第一章 夜間専従班再び! ──または翼よ、あれが命の灯だ!
第一章 第一話
ブリタニアの南東、ドーヴァーに
「せいっ! やっ!」
ショートヘアにセーラー服。木刀を
極東は
特技は
実は芳佳の父、宮藤
博士は数年前に死んだと思われていたが、この夏、
だが、この見知らぬ土地で芳佳を待っていたのは、父の墓。
そして、その
──その力を多くの人を守るために──
芳佳は父の残した言葉を自分の
……そう。
決意は、したのだが……。
「せいっ! やっ!」
「……う〜む」
へっぴり
坂本は、魔眼──
少女といっても19歳。ウィッチとしては、限界ギリギリの
白い制服を見て分かる通り、扶桑海軍出身。芳佳の治癒魔法の才を認め、ウィッチーズに
(
風を切らない芳佳の木刀の
本土から
それが坂本の考える、ネウロイとの戦いに生き残る
「せいっ! やっ!」
坂本にとっては
(やれやれ。少し目先を変えてみた方がいいかも知れないな)
こう見えても、芳佳には素質がある。
ブリタニアに向かう
ただ、今の芳佳は体力不足。魔法力の
その二点さえ
「せいっ! やっ!」
「戦場において、何が最も危険であるか分かるか、宮藤!?」
坂本は、地面に垂直に立てた木刀の
「分かりません! せいっ! やっ!」
「そうか!? 素振り、あと百本だ!」
「はい! せいっ! やっ!」
「戦場において、最も危険なもの! それはな、慣れだ!」
「慣れ! ですか!? せいっ! やっ!」
素振りを続ける芳佳の
「そうだ!」
坂本は深く
「戦闘に慣れてくると、
「はいっ! せいっ! やっ!」
一心不乱に木刀を振り下ろす芳佳。
常に前向きに
それは、芳佳の数少ない、貴重な才能のひとつである。
(……いつまでも、お前たちを守れたらいいのだがな)
坂本は
* * *
「少しは筋肉、ついたかな?」
ランニングと素振りの早朝訓練を終えた芳佳は、シャワーを浴びながら自分のお
悪くはない感じだ。コリコリとして、
「
こちらは、まだまだ。
特に胸の方は成長度、ほぼゼロだ。
寄せて上げる、という芸当もできない。
寄せようにも、芳佳の両手は盛り上がりのほとんどない胸の表面を、ツルリとむなしく
「頑張ってる……つもりなんだけどなあ」
訓練後の
(……お父さん。私、
ため息をついた芳佳は、シャワーを止めて浴場を出た。
「よ」
「……宮藤さん」
スラリとしたプラチナブロンドの少女は、エイラ・イルマタル・ユーティライネン
多少、いや、かなり変わり者だとまわりから思われているが、戦場においては遠距離
相手の攻撃を先読みできる未来予知の固有
手にしているのは、故郷スオムスの新聞『ガルム』紙。
記事には大して興味はないが、若手女流イラストレーター、トーベ・ヤンソンの
原隊であるスオムス空軍飛行第24戦隊時代の戦友に、一月ごとに送ってもらっているらしい。
そのエイラの背中に、半分身を
グレイの
固有魔法は、魔導針と呼ばれる光のアンテナを頭部に張り
空飛ぶレーダー基地といったところである。
その表情がちょっと
ちなみに、サーニャの誕生日は芳佳と同じ8月18日。1歳
「あの、これ……」
サーニャはナプキンがかけられたバスケットを、おずおずと芳佳に差し出した。
「……えっと、これって?」
白いナプキンをめくってみると、そこには小判形の
「ピロシキよ」
「
「ピ・ロ・シ・キ。ボルシチと並ぶ、オラーシャの伝統的な料理だぞ?」
解説するエイラ。
「ボロ七と並ぶ?」
どっちも芳佳には、料理の名前とは思えない。
「これ、私に?」
「そうだ。心して食べろよ。夜間哨戒明けで
そう言って胸を張りながらも、エイラは少しばかり
エイラにとって、サーニャは一番大事な仲間。そんなサーニャが、
「エイラも手伝ってくれたの」
はにかみながら、サーニャは付け足す。
「わ〜、ありがとう、サーニャちゃん、エイラさん」
顔を
実は今日の朝食は、普段、栄養さえ
本人の弁では
「へへへ」
エイラも、芳佳が
と、その時。
「あらあら。
通りすがりに、ボソリとひとこと言ったのは、
ガリア出身の彼女は、坂本
決して、
「むうっ!」
と、頰っぺたを
……確かに、その表情は豆狸である。
芳佳の使い魔──魔力を発動させるために
「豆狸に、タヌキ色の料理。サーニャさんもジョークがお分かりのようですこと。オ〜ッホッホッホ!」
高笑いと共に去ってゆくペリーヌ。
「ツンツンメガネ〜ッ!」
その背中に向かって、ベエ〜ッと舌を出すエイラ。
「あの……宮藤さん……これ、そんな意地悪じゃないから」
ペリーヌに言い返せないサーニャは目を
「あ、うん。
そんなサーニャに芳佳は笑みを見せ、ピロシキを手に取った。
「へえ〜! 中身、お肉なんだね!」
一口かじって、その
「揚げ
「あんこ?」
と、サーニャ。
「ええとね、
「ええい! サーニャの作ったものに文句を言うヤツはこうだ!」
「ああ! ひっどい! 食べかけなのに!」
「早く食べないのが、もぐもぐ、悪いんだぞ! こういうのはな、むひゃむひゃ、熱いうちが美味しいんだ!」
「でも!……間接キスになっちゃった」
芳佳は
「き、気色の悪いこと言うなあああっ!」
顔を真っ赤にして
「サーニャならともかく、どうして宮藤なんかと!」
「……サーニャちゃんなら……ともかく?」
「えっと、あの、それは……えええい!」
宮藤の思わぬツッコミに、頰っぺたをムギュ〜ッと引っ張って
「ひ、ひふぁいでふほ〜、へいらは〜ん!(い、痛いですよ〜、エイラさ〜ん!)」
芳佳の頰っぺたは、扶桑名物の
と、そこに。
「ん?」
芳佳より
「は〜、はかもほはん、はふへへふふぁは〜い!(あ〜、坂本さん、助けてくださ〜い!)」
芳佳は坂本に助けを求める。
「楽しそうだな」
どうやら、坂本の目には芳佳が喜んでいるように映ったようだ。
「で、何をしている?」
「ピロシキを……」
「へいははん……ぶはっ、エイラさんが間接キスを……」
「私が悪いんじゃないぞ〜」
口々に説明しようとする芳佳たち。
「……さっぱり分からんが?」
首をひねった坂本は、三人の顔ぶれを見てふと思いつく。
(そうか。宮藤の訓練、この二人に)
この三人は、つい先日、夜中に
夜間飛行の訓練は、その時に少しやったきりだが、芳佳の飛行技術を
「?」
ニヤリとする坂本を見て、首を
「サーニャ、エイラ、お前たち、今晩、宮藤の訓練に付き合ってくれないか?」
「夜間……飛行ですか?」
と、サーニャ。
「ああ。
「あれってまだ続いてたのか〜?」
エイラは額に手を当てた。
「こ、今晩ですか〜?」
芳佳の顔も
「ああ、ネウロイの
善は急げ。
思い立ったが
ということなのだろう。訓練はネウロイ戦の後に、という発想は坂本にはないようだ。
「頼むぞ、二人とも。なあに、夜間
エイラとサーニャの
「これって……
「ふふ」
うんざりした顔のエイラを見て、思わず
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