第七章 第二話


 翌朝。

 ミーナはしつ室にもどると、司令部からの報告の内容を坂本に伝えた。


「今日未明に、ロマーニャのかんたいと航空部隊がネウロイにせつしよくしたそうよ」


 こちらが作戦立案中の、けに近い行動である。

 おそらくロマーニャ軍の上層部が、がらをすべてウィッチに持っていかれては面子メンツが立たない、と思ったのだろう。

 こうしたことは、ブリタニア時代にもよくあったことである。


「結果は?」


「返りちにって、じゆんようかんせきが航行不能よ」


 こうした結果も、ブリタニア時代にはよく見られたことだ。


「……我々の出番だな」


 坂本はうなずき、ソファーから立ち上がった。



  * * *



 ちよう高高度ネウロイせんめつ作戦

 作戦指針

 バルクホルン、ハルトマン、シャーリー、ミーナ、坂本の5名が第1打ち上げ班として、通常動力で第2打ち上げ班、およびサーニャ、宮藤両名を高度10,000mまで押し上げる。


 かつそうきよだいほうじんが出現していた。


しゆつげきします!」


りようかい!」


 ストライクウィッチーズはじようしようを始める。

 まず、ブースターをかいして芳佳とサーニャがドッキング。

 二人を中心に、軽量のリーネ、ペリーヌ、ルッキーニ、そしてエイラがドッキング。

 さらにそれをミーナ、坂本、シャーリー、バルクホルン、ハルトマンが支える形を取った。

 ストライカーの出力を上げていく第1打ち上げ班。

 サーニャは魔導針を展開し、ネウロイの位置をさぐる。


「……」


 そんなサーニャの後ろ姿を見つめるエイラは、何度か言葉をかけようとしてはめていた。

 結局、あれから仲直りの機会を持てていないのだ。


(諦めちゃうから……か……)



 高度10,000m


 作戦指針

 ストライカーの限界高度に達した時点で第1打ち上げ班はだつし、空中で待機。

 リーネ、ペリーヌ、ルッキーニ、エイラの第2打ち上げ班はロケットブースターに点火。

 宮藤、サーニャ両名のとつげき班を、高度20,000mまで打ち上げる。


 ウィッチたちはせいそうけんとうたつした。

 坂本以下、第1班は離脱し散ってゆく。

 芳佳たち第2班がブースターに点火。

 ぶわっ!

 脳が揺さられるようなしようげきを覚える、リーネ、ペリーヌ、ルッキーニ、エイラの4人。

 ストライカーの限界をえて、高度が上がってゆく。


 高度20,000m


 作戦指針

 宮藤、サーニャ両名はブースター点火後、ネウロイのコアがある高度33,333mを目指しさらに上昇、だんどうどうに移り、ネウロイのコアに向かう。


「時間ですわ!」


 ペリーヌが計ったぜつみようなタイミングで、サーニャと芳佳のブースターが点火された。

 加速、上昇する二人。


(サーニャ……)


 遠ざかってゆくサーニャを見送るエイラは、自分に言い聞かせる。


(これでいいんだ、宮藤になら、任せられる)


 と、その時。


(サーニャ?)


 振り返るサーニャの目が、エイラの目と合った。

 しゆんかん、エイラの中のおもいがあふれ出る。


(私は……私は……!)


 芳佳とサーニャがだんだん小さくなってゆく。


「……いやだ! 私が……私がサーニャを守る!」


 ブースターが一層大きく燃え上がり、エイラの身体からだは一気に空をけ上がった。


「ああ〜っ!」


 さすがのルッキーニも、おどろきの声を発した。


「エイラさん!」


「ちょ、ちょっと!?」


 何が起こっているのか、自分の目を疑うリーネとペリーヌ。


「何をしてるの、エイラ!?」


 さけぶサーニャ。


「サーニャが言ったじゃないか! あきらめるからできないんだって! 私は諦めたくないんだ!」


 エイラは叫び返した。


「私がやるんだ! 私がサーニャを守るんだ!」


 だが、エイラは追いつけない。

 パワー切れ寸前のエイラのブースターと、点火したばかりのサーニャのブースターでは推進力がちがう。

 それでも諦めないエイラに、手が差しべられる。


「!?」


 サーニャからいったんはなれ、速度をゆるめてエイラに接近した芳佳の手だ。


「……エイラさん、行きましょう!」


 芳佳はエイラの手をしっかりとにぎり、再上昇の姿勢を取った。


「宮藤!」


 芳佳の手を握り返すエイラ。

 わした視線で、二人はおたがいの想いを感じ合う。

 芳佳はそのまま、自分の推進力をエイラの身体に伝えた。


(ありがとな! やるよ!)


 押し上げられたエイラを、今度はサーニャがしっかりと受け止める。

 芳佳の代わりに、エイラがサーニャとドッキングした格好だ。


「芳佳ちゃん!」


「無茶よ、エイラさん! ほう力が持ちませんわ! 帰れなくなりますわよ!」


 リーネとペリーヌは止めようとするが、もうおそい。


「……私が……エイラを連れて帰ります!」


 エイラを抱きしめたサーニャが、ペリーヌに告げる。


「きっと連れて帰ります!」


「む、無茶苦茶ですわ!」


 どっちがどっちを守るのか、もう訳がわからなくなるペリーヌ。


がんって、サーニャちゃん、エイラさん!」


 リーネは遠くなってゆく三人のえいに向かって声をかけた。



 高度30,000m


 作戦指針

 サーニャの魔導針でコアの位置をさぐりつつ、じようしよう続行。


 空がその色のさをだいに増していき、アドリア海よりもあおくなってゆく。

 芳佳が二人から離れ、地上に向かって降下し始める。

 もともと、三人分の質量を目的の高度まで押し上げる推進力はなかったのだ。


(……サーニャちゃんをお願い、エイラさん)


 芳佳にできることはもう、星にいのることだけだった。



 高度33,333m


 作戦指針

 極限かんきよう

 宮藤はシールドを展開、ネウロイのビームこうげきを防ぎ、サーニャはフリーガーハマーのせいしやで敵コアをせんめつ


 二人の頭上で星がきらめいていた。

 気温マイナス70℃。

 まったくのせいじやくの世界。

 自分のいきさえ、聞こえない。

 魔法がなければ、いつしゆんで死に至るこくな空間である。

 ブースターを切り離し、ここからは慣性だけでネウロイとのきよめるのだ。

 やがて地平線上に、高度30,000mのネウロイのせんたん部分が見えてきた。

 サーニャたちに気がついたのか、その先端部分が割れて広がり、ビームを放ち始める。

 エイラはシールドを展開し、これをはじいた。

 高エネルギーを受けたシールドは真っ赤にかがやく。


(まだ……)


 サーニャは落ち着いて、フリーガーハマーの照準を合わせる。


あわてては


 ハマーの弾数は9発。

 これで仕留めそこなえば、次はない。

 サーニャとエイラにも。

 人類にも。


(まだ……もう少し……)


 エイラのシールドがてんめつを始めた。

 サーニャは口の中がかわくのを感じる。


(まだ……まだ……)


 ほんの一瞬、コンマ数秒、ネウロイのビームこうせいれた。


(今!)


 サーニャはトリガーをしぼった。

 斉射された9発のロケットが、複雑なせきえがきながらネウロイにせまる!

 これをち落とそうとするビーム。


 そして……。



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