第六章 第三話


 翌朝。

 ミーナはブリーフィングルームで、不味まずそうな顔のシャーリーからの報告を受けていた。


「お金をルッキーニに預けたあたしが悪いんだ、済まない」


 どうやら昨日。

 さいを持ったルッキーニは、買い物のちゆうにローマで迷子になり、マリアという女の子と知り合って、その子と二人で全予算を使ってジェラートを買い、街中の子供に配り回ったらしいのだ。


「……フランチェスカ・ルッキーニさん、ちょっとこっちへ」


 作り笑顔で手招きするミーナ。


「い、行きたくな〜い」


 ルッキーニはかべにへばりついていやいやをする。


「いらっしゃい」


「ううう」


 ていこう

 ルッキーニは観念した。


「うわ〜ん! ごめんなさ〜い!」


 数分後。

 ハンガー前には、バケツを持ったまま立たされて、泣いているルッキーニの姿があった。


「しかし、食料調達のお金を全部使い切るとはな……」


 そのすぐ横では、坂本がシャーリーからの報告を受けている。


かんとく責任!」


 という言葉にビクッとするシャーリー。


「それは私にもある。ともに反省しよう」


「すまん、ルッキーニ!」


 どうやら、シャーリーはちようばつのがれたようだ。

 ホッとした顔で手を振ると、シャーリーは坂本とともにレクリエーションルームに向かう。


「うえ〜ん!」


 後には、バケツとルッキーニだけが残された。



  * * *



「はい、エイラさん」


 芳佳は何とか買えた注文の品を、みんなに配り回っていた。


「言ったのあったか?」


 まくらを受け取ったエイラはチラリととなりのサーニャを見る。


「欲しいもの見つかったの? よかった」


 よしよしと、親が子供をめる時のような顔をするサーニャ。


「サーニャちゃんにはこれ」


 芳佳はねこの置物をサーニャにわたす。


「ありがとう、芳佳ちゃん」


「もう、エイラさんって注文が細かくって」


「そ、そんなことないさ」


「エイラ、人にお願いする時は、ちょっとはえんりよするものよ」


「う」


 せっかく、サーニャのためにたのんだ枕だが、渡しにくくなって困るエイラだった。



「ペリーヌさん、これ」


 芳佳は花の種を差し出していた。


「何ですの、これは?」


「お花の種。この基地のまわりにお花を植えたらどうかなって、リーネちゃんが」


「リーネさんが?」


「ええ、お花を育てるのが上手なペリーヌさんに、教えてもらおうと思って」


「そんなこと頼んでませんわよ」


 リーネと芳佳のこころづかい、本当はうれしいのだ。

 だが、プライドがじやをし、意地の悪い言葉しか返せない自分に、ペリーヌは時おりいやがさす。

 それでも。


いつしよに植えようよ」


「教えてくれます?」


 芳佳とリーネは笑顔を向けてくれるのだ。


「仕方ありませんわね」


(この子たちったら)


 なみだあふれそうになるのをこらえ、いつものごうまんな表情を作るペリーヌ。


(……まあ、いまわのきわには、言ってあげますわ。あなたたちは最高のお友だちだって)


「まず、マリーゴールドは日当たりのよい場所に。こっちのカモミールとベルガモットは、夏は直射日光禁止ですわよ」



「お〜、お菓子〜」


 と、夢見ていたハルトマンには、バルクホルンの注文通り目覚まし。

 そして。


「バルクホルンさん、これどうです?」


 芳佳は次に、レクリエーションルームで買ってきた服をバルクホルンたちに見せていた。


「あ、ああ。……すごく……いいな」


 芳佳が自分の身体からだに服を当てると、しつじつごうけんがモットーのバルクホルンはちょっとずかしくなる。


「胸、ちっちゃくねえか?」


 茶々を入れるハルトマン。


「何を言う、バッチリだ!」


 バルクホルン、何故なぜか必死である。


「うんうん、そうだな」


 と、ワイワイ批評する連中のそばでは、ミーナがさっそく、ラジオの調整を始めていた。

 これで多少は、この部屋もレクリエーションの名に相応ふさわしい場になるだろう。


「入った!」


 チューニングがロマーニャの公共放送の電波をとらえた。


『……さて、本日初めて公務の場である園遊会に出席された、ロマーニャ公国第一公女マリア殿でんからお言葉です』


 スピーカーから、敬愛される公家の女性のスピーチが流れ始める。


『昨日、ローマはネウロイのしゆうげきを受けました。しかし、そのネウロイは小さなウィッチのかつやくで撃退されたのです。その時、私は彼女からとても大切なことを教わりました。地位には責任がともなうこと。この世界を守るためには、一人ひとりができることをすべきだと。私も、私ができることで、この世界を守っていこうと思います。ありがとう、私の大切なお友だち、フランチェスカ・ルッキーニしよう


「ええ〜っ!」


 ラジオに耳をかたむけていた全員が絶句した。

 それとほぼ同時に。

 501基地の上空に多数の輸送機が来襲し、物資を落とし始めた。

 次々開くパラシュートが空をおおう。


「うぎゃ〜!」


 落下した箱がこわれ、中身のチョコレートやその他のお菓子がちょうど真下にいたルッキーニに降り注ぐ。


『感謝をめて、ささやかなお礼を第501統合せんとう航空団のみなさまにおくります』


「重〜い!」


 お菓子の雪崩なだれで、ルッキーニそうなん


「何でも多いにしたことはない! わっはっはっはっはっは!」


 青空に坂本の笑い声がひびわたった。



 ちなみにミーナの胃が本格的に痛み出したのは、この日の夜からのこと。

 原因は暴飲暴食。

 それが医務室のしんだんだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る