第二章 翼をください ──または、スランプの親友に捧げる詩
第二章 第一話
波の音。
芳佳はこの日、夜明け前に目が覚めた。
早起きは三文の得。
もしやと思い、海岸に出てみると、やはりそこには朝練に
光る
手にした
「烈風
坂本が刀を
「すごい……」
息を
「宮藤」
芳佳の気配に気がつき、坂本は振り返る。
「
「これでは
芳佳の賞賛の言葉にも、不満そうな表情を
「真・烈風斬……?」
「ああ、
「秘奥義?」
「それを
「坂本さん、私にもその
奥義を超える秘奥義。
それを会得することの困難を知らない芳佳は
「駄目だ。お前みたいなヒヨッ子には、この技は使えない」
坂本は海を見つめる。
秘奥義、真・烈風斬。
確かに比類なき強力な技だが、それを使う者は……。
「
「無理だ」
話はここまでと言うように、坂本は刀を
* * *
今朝の食事当番はシャーリーとルッキーニだった。
「お〜、宮藤、
「今日はズッパディファッロとボンゴレビアンコ、あたしたちが作ったんだよ」
と、キッチンから顔を出す二人は得意満面。
特に、アフリカでいつもルッキーニに食事を作っていただけあって、確かにシャーリーの料理のスキルは上がってきているようだ。
だが。
「うん」
席についても芳佳はどこか上の空だった。
「どうしたの、芳佳ちゃん? 具合でも悪いの?」
「う、ううん。
「だったら食え! たとえ腹が減ってなくてもだ! エネルギーを
正面の席に座るバルクホルンが
「は、はい……」
「エネルギーって……」
せっかく
という顔になるシャーリー。
「あ〜も〜! 朝っぱらから軍人の説教なんて
ツッコミ役のバルクホルンをからかうボケのハルトマン。
「おい、ハルトマン、それがカールスラント軍人のいう
「まあた始まった」
「いいか、ここはブリタニアと
(……そうだ)
バルクホルンの言葉にハッとなる芳佳。
(もっと私も頑張んないと。きっと私が
「いただきま〜す!」
芳佳は頑張るために、エネルギーを摂取することにする。
……
* * *
(速い、あの子! 前より速くなっている……でも、スピードなら、私のストライカーの方が上!)
この日の
もちろん、
「もらった!」
トリガーを
照準から芳佳の姿が消え、ペリーヌの背後に回っていた。
「左
「今だ!」
今度は芳佳のチャンス。
「まだまだですわ!」
と、ペリーヌが
「えっ!」
「外した!? この距離で!?」
信じられないが、起死回生の機会をペリーヌは
後方に回り込み、ペイント
「ああっ!」
ピッピーッ!
リーネのホイッスルが
「勝負アリ! ペリーヌさんの勝ち!」
リーネは宣言する。
「ま、まあこれくらい、当然の結果ですわね」
相手のミスに付け入ったようで
ペリーヌは勝ち
「変だなあ? 急に力が
こんなことは初めてで、芳佳は首を捻った。
「宮藤さん!」
「あ、はい!」
「何ぼさっとしているんですの! あと2戦! いきますわよ!」
これでは勝った気がしないペリーヌは、芳佳を
「はい!」
残り2戦にヤル気を見せる芳佳。
だが。
結果は3戦全敗。
全く調子の出ないまま、模擬戦は
少しして。
「そうか……ペリーヌもそう感じたか」
坂本はペリーヌからの報告を受けていた。
「はい。今日の宮藤さんの動き、絶対変でした。その、いつものキレがないというか……」
自分が宮藤を戦友として認めていることを口にするのは、ちょっと
だが、ペリーヌは自分で思っているよりもずっと芳佳が好きなのだ。
「分かった。報告してくれてありがとう。
ペリーヌが本当は
「い、いえ、私は部隊の戦力低下につながる要因はひとつでも
真っ赤になるペリーヌ。
「ふむ」
芳佳の不調に思い当たることのない坂本は、確かめる必要を感じ始めていた。
数時間後。
芳佳のストライカーに何も異常がないことを点検で
「至って健康ですね」
様々な検査を行い、最後にほぼ平らな胸に
「そうですか……」
ならば、何が原因で芳佳が調子を落としているのか、いよいよ分からなくなる。
「急に健康
まだ特に自分が不調だという自覚がないのか、芳佳は坂本に
「いや、定期的に部下の健康状態を
と、坂本。
「はあ……でも、どこも異常ないんですよね?」
「ええ、まったくどこにも異常ありません。理想的な健康体ですね」
「へへへ。実は私、今までに
芳佳、何とかは風邪ひかないという
「……おい、そこで何やってる?」
坂本は
「す、すいません」
おずおずと姿を現したのは、リーネとペリーヌだ。
どうやら気になって、こっそりと
「あ、リーネちゃん、ペリーヌさん」
「芳佳ちゃん、どっか悪いの?」
心配を顔一面に表して
「ううん、ただの健康診断。全然、何ともないよ」
「はあ、よかった〜」
「まったく。健康管理も、ウィッチとしての大切な任務のひとつですのよ」
ペリーヌはホッとするが、もちろん、それを口にする気はない。
「だから、何ともないって」
そんなにみんなに言われると、芳佳もだんだん不安になってくる。
と、そこに。
「何ともないなら、なおさら不安だな」
どこからともなく、バルクホルンが現れた。
「バルクホルン……、どこにいたんだ?」
一応、
だが。
「お前がまともに飛べていないのは確認が取れている。その原因が分からない以上、お前を実戦に出す訳にはいかん」
バルクホルンは、
「ほんと、芳佳ちゃん?」
ペリーヌと
だが、一番の親友を自負するリーネはショックを受ける。
(私、どうして気づいてあげられなかったんだろう? お友だちなのに……気づいてあげられたはずなのに……)
「
リーネは芳佳の顔を見つめる。
「……」
そこまでのこととは思っていなかった芳佳は、言葉を失う。
「不調の原因が明らかになるまで、基地待機を命じる!」
「やです! 私は飛べます!」
上手く飛べなかったのは、ちょっとした油断。
自分は
頑張れるはず。
そう思う芳佳は、
「これは命令だ!」
バルクホルンももちろん、芳佳が役立たずであるとか、必要ないと思っている訳ではない。
それに、同じことを言い
「命令……」
それでも、芳佳は
このまま、もう戦えないとしたら……。
父との約束が守れなくなる。
その力を多くの人を守るために。
それが、芳佳が父である宮藤博士の墓前で
「そうだな、その方がいいだろう」
「そんな……」
「芳佳ちゃん……」
宮藤がどれほどみんなを守りたいと思っているかを知るリーネだが、今は、その
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