でていけあんたは九尾さん

kattern

お仕事するのはたいへんなのじゃ編

第1話 おいなりさんフェアで九尾なのじゃ

 勤め先近くのコンビニで、俺はやけに黄色い髪をした店員に出くわした。


「ようこそ。いらっしゃいませなのじゃ」


「8番。あと、なんでお弁当コーナーおいなりさんしかないの?」


「おぉ、そこに気がつくとは、お主、なかなか見る目があるのう」


 いや気がつくだろう、そりゃ。

 普通におにぎり買おうと思って入ったお弁当コーナー。

 そうしたら、ぎっちりおいなりさんで占拠されてるんだぞ。


 どうした、って、ならんほうがおかしい。


「実は当店、今日から秋のおいなりさんフェア実施中なのじゃ」


「秋のおいなりさんフェア?」


「いっぱいおいなりさん食べていくとよいぞ。残ったら残ったで、わらわが廃棄品として引き取るから安心するのじゃ」


 ふふっ、じゅるり。

 涎をすする黄色い髪をした細眼の女。


 胸の名札には「加代さん」と、苗字もなく書かれている。

 妙なバイト雇ったもんだなここの店も、と、少し心配になる。


 とまぁそんな矢先、加代さんの肩をとんとんと、見知った顔の老人が叩いた。


「あ、店長。おつかれさまなのじゃ」


「加代くん、きみ、これどうなってるの。棚いっぱいの稲荷ずし」


「おいなりさんフェアなのじゃ。油揚げと米のありがたみを忘れてしまった現代人に、おいなりさんで大地とウカノミタマさまへの感謝を」


 ぷちり、と、知り合いのおっさんの頭の中で、何かが切れる音が聞こえた。

 あ、これ、ドラマとかでよくある奴だ。実際にあるんだなぁ。


「こんなに仕入れて売れるわけないだろ!! クビだ、出て行け!!」


「のじゃぁっ!?」


 そんな叫び声と共に、声を上げるバイトの加代さん。


 合わせて、ぽん、と、はじけるその頭とお尻。

 どうしたことか、そこにはふさふさの黄色い耳と尻尾が透けて見えた。


 なんとまぁ、九尾がクビになるとはこれいかに。

 笑えぬ状況だな、なんて思いつつ、俺はさっさと隣のレジに移動した。 


 やれやれ、きっと徹夜明けで疲れているのだ。

 そうなのだ。


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