エピローグ

エピローグ



 エイラとサーニャは手をつないだまま、ゆっくりと落下していた。


「……」


「?」


 エイラが何か話そうとしているが、サーニャには分からない。

 真空中で声が届かないのだ。

 やがて、エイラは自分の額をサーニャの額にコツンとくっつけた。

 これなら骨伝導で声が、おもいが伝わる。


「聞こえるか?」


 エイラは言った。


「……」


 うなずくサーニャ。

 いろんな気持ちがエイラの心に込み上げてきて、なかなか言葉にならない。

 だが、まず最初に告げなくてはいけないことは、分かっていた。


「…………ごめんな」


 これを聞いたサーニャの顔がほころぶ。


「私も」


 二人の背景では、コアをロケットだんかいされたきよだいネウロイが、光のへんを散らしながら、天頂部よりゆっくりとくずれ落ちてゆく。

 この高度では、地平線がゆるやかな曲線を描いているのがはっきりと分かる。

 やがて、ほう力の回復とともに、サーニャのストライカーのプロペラが回り始める。


「エイラ、見て。オラーシャの大地よ」


 今度はサーニャが、こめかみのあたりをエイラのこめかみに押しつけた。

 ちんな表現になってしまうが、やはり、地球は美しい。


「うん」


「ウラルの山に手が届きそう」


 ウラル山脈。

 あの彼方かなたのどこかの地に、サーニャの大切な両親がいる。


「このまま、あの山の向こうまで飛んでいこうか……?」


「いいよ、サーニャといつしよなら、私はどこだって行ける」


 エイラは答える。

 温かいものがそのほおを伝っているのが、サーニャにも分かった。


「……うそ


 サーニャは微笑ほほえんだ。


「ごめんね。だって、今の私たちには、帰るところがあるもの」


 エイラを支えながら、サーニャはストライカーの針路を南に取る。


「うん……うん」


 守るってことは、守られてることと同じかも知れない。

 わっと泣き出したくなるのを何とかこらえ、エイラは思った。


(あいつがだれかを守りたいっていう気持ちが、ちょっとだけ分かった気がするよ)


 二人の視線の先に、基地のある島が見えてきた。


 エイラやサーニャ、ウィッチたちの帰るべき家が。



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