熊谷部長の昔話3
「ねえ熊谷くん。今度来るのって、明後日だよね?」
ある日のこと。その日の彼女はなんとなく雰囲気が違っていて、少し気になってはいたけど、いつも通り振る舞おうとしていたようだから、私も気にしないよう努めていた。
ちなみにその頃には通院はとっくに終わってたんだけど、彼女のおみまいのために通院してた時と同じ曜日に病院に通っていた。
「明後日は来ても会えないかも。ごめんね」
もしかして退院するのかもしれない、一瞬そうは思ったけれど、彼女の表情はそんなそれではなかった。
「明後日、手術するんだよね。熊谷くんが来る時間には終わってる予定なんだけど、むずかしい手術らしくて、たぶん長引くと思うんだ」
あはは、と笑う彼女の表情はどこか悲しげだった。私はなんて返したらいいか分からなくて、彼女からもらったジュースを飲んで間をごまかす。
「だから、ごめんね」
貴女が謝ることではない、手術、うまくいくよう祈っています――全部言葉にならなくて、私は小さく首を横に振るだけだった。
「もー、そんなしんみりしないでよ。……そうだ、シュークリームもらったから、一緒に食べよ!」
熊谷くんと一緒に食べるために取っておいたんだ。
それでも明るくいようと努める彼女に、やはり私は言葉をかけられなかった。
そして彼女の手術当日。午後からの予定だと彼女は言っていたけれど、その日は朝からなんだかそわそわして落ち着かなかったのを、今でもよく覚えている。
今、彼女はどんな気持ちでいるのだろう。授業をさぼってしまおうか、そんなことまで考えるほど、私の頭の中は彼女のことでいっぱいだった。
授業が終わると、私は駆け足で病院へ向かった。彼女の手術が成功していますように、終わっていますように。そんな想いを胸に抱きながら。
彼女の病室へまっすぐ向かうと、彼女はいた。どうやら手術は長引かずに終わったらしい。ほっとする私に、麻酔でもうろうとしている彼女が弱々しく手を振ってくれた。今思うとそんな姿なんて他人に見られたくないだろうし、そこは幼いながらに気を遣えばよかったとあとから思ったけどね。
それから彼女は順調に回復していった。日に日に笑顔も増えていって、また前のように話せるようになった。今日は学校でこんなことがあった、そうそう昨日家で――そんな些細な話にも笑顔で相槌を打ってくれる彼女が私にはとてもうれしくて、その時間は楽しくて。毎週楽しみだったよ、彼女に会いに行くのは。
――けれど、そんな日々も長くは続かなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます