異世界に続く穴を見つけたので商売をすることにした

笹垣牛蒡

第1章 完全なる闇の穴

第1話 奈々子さんの日常

 「あぁーっ、疲れたぁー」

 

 仕事からアパートに帰るなりカバンを床に放り、買い物袋から6缶入りのビールを取り出し、5缶を冷蔵庫に仕舞う。

 アジのみりん干しの袋をバリッと開けると、つまみはそれで出来上がり。


 そしておもむろに私は、部屋の真ん中の畳を捲って、壁に立て掛けた。

 釣り竿を取り出し、糸の先には会社で受け取ったアメィズンからの荷物を括りつける。

 そして、畳の下に隠れていた穴に荷物を入れると、指でブレーキをかけながらゆっくりと下ろした。

 糸がたわむのを確認したら、少しだけ巻き上げ糸を張って待機する。

 モクモク…グビッ、モクモク…グビッ。

 1時間ほどお酒を飲みつつ待っていたら、竿の先に付けた鈴がリンリンとなる。

 リールを巻き上げると、そこには穴の空いた金貨が1枚と手紙が一通。

 

「先日のロウソクランタンの代金をお支払い致します。

 燭台の作り利便性に先方も大変満足されておりました。

 ただ、希少性の低さと精密な加工がされた予備のロウソクが必須であることから、継続して使うのが難しいためこのお値段となってしまいました。

 鑑定書を同封しましたのでそちらもご確認下さい。


 鑑定書

 ロウソクランタン 1個

 希少性 1

 作り  3

 利便性 2

 芸術価値1

 査定額 金貨2枚 


 ロックロズワード商会」

 

 それを見て私はがっかりした。

 この穴の先は異世界、今私は異世界に物を送ってお金を得る商売を始めたばかりだった。

 そして現在、高く売れそうな物がないか、毎日買い物をしては穴に放り込んで居るのだ。


 簡単なように見えてそうは行かないのだ、なぜなら穴を通過する時に精密な電子機器は壊れ、電池は充電容量が0になるからだ。

 おかげでその法則を発見するまでに送った、LEDライトや腕時計、トランシーバーに電池パックなどが全滅し、商売はマイナススタートとなったくらいだ。

 今はそういったものを避けて、キャンプ用品や日用雑貨で大金に化けそうな物を探しているのだ。


 正直、楽しい。

 働いてサラリーを貰うのが楽だけど、自分で試行錯誤してお金を稼ぐのはとても楽しいし夢がある。

 今日送った荷物はいくらになるだろう? 次は何を送ろうかな?

 ああ、でもあまり買うと来月のカードの引き落しが怖いことになりそうだ。

 そう思いながらも、今日もパソコンの電源を付けると、巨大ショッピングサイトのアメィズンを見ているのだった。


「アメィズンは広大だわ」

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