宇宙人会議

白井京月

第1話 開会宣言

「皆さんようこそ。2013年度ビルトワールド会議、通称、宇宙人会議で、こうして皆さんとお会い出来たことを、とても嬉しく思います。ご存じの通り、われらが奴隷であるヒトの技術進歩は加速し、宇宙開発も木星を超えるところまで来ました。私たちの悲願である宇宙間移動法の発見まで、あと200年、いや100年かもしれません。いまや地球は我々にとってあまり快適な惑星ではありません。私たちには新しい惑星が必要なのです。まあ、これには異論もありますがね」


「この会議に初めて参加されている方の中には、私たちがどういう存在なのかを知らない方もいます。今から約10万年前、宇宙人である私たちはこの星に来ました。私たちというのは、この肉体ではなく意識体だと思ってください。今はヒトの身体を借りていますが、意識は宇宙人です。宇宙人は意識体としては生物に寄生し、いわば不死の存在なのです。宇宙の磁気嵐から逃げてこの星に来た時、そこは多様な生物が生きる美しい星でした。しかし、知的生命体はいなかった。そこで私たちは類人猿の遺伝子を操作して今のヒト遺伝子を持つ人類という種を作りました。そこでヒトと共に知的生命体にふさわしい文明を築くことにしたのです」


「これが誠に苦難の歴史であったことは皆さんもご存じの通りです。天災によっていくつもの文明が消えました。また、ヒトとヒトとの殺し合いである戦争。疫病にやられた文明もあります。宇宙人である私たちには高いレベルの倫理規定があります。その一つに、知的生命体同士の暴力禁止があります。しかし、ヒトにはこの規定は適用されません」


「もうお分かりかと思いますが、今の文明を主導したのは、ヒトという生物に寄生した私たち宇宙人です。さらにお話しておくことがあります。このビルトワールド会議から離脱した宇宙人もいます。私たちは死ぬこともできます。死を選んだ宇宙人もいます。しかしそれ以外に、今も地球上でヒトとして生きていて、このビルトワールド会議の趣旨に反対している宇宙人もいます。名前は出しませんが、地球上のある地域や国家は、事実上彼らが支配しています。知的生命体倫理規定にある通り、私たちは直接の暴力は行いません。そしてまた、ヒト同士の対立にまでは介入しないことになっています」


「ビルトワールド会議は現在、文明の穏健化と地球環境の安定、そして宇宙開発への意欲を持っています。そして、それにはヒトの協力が必要なのです。この会議のメンバーは、いわば世界のフィクサーです。今日お集まりの五百二十八人のうち、純粋な宇宙人は二百五人しかいません。もっとも、誰が純粋な宇宙人で、誰が宇宙人とヒトとの混血、まあ、雑種ヒトと呼んでいますが、なのかは非公開です。私も、もしかしたら雑種ヒトかもしれませんよ」


「議題は天文学、物理学、地球環境、社会情報環境、教育システム、医療と化学、経済システム、宗教、国際関係など多岐にわたります。私たちは適切に状況を把握し、具体的な政策を立案し実行してきました。ヒトの知的水準と知的環境は急速に向上しましたが、不確実な要素やリスクも増大しています。これからの3日間が有意義な時であることを願って、開会の挨拶とさせていただきます」


サルゴン議長は流暢な演説を軽い口調で締めた。


ここには各界の実力者の参謀が主に休暇という名目で集まっている。ジャーナリズムの一部はこの秘密会議について知っているが、記事にすることは出来ない。それは危険だからではなく、社会的な力関係によるものだ。故に世間には様々な陰謀論などが出回っているが、マトモに取り上げるマスメディアはない。

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