祝! 奄美大島 世界自然遺産登録 ~ミドリとリコのシマ唄 “きばらんばぁ!”〜

麓清

第1回 ~いもーれ、奄美へ!~

※ これは文字媒体のラジオ放送です

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この放送では、皆様からのさまざまな奄美情報をお待ちしております。

ご意見、ご感想などがありましたらどしどしお寄せください。

なお、この放送はフィクションです。

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「皆さん、うがみんしょーらんこんにちは! 名瀬高校の奄美民謡研究部部長のリコです!」

「どうも、こんにちは。同じく奄民あまみんのヒラ部員、ミドリです。『ミドリとリコのシマ唄 “きばらんばぁ!”』の時間がやって来ました。どうぞ最後までよろしくお願いします。なお、この番組は『シマ唄の未来を考える、奄民あまみん』、奄美民謡研究部の提供でお送ります」


「で、ミドリさん、一体なんですか? このあやしげな企画は?」

「えー、これはですね。今や世界自然遺産登録が目前で、大注目の奄美大島の現役女子高生であるあたしとリコちゃんとで、ダラダラと奄美大島のシマ唄なんかについての雑談をするだけのラジオ番組です」


「えぇっ! ラジオなの、これ?」

「そう。ちなみに校内どころか、世界中に拡散されまくってるで」


「いきなり規模でっかいな! ワールドワイドだな、おい!」

視聴者リスナー数はね、だいたい一日20人くらい」


「少ないッ! ワールドワイドなわりに視聴者リスナー少なすぎ!」

「まあ、ただの女子高生のラジオ番組やからね」


「それ大丈夫なの? いろいろと」

「大丈夫。まず簡単に自己紹介からね。あたしは立山たてやまみどり、奄美大島っていう離島の高校一年生。ちなみに、元々は大阪に住んでたんやけど、奄美にはお父さんの仕事の都合で移住してきました。はい、つぎリコちゃん」


「えっと、わたしはみなみ李心りこ、出身は奄美大島の北にある笠利町かさりちょうっていうところ。奄美民謡研究部っていう部活動の部長やってます。よろしくお願いします」

「はい。ありがとうございます。というわけでね、関西女子のあたしとゴリゴリの島人しまっちゅのリコちゃんの二人でお送りしていきまーす」

「ゴリゴリってなんだよ、ゴリゴリって!」


「いやー、それにしても、すごいよね。奄美。なんたって世界自然遺産やもんね」

「まあ、まだ諮問機関の勧告って状態だけどね。実は以前にも奄美は世界自然遺産登録を目指していたんだよね。でも、その時は登録勧告の延期が妥当っていうことになって、そこからの再挑戦でついにって感じだよ」


「あれからの涙ぐましい努力が実を結んでんな。素手で畑を耕したり、サメのいる海で泳いだり……」

「少年漫画の修行か! そうじゃなくて、世界自然遺産として登録するにはまだいろいろと課題が残ってたってことだよ!」


「まあ、でもやっぱり奄美って海とかめっちゃ綺麗やもんね。あたし、初めて奄美に来て何にびっくりしたって、たいてい奄美って飛行機で来るやん? ほんで空港に着陸する寸前とか、もう、海がきれいすぎるのよ。なに、この水色! ってなる。しかも、墜落するんちゃうん!? ってくらい、海面ギリギリのところ飛んでるわけ。で、いきなり窓の外に滑走路ニュッって! あれには正直ちょっとびっくりしたわ」

「……あー、確かに着陸の瞬間はなんともいえない感動があるね、あるある」


「ちなみに、リコちゃんは飛行機乗ったことあんの?」

「……びっくりするといえばさ、奄美ではびっくりすると『はげー』っていうんだよ」


「なんか強引に話題変えへんかった、今? リコちゃんさては高所恐怖症か?」

「うちは農家だから長期間旅行に行く機会がないんだよッ!」


「あ、そう? で、はげーね、はげー。はげーってはじめて聞いたら本土人やまとっちゅは絶対驚くよね、はげー」

「はげはげいうな! ただでさえ少ない視聴者が減ったらどうするんだよ!」


「増えるかもしれへんやん、1%くらいの確率で!」

「なんで初っ端から、わずかな希望に賭けてるんだよ!」


「せやけどリコちゃん、ホンマに現地の人って『はげー』っていうの?」

「本当にいうよ。女子高生が子犬とか見つけたとするでしょ? そしたら『はげー! 見てみて子犬! はっげーかわいいッ!』ってカンジ」


「なるほど、頭の薄いおっちゃんとすれ違ったり……」

「こらーやめろ! はげーから話題変えるぞ!」


「えー、リコちゃんとの会話の内容に関するクレームの類いはご遠慮願います」

「絶対クレームつくから……」


「でさ、リコちゃん。奄美って海がきれいっていう割に、広い道路ってたいてい山の中走ってるやん? 空港から市内に向かうときも、しばらくは道の両側畑っぽいやん? さっきの海はどこ? みたいな」

「まあ、防風林とかもあるからな」


「で、しばらくしてから、道路の右側の丘の上に巨大建造物がいきなり現れたッ! って思ったら、今度は突然左側がばっと開けて、海ッ! って、あれ運転してても危ないと思うわ」

「ミドリ運転しないだろ……ていうか、運転してる人はちゃんと集中してるから」


「で、あの巨大な建物は何なん?」

「ん? ミドリ知らなかったっけ? 奄美パークだけど?」


「だけど? って、当然みたいにいわれても。奄美大島の歴史や文化を展示や映像を通して感じることができ、独自の風習、民俗、シマ唄や文化について、観光客はもとより、島の次世代を担う子どもにも分かりやすく理解してもらう趣旨で構成された施設である、くらいいってくれへんとわからへんやん」

「めちゃくちゃ詳しいな! ミドリはもしかして奄美パークの職員か?」


「それはそうと、奄美パークに展望台あるやん? あそこ登ってみたいわ。景色よさそうやし」

「ちなみに、奄美パークって元の奄美空港に建ってて、あの展望台は当時の管制塔の跡地なんだよ。ちなみにマップの衛生写真でみたら、うっすらと滑走路のなごりが見えるから、って放送中にスマホいじるな!」


「ホンマや! 知らんかったぁ、なんかリコちゃんに知識ひけらかされると悔しいわ」

「地元民バカにしてるのか?」


「そういえば、ちょっと話戻すねんけど」

「どうぞ」


「はげーってさ」

「そこに戻すな!」


「違った、空港。奄美空港」

「うん。空港ね、それで?」


「飛行機降りて、手荷物受取所に降りる階段にでかでかと『いもーれ奄美へ!』ってあるんよ」

「あるね。到着ロビー出ても巨大ないもーれあるね」


「あれって、ながとも………」

「違うから! しかも古いから! いもーれってのは奄美の方言、つまり島口しまぐちで『いらっしゃい』とか、『ようこそ』ってことな」


「沖縄のめんそーれみたいなもんやね」

「めんそーれは意味うつらんけど、いもーれはわかるだろ? シマ唄の歌詞でも良く使うし」


「いや、わからんし。つーか、すでに『意味うつらん』がわからんし」

「意味うつらんっていわん?」


「まずいわへんよ。それより、いもーれもそうやけど、奄美の言葉って単語だけ出されても大和人やまとっちゅには絶対、意味わからんやん」

「まあ、たしかに。あたしたちはシマ唄で島口を使うからわかるけど、島でも若い子とかだと方言知らない子いるしね」


「でね、あたし気づいてんけど、いもーれの語源って、『参る』なんちゃう。参るがなまって「もーる」に変わって、そんで、そこに『居る』の「い」をつけた「い、もーる」が使役動詞に変化して「いもーれ」になったんよ……知らんけど」

「なんでもソレを付けたら許されると思うなよ。まあ、でもミドリのいうことは一理あるかもな。奄美の島口で『足』のことを『ハギ』っていうんだけど、これも古いヤマト言葉らしいし。その証拠にスネの裏側を『ふくらはぎ』っていうだろ? あれは足の膨らんだところって意味だし」


「ふくらハゲ?」

「いい加減ハゲから離れろよ! つうか、ミドリ。ぐだぐだ喋るって、ホンマにグダグダなままでそろそろ時間やばいんだけど!」


「ホンマやね。巻きの合図でとるね、じゃ、いったんCMでーす」

「ねーから、CM! それより、そろそろ締めの挨拶しないと!」


「はい、すんませんね。もうグダグダでね。 こういう感じでちょっとずつあたしとリコちゃんで奄美についてのシマ唄の話とか方言とか、ちょっとした小ネタとかやるんでね。 また良かったら聞いてみてね、20人の視聴者リスナーのみなさん!」

「もうちょっと増やそうよ! 視聴者リスナー!」


「そういうわけで、第1回目の『ミドリとリコのシマウタきばらんばぁ!』いかがでした?」

「完全に視聴者リスナー無視しておいて、いかがでしたとか、どの口がいうんだよ……」


「最後にリコちゃん、ひとつ質問やねんけど」

「はいはい、なんでしょ?」


「……きばらんばぁって、何?」



――この番組は『シマ唄の未来を考える、奄民』奄美民謡研究部の提供でお送りしました。


※きばらんばぁ・・・奄美の島口で「頑張らなきゃね!」といった感じ

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