕のあるボケかましてくれやがって。
しゃぁしゃぁと、ガラクタの上を飛び交う黒い小人たち。
白昼夢でも見ているような心地である。
思わず、太ももを強くねじってみたけれど、大丈夫だ痛みはしっかりとある。
やるんじゃなかったと後悔しつつ、俺は、で、あいつらの目的はなんなのかと、一番詳しいであろうアシスタントディレクターに尋ねた。
「目的ですか?」
「そうだよ、どうして俺たちのバイクを盗んだんだ。何か目的があるんだろう」
「のじゃぁ。けど、悪魔がバイク盗んでいったいどうするのじゃ?」
「――うぅん、どういったらいいのか。トヨールはそもそも、盗む行為自体が目的というか、存在意義といいますか」
珍しく歯切れの悪いアシスタントディレクター。
まったく要領の得ない俺とのじゃ子は、ちょっと落ち着いて説明してくれと、彼女に頼んだ。
「そのですね。トヨールというのは、いわゆるこちらでいうところの、狗神とかオサキみたいなものでして」
「まず、その狗神とオサキがわからんのだが」
「のじゃのじゃ。学のない奴じゃのう。どちらも人に使役される妖怪でのう、ようは主人にあたる人間の家に富と繁栄をもたらすモノたちなのじゃ」
はん、なるほどね。
お前みたいな、厄介事しか読んでこない妖怪と違って、そういう人様の役に立つようなのも少なからずいるものなのね。
しかしどうしてそんな得意げなのか。
ぺしり、と、俺は生意気にもない胸を張るのじゃ子のおでこを指ではじいた。
「トヨールも同じように、魔術師によって使役されます。彼らは、人の家から金銭やモノを盗み出し、使役する魔術師の家に運ぶそうです」
「のじゃ。そんなあくどいことをするとは。許せん、けしからん妖怪なのじゃ」
「なんか正体分かってから強気だなお前」
しかし、その話が本当だとしたら、妙なものである。
ここはそう東南アジアの広葉樹の葉が
いったいどこに、そんな富を運ぶ相手がいるのだろうか。
「のじゃ、わかったのじゃ。あのガラクタの山は家で、ここはごみ屋敷ということなのじゃろう?」
「こんな
だいたい俺の頭を少し超えるか超えないかくらいかの山だ。
テントと言われればしっくりくるが、家と呼ぶにはちと小さい。
「いや、意外とわからんぞ。
「まぁ、三千年生きていれば、そういう文明の人たちとも出会うでしょうよ」
何世紀前の話をしているのか。
とにかく、あれを家と考えるのは、ちょっと違うような気がする。そして、人がこの近くに住んでいるという感じでもない。
だとしてあの妖怪は、いったい何をしているのか。
「のじゃ、もしかすると、あれは魔術師に捨てられてしまった妖怪なのかもしれないのじゃ」
「捨てられた?」
「のじゃのじゃ。こういう使い魔の類は、えてして罪悪感や後ろめたさが付きまとう。持て余して、捨ててしまったり祓ったりとはよくあることじゃ」
行き場を失って、それでも、その性質は変わらずに、盗みを繰り返す。
妖怪というものについて俺はあまり詳しくないが、もしのじゃ子の言う通り、それが彼らの習性なのだとしたら、なんとも悲しい話である。
「関わったからには最後まで面倒を見るのが筋であろうに。まぁ、それを文化の違うこの地の人間に言うのは筋違いかもしれんのう」
「――だなぁ、男らしくない」
ふと、のじゃ子が俺の方を見る。
どういうつみりなのだろう、何か切ない顔をして目を潤ませている。
――あぁ。
「心配しなくても、人間だろうが狐だろうが、ここまでどっぷり関わっておいて無責任に放り出すほど俺も人間やめてねえよ」
「――のじゃぁ」
「まぁ、出て行ってくれるにこしたことはねえがなぁ」
自分もあんなトヨールのように捨てられるのではないか、と、不安に思ったのだろう。なに、俺はこいつのことは嫌いだが、そんな風に簡単に切って捨てられるほど、浅い関係という訳でもない。
自分から出ていくなんて言い出さない限りには、まぁ、一緒に居てやることもやぶさかではないさ――。
「桜よ」
「なんだよ、湿っぽい話はよせよ」
「全然気づく気配がないのであれなのじゃが。その、今度はベルトを盗まれておるぞ」
メシャァッ!!
悪魔の叫び声が響いて、俺のベルトがしゅるりと抜ける。同時にズボンがずり落ちて、俺はジャングルの中で股間のアジアゾウをさらすことになったのだった。
うん、流石にここはカットしてくれディレクター。
いいもんとれたって笑顔をこちらに向けないでくれ頼むから。
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