第一章 第二話


 少しして。

 フラフラと飛んできた虫は、かぐわしい残りにでもかれたのか、リーネの服が入ったかごもぐり込んだ。

 やがて、じゆうぶんにリフレッシュした芳佳たちがガラガラととびらを開け、上がってくる。


「あ〜、気持ちよかった」


 はだを上気させた芳佳は、自分の服の籠に向かった。


「あとでシャーリーといっしょにまた来よっと」

 とは、芳佳の平らな胸だけではみ足りないルッキーニ。


「サウナもいつしよにあるのがいいな。サーニャにも教えてやらなくっちゃ」


 エイラも満足した様子。


「まったく! どうしてあなた方はしずかに入れないんですの?」


 全然落ち着けなかったペリーヌだけは、こめかみをヒクヒクさせている。

 そして。


「? ……んっ!」


 リーネは制服下ズボンを身につけながら、みようかんを覚えていた。


「えっ、何?」


 くすぐったいような、それともちょっとちがうような不思議な感覚。

 そう。

 あの虫である。

 何か入ったのか、と指をそうにゆうして探すが、虫は制服下と肌の間を動き回り、つかまらない。

 それどころか、虫はリーネの指をけ、女の子の大切な秘部へと移動する。


「いや〜っ!」


 流石さすがにもう、ぐしかない!

 決断をなくされるリーネ。

 だが、ちょうど制服下に手をかけたところで、しゃがんでいる芳佳の視線の先に自分のおしりがあることに気づく。


「どうしたの?」


 と、芳佳。


「!」


 反射的にリーネは制服下をグイッと引き上げていた。

 虫はさらに危険なゾーンへ!

 ペナルティエリアまでもう少しだ!


「ズ、ズボンの中に、何かいるの!」


 たまらずリーネは芳佳にうつたえる。


「あれ、虫だ?」


 芳佳はモゾモゾと動くものに気がついてつぶやいた。


「虫!? い、いやあああああああああああっ!」


 それまで、肌をっていたものが虫だとはにんしきしていなかったリーネは、その場にくずれ落ちる。


「リーネちゃん!?」


 助け起こそうとする芳佳。


「どったの?」


 のぞき見るルッキーニ。


「リーネちゃんのズボンの中に虫が……」


「虫!」


 ルッキーニのひとみかがやく。


「な、何ておぞましい!」


 ペリーヌの方はけんかんあらわにする。


「はあ? 何だよ、虫ぐらいでさわぐぅ……ううううっ!」


 いつの間にリーネのアソコから移動したのだろう?

 虫はエイラのストッキングの中へと、深く静かにせんこうしていた。


「うぐっ! これは!」


 未知の感覚を覚えるエイラ。


「エイラさん?」


 芳佳はり返る。


「ズボンの中に……」


 チクチクと、想像するだにずかしいあの場所を責める虫。


「何かが……」


 もだえしながらエイラは訴えた。


「き、きっと虫です!」


「虫〜っ!」


 おびえるリーネに、はしゃぐルッキーニ。


「見せて!」


「来るな!」


 危険を察知したのか、恥ずかしいのか、あと退じさりしながらエイラはストッキングを脱ぐ。


「お、おぞましい」


 そのせつまった様子に、ペリーヌはきようする。

 半分引き下ろされたストッキングから、虫が飛び立つ。


「あ、あの虫!」


 ルッキーニはそれが、今朝自分が捕まえた虫であることに気がつく。


「ズボンに虫が入るとか、みなさんがだらしないからですわ。しっかり着る時に気をつけていれば……ひぃっ!」


 虫はこうげき目標をペリーヌのしんじゆはだに定め、そのタイツにもぐった。


「いやああああああああああああっ!」


「ペリーヌさんに行った!」


「あたしの虫〜!」


 ルッキーニは光る虫の所有権を主張する。


「ち、ちがいます! ズボンに入ってなど……」


 ついさっき、だらしがないからだと非難した手前、簡単に虫のせんにゆうを認めづらいペリーヌは、精いっぱい平静をよそおうが……。


「あああっ! そんな、そこは〜!」


 これで虫がいなければ、もっとおかしな人である。


いで!」


 と、ルッキーニが言ったのは、虫が欲しかったから。


「ペリーヌさん、脱がないと!」


 芳佳がそう言うのは、じゆんすいに心配してのことだ。

 だが。


「わ、私は平気ですからああああああっ!」


 なおも平気な振りを続けるペリーヌ。


 ……ある意味、立派である。



  * * *



 ちょうどそのころ


「ペリーヌにはああ言ったが、久々に入浴するかな」


 タオルをかたにかけ、坂本がだつじように入ろうとしていた。


「ん?」


 次のしゆんかん

 ルッキーニが、ズルッとペリーヌのタイツと制服下ズボンを引き下ろした。

 おへそからなめらかでつややかな下腹部、こしぼね

 そして、あのふっくらとした秘所が坂本の眼前にさらされる。


「ペリーヌ……?」


 こおりつく坂本のすぐわきを、虫がブ〜ンと通り過ぎてゆく。


「しょ、しよう……!」


 凍りつくペリーヌ。


「坂本さん……」


 説明に詰まる芳佳。


「……出た!」


 そして、虫を追いかけるルッキーニ。


「いやああああああああああっ!」


 ペリーヌの悲鳴は、基地中にひびわたる。

 プツン。

 虫がまた電線に止まり、脱衣場は真っ暗になった。



  * * *



「くすん」


 ペリーヌはもう立ち直れないと言いたげな表情で、こうしつすみにしゃがみ込んでいた。


「まったく、何かと思ったら、たかが虫ぐらいで」


 対応に困り果てる坂本。

 ペリーヌが泣いているのは虫のせいではなく、坂本の前でしゆうたいを晒したからなのだが、そんな複雑なおとごころ、坂本には察することができる訳がない。


「でもさ、ズボンの中にその虫が入ってさ、モゾモゾってさ……」


 あの忘れがたいかんしよくを、エイラはうつたえる。


「そうですわ!」


 立ち上がったペリーヌのいかりとにくしみは、なぞの虫に向けられた。


「あのしようわるむしのせいで私がこんな目に! 絶対に許しませんわ!」


「あたしの虫だかんね」


 ルッキーニはあくまでも、虫をつかまえて自分のものにしようともくむ。


「よし! 捕まえよう!」


 と、みんなをわたす芳佳。


「ええ〜」


 明らかにいやがるリーネの意見は無視され、こうして謎のモゾモゾかんむしとうばつたいが組織された。



  * * *



 同じ頃。

 バルクホルンはバルクホルンで、いまだにゴミとかくとうしていた。


「おりゃあああああっ!」


 固有ほうかいりきを使って、大量のゴミをハルトマン側に押しやるバルクホルン。


「今だ! ジークフリート線を閉めろ!」


「はいはい」


 と、ハルトマンは軽い調子で仕切りを閉じる。


「ふう、まったく」


 これでやっとひと息。


「何て一日の始まりだ。それもこれも、お前が部屋を片づけないからだぞ。おかげおおさわぎだ」


 大騒ぎしていたのは、主にバルクホルンひとりだったが。


「……ん?」


 二人はようやく、外での大騒ぎに気がついた。



  * * *



「あっち行った!」


「こっち!」


ちが〜う!」


 討伐隊は虫を追いかけ、とうほん西せいそう、右往左往していた。


「何を騒いでいるんだ!?」


 バンッととびらを開くバルクホルン。


「あ、バルクホルンさん……」


 芳佳たちは急停止する。


みやふじ、宿舎のろうで騒ぐのは、軍規はん以前に、人としてのれいに反するぞ!」


 説教を始めようとするバルクホルンの背後に、虫が回り込んだ。


「虫が!」


 と、ルッキーニ。


「虫がどうしたんだ!? 大体、こんな騒ぎをだれがああああああああああっ!」


 キュッとしまったおしりの間にもぐり込んだ虫は、さわさわとアノ部分にれる。


「あ〜、たいのズボンに入った!」


「バルクホルンさん!」


 騒ぎ出すルッキーニと芳佳。


「静まれ!」


 顔を紅潮させながらも、対処法を思いつくバルクホルン。


「こういう時は冷静に……」


 そこに山があるから山に登る。

 制服下ズボンがあるから虫がもぐり込むのだ。

 ならば……。


「こうだ!」


 バルクホルンはだいたんにも、下半身をおおっていた可愛かわいらしい布をバッとぎ捨てた。


「!」


 神秘な部分があらわになり、芳佳は目を見張る。


「もらった!」


 お尻をう虫を発見したハルトマンが、背後からきようしゆう

 エースの名にじないしゆんびんな動きで、虫をたたつぶそうとねらう。

 だが。


「ぐわっ!」


 虫はらしいせんかい性能でスパンキングをかわし、平手はペッチ〜ンとお尻をちよくげきした。


「……あ、失敗」


 虫は、ブ〜ンとこの場からのてつ退たいを開始する。


げた!」


「待て〜」


 追いかける芳佳たちとうばつたいの面々。

 バルクホルン、ほったらかしである。


「……お、お前らなあ〜っ!」


 バルクホルンは虫の、というか、エッチ虫討伐隊のあとを追った。



  * * *



 そんな討伐隊の活動を知らず……。


「ふう」


 しつしつのミーナは、ようやく書類仕事を終えていた。


「とりあえず、今日の分は終わったわね」


 と、かたを叩くその仕草は、ごろの気苦労から来るあいしゆうを感じさせる。


「そう言えば、がおで温まるといいって言ってたわね」


 坂本の助言に耳をかたむけ、ミーナは浴場に向かうことにした。

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