第2話 事のはじまりはじまり その1

 事の始まりはこうである。

 六畳一間の安アパートの一階で暮らす私は、年末の大掃除で畳を上げて天日干ししていた。

 そこで、畳の下に敷いてあった新聞紙を取り去り新しい物に変えようとした時、奇妙なものを見つけた。

 それは、穴。

 部屋の、畳を捲った下に、ポッカリと空いた黒い穴。

 ライトで照らしても中は見えず、石を投げ込んでみても音すら跳ね返ってこない。


 とりあえずこの穴に釣り竿を入れて、何か引っかからないかと糸を垂らしてみた。

 何時間かやって、木の葉や千切れた草や枯れ枝などをゲットした。

 どうも信じがたいことに、向こうには木が生え草木が茂る世界か何かに繋がっているようだとと推察される。


 あと、解ったことは繰り出した糸の長さから、不用意に飛び込んでいたら多分転落死していただろうと言うこと。

 とりあえずその日は、干した畳を戻して何事も無く終わったのだった。


 次の日、仕事から帰り畳を逸ると、やっぱり変わらずに穴はそこにあった。

 六畳の畳の真ん中の畳の下、そのど真ん中にポッカリと40センチ位の口を開けていた。


 ロープを垂らして降りてみるか? しかし、降りれても登るのが無理だ。

 ハシゴは40センチの穴の真ん中に掛けたら人が通れない。

 使いみちは結局、無限ゴミ捨て穴くらいにしかならないのか?

 だが、私はチョットした気まぐれで、摘んでいたサラミを針に付けで釣り糸を垂らしてみた。

 もしかしたら、何か釣れるんじゃないかと期待して。


 糸を垂らしたが、反応が無く暇だったのでネットでショッピングサイトを見ながら、サラミとチーズをつまみにビールを飲んでいた。

 そして小一時間ほどたった時、竿がしなりビックンビックンと引っ張られた。


「フィーッシュ!」


 何が掛ったかわかんないけど、私はとりあえずそう叫ぶとリールをグリグリと回し続けた。

 糸は縒り糸のPEライン、巨バスを夢見て買った物だそう安々とは切れないだろう。

 グリグリグリグリ…ビクビクビクッ…グリグリグリ…ビクビクッ…

 大分巻き上げた時、それは現れた。


「ウサギ? なのかな?」


 見た目はウサギ、でもサラミにガッツリと食いつき、前足には鋭い爪さえ持っている。

 針が口の中に刺さったのか、ギッギッっと鳴いている。


「わぁ、ゴメンねぇ。いま取ってあげるからね」


 私は背中を押さえ、針の根本を持つとバスから針を取るように一気に針を引き抜いてやった。

 痛みのためかウサギは暴れる。

 思いのほかその力が強かったので抑えていた手からウサギは逃げ出してしまう。

 いや違う、逃げたのは一瞬だった、そこからは襲ってきたのだ。


「うわぁ」


 叫びながら手で顔を守りつつ立ち上がると、左手は熱を持った様に熱く、畳の上にはポタポタと血痕が付いた。

 ウサギの前足の爪は先程より伸びて、それで左手を切り裂かれたようだ。

 その後もギッキキャッとまったく可愛くない鳴き声を挙げながら襲いかかってくる。

 しかも、やたらと首を狙ってくる辺りが凶悪である。

 しかし、ここは私の部屋、地の利は我にあり!

 私は殺虫剤を取るとウサギ目掛けて噴射する。

 目潰しを食らって怯んだウサギの足が止まった!

 私は、すかさず手元にあった金槌の一撃をうさぎの脳天に食らわせ止めを刺した。

 金槌は年末大掃除で、飛び出ていた釘の頭を叩いてそのまま置きっぱなしになっていたのが功を奏した。


 難は去った、しかし部屋は血まみれ、そして潰れたウサギの死体と血まみれの金槌…

 ちょっと泣きそうだ。


 正月で回りの住人が里帰りしていたから良かったものの、居たら左右と上から壁ドン床ドンされてても文句言えない騒がしさだったわ。

 酔も冷めテンションダウンも甚だしかった為、穴にウサギの死体を投げ込んで今日はオヒラキとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る