第9話

首に噛みつかれる瞬間、目をつむった。何秒か待っても痛みが来なかった。目を開けた。目の前に黒い球体があった。俺の背丈くらいある。獣使いが目を見開いていた。

「なんなんだね、それは」

俺は答えなかった。答えられなかった。そもそも、俺が出したものなのかわからない。頭が真っ白になる。横にずれた。でも、球体は一緒に移動してくる。元の位置に戻る。球体も、元の位置に戻った。やっぱり、これは俺が出した球体らしい。

「コントロールできてないのだな」

獣使いは不敵に笑った。獣が現れる。5頭。一斉に襲ってきた。でも、獣たちは球体に吸い込まれて消えた。男は舌打ちした。また、獣が現れる。今度は、いろんな方向から襲ってきた。でも、球体は逐一それに反応して、俺に噛みつく前に獣を飲み込む。ヨーヨーみたいだ、と場違いなことを思った。

「コントロールできてないくせにいい技を持ってるじゃないかね」

そう言って、男は俺に背中を向けた。

「どこに行く」

「命が助かったと思うんだね」

そう言って、男は歩き出した。サイレンはまだ鳴っている。とりあえず、部屋の中を歩き出した。球体は消えない。特に何もない部屋だった。丸テーブルとイスがあるだけだ。カレンダーに近づく。やっぱり、1年前の日付だった。これで、つい最近になって獣使いが襲ってきた理由がわかった。前回過去に来たときには、俺たちは会っていなかった。今、ここで会ってしまい、1年後に探り当てられる。もう一人の男がいなかったのは、俺が殺したからだった。

さらにカレンダーに近づくと、壁が消えた。球体が勢いよく俺のほうに向かってくる。俺は反射的に避けた。球体に触れた部分が消滅している。さっきの動きは、俺がイメージした動きだった。残っている壁を消すように、いろんな方向に動かすイメージ。すると、球体はその通りに動いた。少しうれしくなる。

球体を後ろに連れてそのまま進んだ。その先には、資料が放置されている部屋があった。試しに一枚、手に取ってみた。意味の分からない単語が書いてあった。内容が理解できなくて、すぐに手放す。

もう一枚手に取ってみた。「漆黒の扉を開くもの、世界を破壊する力を手に入れる」と書いてあった。やっぱり意味がわからない。

ここから出ることにした。でも、その前に球体を振り回した。さっきのことを思い出しながら。資料は球体に飲み込まれて、気分が少しだけすっきりした。壁に穴を開ける。足を踏み出した。そのとき、後ろから声がした。

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