第七章 真・烈風斬  ──または、その力を多くの人を守るために

第七章 第一話


 坂本のぼうな行動に、かんぱん上で真っ先に反応したのは芳佳だった。


『無理です! 坂本さんにはもうほう力が!』


 芳佳はインカムで坂本に呼びかける。


「ふっ、知っていたか、宮藤」


 みをかべる坂本。


「そうだ。はや、私はやっと飛ぶだけの魔法しか使えない」


「分かっているならやめなさい!」


 ようやく追いついたミーナが、じゆうこうを向けて坂本の前に立ちふさがる。

 ミーナが坂本に銃を向けるのはこれが2度目。

 どちらも、坂本の身をおもんぱかってのことだ。


「ミーナ……」


 坂本はホバリングする。


しようもどりなさい」


「私が行かねば、だれが大和を動かせるんだ?」


「!」


 静かにてきする坂本の言葉に、ミーナはハッとなる。

 そう。

 もし起死回生の一手があるとすれば、そのこまは、坂本以外にあり得ない。

 坂本はミーナに急接近して、銃身をつかむ。


「皮肉なものだ。まともに戦えなかった私だけが、ただひとり魔法力を残すことになったのだから……」


「少佐……」


「ミーナ、私はうれしいんだ。こんな私にもまだできることが残っている。501にいることができる。11人の仲間でいられる」


「美緒」


 ミーナはもう、止めることができなかった。


「……お願い。必ず帰ってきて。これは命令よ」


りようかいした! 行くぞ、でんかい!」


 坂本は大和に向けてしようする。

 もう一度帰ってくるために。


「……済まんな、宮藤。私は結局、戦場でしか生きられない武士なのだ。それ以外の生き方は、私にはない!」


 そうつぶやきながら大和に接近する坂本に向け、しゆうのようにネウロイのビームが降り注ぐ。


「紫電改! 大和まででいい! 私を連れていってくれ!」


 激しい光が坂本の視界をおおった。



 天城甲板上のウィッチたちが、坂本の姿をにんできなくなってほどなく。

 艦橋のクルーが、魔法力の流れが大和内に観測されるのを杉田に報告していた。


「魔導ダイナモが反応!」


「坂本少佐か!」


 身を乗り出す杉田。


「魔導ダイナモ起動確認! 出力上昇中!」


「やりました、かんちよう!」


 あんの表情を見せる樽宮副長。


「そうか! 最早こちらでえんかくせいぎよはできない。後は君にたのむしかない、坂本少佐……」


 杉田は空をあおぎ見た。



 大和の艦橋内には、システムに直結し、魔導ダイナモに魔法力を注ぐ坂本の姿があった。


「そうだ! もっとだ!」


 出力はレッドゾーンに近づき、坂本の身体がネウロイにしんしよくされてゆく。


「そうか。お前は私を必要としているのか? いいだろう。行くぞ、大和!」


 目を閉じ、意識を集中する。


「動け!」



「出力80%! ネウロイ化しようめつまで、あと30秒!」


 カウントダウンを開始する天城クルー。



 大和しゆほうの照準が、ネウロイの巣をとらえた。


「これが、武士の生き様だ!」


 坂本がさけぶと同時に、出力計の針がり切る。


てえええええええっ!」


 ドウッ!

 せいしやされる大和主砲。

 ほうだんはネウロイの巣にとうたつすると、かつて誰も目にしたことのないほどのだいばくはつを起こした。

 爆発は一気にネウロイの巣を包み込み、さらに大和の艦橋をも巻き込む。

 キラキラと散るネウロイのへん


「ネウロイの反応……消滅」


 サーニャがどうしんで確認する。


「坂本さんは?」


 大和の姿を探す芳佳たち。


「……あの爆発では、たとえ大和といえども」


 艦橋の樽宮副長も、あきらめの言葉をつい口にする。

 その時。


「レーダーに反応アリ! 大和です!」


 技師が顔を上げて報告した。


「おおっ! あの爆発の中で!」


 信じられないといった表情の杉田。


「あっ!」


 かんぱん上でも、ハルトマンが大和の姿を指さしていた。


「やったぞ!」


 バルクホルンがかんせいを上げる。


「大和が無事なら、しようも無事だな」


 うらないでも予測不可能なこの結果に、ほっとするエイラ。

 ペリーヌは泣きくずれ、シャーリーは会心のみをかべる。

 だが。


「……?」


 ふと、大和を見上げていたミーナの笑顔がくもった。


「おかしいわ。ネウロイ化が解けてない」


「えっ?」


 見上げる芳佳。

 確かに今の大和のあの姿は、ネウロイ化したままだ。


「ネウロイの反応……復活……」


 サーニャの魔導針が、再びてんめつを始める。


「何だって!」


 バルクホルンは息をむ。

 大和の背後に現れたのは、きよだいなコア。

 コアは自分のまわりに六角形のはんようネウロイを発生させ、さらに巨大になってゆく。


「みんなせて!」


 ミーナが叫ぶと同時に、コアからビームが発射された。

 強力なビームは洋上をぎ、すさまじい水蒸気を上げ、波を巻き起こし、戦艦を真っ二つにする。


「戦艦がいちげきだ!」


 あ然となるハルトマン。


「何てこうげき力なの!」


 ミーナもこれほどのビームをの当たりにするのは初めてだ。

 その時。


「あ、あれは! 坂本さん!」


 芳佳が、コアの表面に半分呑み込まれている人間の姿に気がついた。


「少佐を救え! 主砲斉射!」


 かんたいは全艦一斉攻撃を試みるが、コアはシールドを展開し、これを寄せつけない。


「シールドだ!」


 思わず目をこすろうとするハルトマン。


「ネウロイがシールドを張っただと!?」


うそだろ!」


 バルクホルンとシャーリーも、我が目を疑う。


「あのシールドの形は……」


 ミーナは持ち前のぶんせき能力と推理力で、じようきようあくした。


「扶桑のシールド……まさか、坂本さんが!」


 芳佳も同じことに気がつく。


ちがいないわ! ネウロイは坂本少佐の魔法力を利用しているのよ!」


 ビームはようしやなく艦をげきちんしてゆき、そのしようげきが天城にも伝わる。


「対空せんとう準備!」


「戦闘員以外は内部に退たい!」


「負傷者はいないか!」


 乗員は必死に走り回っているが、ウィッチたちは立ちくすことしかできない。


「このままじゃ、艦隊はぜんめつしてしまうぞ」


 エイラの声にもいつものゆうはない。


「私たちにできることは?」


 ミーナを見上げるサーニャ。


「何もないわ。ほう力をしようもうしきった私たちには……」


 しかし。


(私たちに……できること!)


 芳佳はとつじよ、走り出した。


「私に……できることは……!」



 一方。


ばんさく尽きたか……」


 艦橋では、杉田がこのさんじようたんそくしていた。


「艦長! 中央エレベーターが作動中! だれかいます!」


 その杉田の注意を引いたのが、樽宮副長。

 樽宮は、前にも同じようなことがあったことを思い出し、胸が熱くなるのを感じる。


「何!」


 り上がってくるエレベーターに目をやる杉田。

 そこに立つのは、しんでんを身につけた芳佳だ。


「何をしている、宮藤!?」


「芳佳ちゃん!」


 おどろくバルクホルンやリーネたち。


「私、飛びます!」


 芳佳は決意の表情を見せる。


「無理よ! あなただってもう魔法力は残ってないのよ! 仮に飛んでも、あのネウロイはたおせないわ!」


 と、ミーナ。


「倒せます! 真・烈風ざんがあれば!」


「えっ! 真……烈風斬……?」


 それは、坂本さえもとくできなかったおう

 芳佳に使えるはずもない必殺わざだ。


「そ、それはしようの技でしてよ!」


 ペリーヌもてきする。


「それに烈風丸は、もうないのよ」


 ミーナは告げた。

 あのとくしゆな軍刀でなければ、秘奥義にえ切れるはずもない。


「あります! あそこに!」


 空を、大和を見上げる芳佳。

 坂本の手をはなれた烈風丸は、大和の艦首にき立っていた。


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