第3話
当然なんの問題もなく終わるはずだった。いや、終わらせるつもりだった。ところが十日後、再び舞い戻ってきた再検査を知らせる手紙。しかも今度は入院して精密検査だ。
「はっきりと断言はできないのですが」
医者はそう前置きしてから説明を始めた。
「場所が場所だけに、手術では取りきれない可能性があります。できれば、化学療法との併用を」
何を言いだすんだ、この医者は。
「はあ?」
きょとん、とする僕。そのあと、すぐにハッと気づいて、あわてて質問をした。
「あの、それって何日かかります? 一日で帰れますか? これでも忙しい身なんです」
「詳しく検査をしてみないことには、なんとも」
医者はすまなさそうに肩をすぼめる。
「最善をつくします。一緒にがんばりましょう」
ドラマかなんかで聞き覚えのある台詞しか返ってこなかった。
「そうですか……」
僕はがっくり肩を落とす。
そんな僕をよそに、医者は淡々とした調子で話をすすめた。
「明日にでも入院の手続きをとってください。あなた、一人暮らしですか? 保証人が必要です。ご家族の方がよいでしょう。詳しいことは、一階のロビーにある受付で――」
しだいに医者の声が遠のいていく。
ナンデナンダ。
ナンデ、ボクガ、コンナメニ。
言えない気持ちが胸の奥でざわざわしてる。
ざわざわ、ざわざわと。
ドウシテ、ボクダケ。
コンナメニ、アウンダ。
なんだってんだよ。これからってときに――。
やっとの思いで声をふりしぼる。
「……わかりました。よろしくお願いします」
それだけを言って頭を下げると、僕は診察室をあとにした。
病院の外へ出たとたん、あまりの陽のまぶしさに目がくらんだ。なんていい天気なんだろう。僕がひどい目にあっているというのに、空はこんなにも青いなんて。
僕に関係なく世界はまわっている。
うそだ、と思いたかった。
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