第二章 いっしょだよ ──または、サーニャのサーニャによるサーニャのための章
第一話
1944年8月16日 夜間
ラン、ラララ〜、ラララ〜、ルゥラララ〜ラ〜
月光を受けて
そして、その白い波間を、船のように、キラキラと光の
手には連発ロケット
そして側頭部には、ライトグリーンに輝く光の
サーニャ・V・リトヴャク
ローレライを思わす歌声は、彼女のものだったのだ。
そして。
その同じ夜の空を行く、Ju52輸送機の内部では……。
「むう……」
坂本美緒
「
正面に座っていたミーナは顔を上げ、
「わざわざ呼び出されて何かと思えば、予算の
「彼らも
「連中が見ているのは、自分たちの足元だけだ」
「戦争屋なんてあんなものよ。もしネウロイが現れていなかったら、あの人たち、
「さながら世界大戦だな」
「悪かったな、宮藤。せっかくだから、ブリタニアの街でも見せてやろうと思ったのに」
「いえ……。私は、その……軍にもいろんな人がいるんだなあって……」
と、言いかけた芳佳は、インカムから流れてくる歌声に気がついた。
「あの、何か聞こえませんか?」
「ん? ああ、これはサーニャの歌だ。基地に近づいたな」
「私たちを
坂本とミーナが説明する。
「ありがとう」
Ju52に
(あ)
「……サーニャちゃんってなんか照れ屋さんですよね?」
芳佳はミーナを振り返った。
「ふふ、とってもいい子よ。歌も上手でしょ」
と、ミーナが
「……あら?」
サーニャの歌が
「どうした、サーニャ?」
坂本が
『
索敵能力を持つ魔導針の反応を伝える、ささやくようなサーニャの声。
「報告は
坂本は
『すみません。シリウスの方角に、所属不明の飛行体、接近しています』
今度は
「ネウロイかしら?」
と、ミーナ。
『はい、
「私には見えないが?」
坂本は眼帯を上げ、魔眼でシリウスの方を見た。
『雲の中です。目標を肉眼で
「……そういうことか」
「ど、どうすればいいんですか!?」
「どうしようもないな」
「そんなあ〜」
「
ミーナもそう言うと、ハッと坂本を見る。
「……あ。まさか、それを
「ネウロイはそんな回りくどいことなどしないさ」
少なくとも、今までにそんな前例はない。
相手の
『目標は
と、サーニャ。
「サーニャさん。
ミーナは雲の中から
『はい』
サーニャは
『目標を引き
「無理しないでね」
と、ミーナ。
「よく見ておけよ」
坂本は芳佳に声をかける。
「は、はい」
芳佳は窓に顔を張りつけるようにして、サーニャの姿を追う。
「サーニャちゃんには、ネウロイがどこにいるか、分かるんですか?」
「ああ。あいつには地平線の向こう側にあるものだって、見えているはずだ」
「へえ〜」
「それでいつも、夜間の
ミーナが説明している間に、サーニャは目を閉じ、魔導針でネウロイの位置を
「お前の
坂本が補足する。
「さっき、歌を聞いただろ? あれもその魔法のひとつだ」
「歌声で、この輸送機を
(歌声……で?)
月明かりを背に
「……あ」
赤く輝くネウロイが高速接近してくるのを、サーニャは
まず二発。
さらにもう一発。
「
サーニャはさらにトリガーを引く。
だが、ネウロイのほうからは何の反応もない。
「さすがね。見えない敵相手によくやっているわ」
ロケット弾の
「私には、ネウロイなんて、全然……」
目を
「サーニャの言うことに間違いはない」
残弾数から、坂本はこれ以上の
「サーニャ、もういい、
「でも、まだ……」
「ありがとう。ひとりでよく守ってくれたわ」
「…………」
ミーナの指示に、おとなしく従うしかないサーニャだった。
雲の下は
「ひどい雨だな。何も見えない」
ネウロイ
「あそこだ」
雲間から光が
「サーニャ!」
単機、速度を上げて光を目指したのはエイラである。
よく、
「ちょっと、エイラさん! 勝手なこと!」
「……いや、いいだろう」
「戦闘は終わったようだ」
* * *
「それじゃ今回のネウロイは、サーニャ以外、
冷えた
もうひとつのソファーには、バルクホルンと同じように制服の上を脱いでくつろいだリーネと芳佳。
その背後のピアノの椅子には、シャツとネクタイ姿のサーニャ。
「ずっと雲に
坂本は言った。
「けど、何も反撃してこなかったっていうけど、そんなことあるのかなあ? それ、本当にネウロイだったのかあ?」
ソファーのひじ
別にサーニャを疑う心算はないのだが、思ったことがすぐに言葉となって口から出てしまうのが、ハルトマンのいいところでもあり、悪いところでもある。
「…………」
サーニャは済まなそうな顔になり、何も言えない。
「
場を
だが、みんなの反応は
「なんてことないですよね。……ごめんなさい」
リーネはいつもよりも、さらに身を縮ませる。
「だとしたら」
紅茶のカップを手にしたペリーヌが、横目でサーニャを見た。
「ちょうど似たもの同士、気でも合ったんじゃなくて?」
当てこすりに、さらに肩を落とすサーニャ。
その横で、ムッとした様子のエイラがペリーヌに向かってベ〜っと舌を出す。
「ネウロイとは何か?」
追い
「それがまだ明確に分かっていない以上、この先、どんなネウロイが現れても、不思議ではないわ」
ことネウロイの取る行動に関しては、ミーナのほうが坂本よりも
「仕損じたネウロイが、連続して出現する確率はきわめて高い」
と、坂本。
「そうね。そこでしばらくは、夜間戦闘を想定したシフトを
「はい」
「宮藤さん」
「あ、はい?」
ミーナは二人を指名した。
「当面の間、あなたたちを夜間専従班に任命します」
「え? 私もですか?」
何で自分が、と
「今回の戦闘の経験者だからな」
坂本は当然のような顔をするが、あれは戦闘に参加したとは言えないと正直、芳佳は思う。
「私はただ見ていただけ……むぎゅっ!」
芳佳が自信のないことをミーナに告げようとしたその時。
エイラがいきなり、ソファーの後ろから芳佳の頭の上にのしかかり、手を挙げた。
「はい、はい、はい、はい! 私もやる!」
最初から宮藤だけでサーニャのサポートをさせる心算はなかったミーナだが、案の定、そこにエイラが乗っかってきた訳である。
「いいわ。じゃあ、エイラさんも
「それ以外のメンバーは、昼夜
「……すいません。私がネウロイを取り
「え?」
「ううん、そんなこと言ったんじゃないから」
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