第三話
「……敵、
果たしてこれは撃墜と呼んでいいんだろうか、と心に
「シャーリーさんは?」
ミーナは
「ええと?」
芳佳はシャーリーの姿を求めて、周囲を
すると。
「……あ、
上昇してゆくシャーリーが引く飛行機雲を、芳佳の目は
二人は
目を閉じ、満足げな表情のシャーリー。
だが、どこか様子がおかしい。
ここまでどうにか形を保っていた水着は細かく千切れ、上昇しながら回転する身体から
「……あれ?」
ムスタングのプロペラが、ふっと消えた。
と同時に、使い魔のウサ耳と
やや
「あわわわわわわ!」
「全然無事じゃな〜いっ!」
二人は、シャーリーに意識がないことに気がつき、まっすぐに落ちてゆく彼女を急降下で追いかける。
ドウッ!
水
……のはいいが。
「ええええ〜っ! 何で〜!」
シャーリーは、首にかけたゴーグルを除けば、ほぼ
そして、芳佳の手の中には、豊満な胸が生で……。
「どうした、何があった!?」
さっぱり事態が
「シャ、シャーリーさんを確保しました! でも!」
あまりにも
「でも、なんだ!?」
「ああ……おっきい」
絶望的なまでのぺたんこが
思わず、シャーリーの豊かな胸を、ぽよんぽよんと
「きゃ〜! 芳佳ちゃん、何やってるの〜っ!」
「おい!!
坂本ががなり立てる
「説明できませ〜ん!」
一番星が
「……腹へった〜」
芳佳とリーネに運ばれるシャーリーは、超音速の夢に抱かれながら、幸福そうな
* * *
「腹へった!」
その夜遅くのこと。
シャーリーはいきなりベッドから飛び起きていた。
「……ったく。夕食、あんなんじゃ足りないよ」
人の三倍近く食べておきながら、シャーリーは
「まずい。何か食べないと……
半分目が閉じかけた状態で、あちらの壁やこちらの柱にぶつかりながら、シャーリーは厨房にたどり着く。
「クラブハウスサンドやバーガーもなあ……」
冷蔵庫を
「お! ポークビーンズって手があったか〜」
ポークビーンズは西部
とはいっても、何のことはない。
切った塩漬け豚を、豆と
「たまにはこういう
シャーリーは
「豆の
鍋を放ったまま、あくびをかみ殺したシャーリーはいったん、厨房を
数分後。
厨房に現れたのは、バルクホルン
「小腹が
難しい顔をしたバルクホルンは、シャーリーと同じように冷蔵庫を
「あ、あれだけ
バルクホルンが取り出したのは、ザワークラウトの
ちょっと
瓶の蓋を開け、手近にあった鍋にドババッと中身を注ぐ。
さすがに、この時間ともなるとバルクホルンも注意力が低下しているようで、鍋が空だったかどうかの
「それにしても、フラウのやつ、
自分で言っておいて、落ち込むバルクホルン。
「ソーセージは食料庫まで行かんとないか。仕方がない」
バルクホルンもシャーリー同様、いったん厨房を出る。
そして、さらに数分後。
厨房には、また別のウィッチの姿があった。
「さあ、ペリーヌ・クロステルマン、今夜も練習ですわよ」
鼻歌まじりのペリーヌは、ポケットからメモを取り出した。
「坂本少佐に食べていただく手料理が完成するその日まで、この私の
しかし。
「……う」
メモを開いたペリーヌの顔が
「せっかく料理本から写してきたレシピが……」
この暗がりである。
当然、読めない。
「いつもは月明かりで多少は見えるのに、今日に限ってこの
昼間は上天気だったのだから、きっと
「でも、負けませんわよ! 心の
秘密の練習である。
明かりを
「今夜
ペリーヌは卵を二十個ほど取り出して、手近にあった鍋に割り入れる。
「次はバター」
バター約1オンス、投入。
「その次は……ええと、たぶん小麦粉ですわね」
このあたりからちょっとばかり
ザザ〜ッ!
バターとほぼ同量の砂糖が、鍋の中身を真っ白に
「そして、
と、言いながら注いだのはヨーグルト。
「あら?」
ここでペリーヌは
「私としたことが、ナツメグを切らしているのを忘れてしまったようですわ。昨日、売店で
ペリーヌは鍋をそのままにして、いったん部屋に帰っていった。
そしてまたまた数分後。
「……痛い」
昼間、坂本にゴツンとやられた頭を
「芳佳の作る扶桑料理もおいしいけど、お
今日は訓練と
とはいっても、お湯を
だが、冷蔵庫には、セモリナ粉と卵をたっぷり使った生パスタが、ルッキーニのために常備されている。
ミーナが前もって、作り置きしておいてくれたものだ。
これなら、
あとは
「お湯おっ湯ぅ〜」
ガス台にたまたまあった
このあたりは、なかなか正確である。
「パスタ、パスタ〜、マ〜マの味〜」
点火。
「あっとは〜、パスタ・ソース! トマト味〜!」
あろうことか、ルッキーニは火を
そして、またまたまた数分後。
「ほんのちょっと、何か温かい飲み物があれば、
厨房に出現したのは、坂本にしごかれたうえに出撃、そのうえ、シャーリーを
「こういう時はロイヤルミルクティー……あれ?」
棚から紅茶の葉の缶を取り出したリーネは、火に鍋がかけっぱなしになっていることに気がつく。
「誰だろう? 危ないなあ」
火を消しに、ガス台の前に立つリーネ。
「……これ、何?」
鍋の中では何か訳の分からないものが、
ガス台の上の方にある棚に紅茶の
「ひいいいっ!」
ゴツゴツ、ジャリジャリといった、およそあり得ない
思わず
紅茶だけでも大問題だが、最悪だったのは隣の紙箱。
紙箱の中身は、料理にも、
つまりは
丸々一箱、約225gの重曹が、鍋に投入されたのだ。
ゴボゴボゴボッ!
それはあたかも、マッドサイエンティストの研究室に
「さよなら! ごめんなさい!」
火を止めたリーネは、厨房から
そして……。
「こ、これ、お湯だよね?」
厨房に戻ってきたルッキーニは、泡立つ液体に異様なものを感じていた。
「そ〜っと、そ〜っと」
「にゃっ!」
「な、な、何とかしなくっちゃ!」
塩、
そこには昨日、同じような
これが、ミーナからきつく禁止されている
結果。
「な、何か変……」
口にしたら、確実に命に
「……や〜めたっと」
それから少しして。
「おかしいなあ〜、火ぃ、点けたっけ?」
豆缶を手に戻ってきたシャーリーが
「!」
彼女の意識は、
「……こ、これを食べたら人間として
どうしてこうなったのかは分からないが、取り
「……腹へった。けど、寝よ」
あと数時間待てば、朝食である。
これ以上鍋に近づくのは危険と判断したシャーリーは、頭を
さらに数分後。
「どれ、そろそろいいかな?」
ソーセージを手に戻ってきたバルクホルンが、鍋をのぞき込んだ。
「……見なかったことにしよう」
形容しがたい色が
「そうだ。明日の朝、
無理やり自分を
そして、またまた少しして。
「な、
鍋の前に戻ってきたペリーヌは、手にしていたナツメグの
「も、もう今夜の特訓はこれまでということで。おほほほほほほ!」
そして、東の空が明るくなりかけた
早起きのミーナ
「夜食でも作ったのかしら? しょうがない子たちね」
厨房に入ったミーナは鍋をのぞく。
見たところ、鍋の中身はシチューのようだ。
「ちょっと……味見しても構わない……わよね?」
クスリと少女のように笑ったミーナは、スープ?を
* * *
「……きゃあああああああああ〜っ! な、何なの、これ〜っ!」
たいていの味のものならニッコリと笑って食することができるミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐。
その彼女が、
「ま、また悲鳴?」
「こ、今度のほうが、声が大きい!」
「の、
「きっとこの土地は、昔、墓場があった場所で!」
「ひえええええ〜」
二日連続の恐ろしい悲鳴に、
これが後に、地上班の間で綿々と語り
翌日から厨房に、『消灯下での調理は禁止!』という警告が、ミーナの手により
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