神域のミクロN~RTSで大陸制圧~

浅山ウヲリ

プロローグ

第1話 ミクロの神

 一つの世界が生成された。


 だがそれは世界というにはあまりにも小さかった。


 そして丸くもなかった。


 その世界には端が存在する。


 ただその世界の端の向こうを知覚する存在いない。


 知覚するものがいたとして、世界の端の向こうはそもそも存在すらしていなかった。


 四角く切り取られたような世界。


 その世界には森と荒野しかない。


 その世界に生えている木は一種類しかない。


 そして名前すらない。


 高さは3m程であろうか、その世界にある木はすべてその大きさであった。


 一種類で大きさの決まったその木だけで森が形成されていた。


 この四角く切り取られた世界は右上から左下に向けた対角線で対称になるように生成されていた。


 それぞれ左下と右上の頂点近くには高台のようになっていてその周辺はうっそうと森が茂っていた。


 その頂点から少し離れた場所に円状に木が生えていない場所が存在していた。


 ただ、そこには土があるだけで何もない。


 雨も降らなければ風も吹かないただそこに木があり土があるそれだけの世界。


 この小さな世界には神が二人いる。


 一人の名前はCrown worker


 一人の名前はyou


 そのyouという神こそがこの物語の主人公である。

___________________________________


 youは椅子に座ってPCを眺めていた。


 ここはワールドアースクラフトSSランカーズというアースクラフトというゲームの世界大会決勝戦の舞台。

 円形の舞台の上にはパーテーションのようなもので区切られた二つの小部屋があった。

その片方に高校生くらいの日本人が陣取っていた。

 それがyouである。


 プレイヤーネームyou。特に意味はなく、初めて遊んだゲーム初期設定がyouだったためにそれ以降

youを名乗り続けていた。



アースクラフトは『RTS』と言われるゲームジャンルである。


―『RTS』(リアルタイムストラテジー)とはゲームジャンルの一つである。日本ではあまりメジャーなジャンルのゲームではないが、海外ではFPSと並び立つ非常に活気あるジャンルである。わかりやすく説明すると「スパ○ボ」や「信長の○望」のようなターン制ストラテジーゲームのターンという概念を無くし、リアルタイムで施設作りや軍隊作り、採掘などを行う。そして作成した軍隊で相手の本拠地を破壊したものが勝者となる。

このゲームジャンルにおいては、メインコンテンツが対人戦である。世界観を楽しめるキャンペーンモードも大体のタイトルにはあるものの、正直おまけ程度という認識のユーザーが多い。1対1や5対5のチーム戦などゲームの種類によって人気のスタイルは違うものの、RTSのプレイユーザーは奥深い対人を楽しむためにプレイしているのである。


このアースクラフトの人気のスタイルは1vs1である。

このゲームは腕によってランク分けされている。

D~SSランクで振り分けられ、その中でもSSランクはSランク(プレイ人口の上位1000人)のうち、さらに上位10名のみに渡される称号である。

プレイ人口はネットゲーム世界最大の7000万人超を誇る超ビッグタイトルである。


今日はそのSSランクの称号を持つことを許された10人によるトーナメントが開催されている。

そしてもうすぐ、世界一位をかけた決勝戦のが始まろうとしていた。


対戦者はyou(JP) vs Crown worker(USA)である。


youはPC画面に映し出されるフィールドを眺めながら相手のマクロとミクロについて考えていた。


Crown worker(USA)

ミクロ

内政をしながらの細かい引き打ちが得意で、同時に3部隊を引き打ちさせるなど非常に器用でトリッキーな戦いを好む。最大apmは350程。

マクロ

ラッシュ型を非常に得意とするが引く判断が非常に早くラッシュで決まらなかった場合は凄まじい内政速度で不利な盤面をひっくり返して逆転勝ちする。

序盤で決めきれなければ防衛をある程度固めひきこもるのがスタイル


―『ミクロ』というのは、RTSの世界においては効率的な操作技術を指す。

歩兵がぶつかり合い、戦闘状態になれば「戦闘をしろ」という指示を与えられた歩兵は目の前にいる敵歩兵に向かって攻撃を仕掛ける。歩兵の1vs1においてはこれで問題ないのだが、10vs10の戦闘になればまず一番最初に先頭にいる歩兵が一番近い歩兵に向かい戦闘が開始される。

しかし、その後ろにいる歩兵は先頭の歩兵をすり抜けられないため、その歩兵を迂回する形で動き戦闘を開始する。さらにその後ろの歩兵は前の兵士をさらに迂回する。

そんなこんなで最後の10人目の歩兵が敵を攻撃する状態になる前に一人目の歩兵が死んでいるなんてことはよくある。

ではどうするかという問題であるが、陣形を組めばいいのである。

だがこのゲームにはそもそも陣形というシステムはない。歩兵を10人まとめて移動させようとすれば「ピ○ミン」のように団子状態で固まって移動してしまうのである。

では、どうするかというと1つの10人の部隊を3・3・4の3部隊に分けて細かく無駄の無いように操作する。

こうすることにより、迂回する人数を減らし効率よく相手の部隊にダメージを与えていくことで同じ10vs10でも圧倒的な優位を作り出すことができるのだ。

ただし、これにはデメリットがある。

単純に操作量が3倍になってしまうのである。キーボードとマウスを使って部隊に指示を出すのだが陣形を取りながら移動すると、移動地点指示→攻撃を3つの部隊に指示をしなければならなくなるのである。

そしてこのゲームは戦闘だけをしていればいいゲームではない。戦闘すると同時に兵士を作ったり、建物を建てたり、資源を採掘したりとすべてを一人の手と頭で同時に行わなければならないのである。

よってそのすべてをより細かく多く効率的に行えるものこそが、このゲームにおいて強者であり、その効率的な操作技術を『ミクロ』という。

apm(action per minutes)というのは一分間にどれだけの指示(内政・戦闘含む)を出せるかというものである。

少しおおざっぱではあるがミクロの単位といえなくもない。




―『マクロ』というのは、RTSの世界においては戦術にあたるものである。

このゲームの戦闘ユニットは多岐に渡る。分類するとまず2種類に分かれる。

空を飛んでいるか地面を走るかである。

さらにそこから、攻撃種類によって6種類に分かれる。

対地近距離攻撃・対空近距離攻撃・対地遠距離攻撃・対空遠距離攻撃・対地空近距離攻撃・対地空遠距離攻撃である。

分かりやすく言えば、空にいるユニットに対して攻撃できるのか、陸のみなのか、両方できるのか。

そして近距離なのか遠距離なのかである。


 さらにこのゲームにおいては大本の種族が3種類あり、それぞれ人族、魔族、神族とわかれている。

その3種族それぞれに上記の分類のユニットに分かれていることから膨大な量のユニットが存在していることが容易に想像できるであろう。

ただ、人族には地兵の対空近距離攻撃ユニットがいなかったり、神族には空兵の対地近距離攻撃ユニットがいなかったりして少し欠けているもので種族差があったりする。

そして、これらの兵を作るにはそれぞれ対応した施設を立てなければならないのである。


 例えば人族の空兵対地空遠距離攻撃可能の『マザーシップ』は人族の最終兵器であり、生産するには空兵訓練場、遠距離兵訓練場、マザーシップコア研究所この3つの施設を建築することで初めて生産することが可能なユニットである。この施設を作るにも時間が掛かる。

このマザーシップを最短で作った場合には、

空兵訓練場を作るのに3分30秒。

遠距離兵訓練場を作るのに5分。

マザーシップコア研究所を作るのに8分。

そしてマザーシップコア研究所を作るには遠距離兵訓練場を作っていないといけない。

そしてマザーシップ自体を生産するための時間は2分

また、施設を作るための資源を採掘するために時間もかかるので、最速理論値でマザーシップを制作するのはゲーム開始から約23分かかる。

ただこれに関してはただの理論値である。開始から23分もただただマザーシップを生産するために下準備をしていたら、相手の歩兵ユニットがやってきて本拠点を破壊されて負けになる。施設を作りながら採掘をし防衛計画を立てその上でマザーシップを作った場合の実戦では最速45分過ぎくらいからの登場となる。まさしく両陣営ある程度の戦力が整いきった後の最終決戦兵器であるといえよう。


RTSの戦術とは、まず自分がどの兵を用いて戦闘すれば有利なのかを判断することが一番大事である。そのためには、相手の陣営を偵察し、どのような施設が建築され、その結果どの兵士が出てくるかを予想する必要がある。その相手を読む洞察力とそれに合わせる柔軟性こそが戦術であり『マクロ』なのである。


しかし、あまり具体的にミクロとマクロは、「こういったもの」というものが決まってなく人によってまちまちな違う部分があり、あくまで主観での説明としておく。


さて、ながながと迷走しているうちに世界は動き出す。


youは外から聞こえる戦闘開始のカウントダウンが始まったところで意識を現実世界に戻した。左手をキーボード右手にマウスをもち、何万回と繰り返した所定の位置にスタンバイする。


「そろそろ世界で頂ましょうかねー」

びっくりするほど緊張感の無い声が自分の喉から発せられ思わず自分でもふふっと笑ってしまう。


2・・・・1・・・・プ―――――


その音と同時に戦いが始まった。


世界一位を賭けた戦いが。


 その瞬間にはyouは行動を開始していた。

もうすでに先ほどのただの森と荒野しかない世界には建物と人と鉱石が生成されていた。

youは最速で、人を操作し鉱石のある位置へと移動させ始めていた。


 移動させ始めてから6人の最初の人間を2人づつ3グループに分けてそれぞれ3箇所の鉱石へと割り振った。


 このゲームにおける一番初めの仕事。それは鉱石からのエネルギー資源の回収である。

建物を建てるにも人を生成するにもまずエネルギー資源を回収しないとなにもできないのである。

これをyouはおよそ理論値で実行に移したのだった。

これを設定しておけば、この鉱石のエネルギー資源量がなくなるまでこの6人は延々と資源を回収し続ける。

最序盤(ゲーム開始から4分くらいまで)はyouは自分で考えて操作することはほとんどなにも無い。


 実際には細々と操作し人を生成し家を建て、生成した人を鉱石へ向かわせエネルギー資源の回収効率をあげるのだが、この辺はもはやセミオートである。指が勝手に動きこの操作を理論値で完了させる。数千回と練習しこの領域へと彼を押し上げたのだ。この時間は相手の特徴を再確認する作業に没頭する。


 Crown worker 世界ランク2位のSSランカーである。必殺技はほぼ理論値で放たれる歩兵軍団による開幕ラッシュ。彼は理論値である開始8分13秒後に敵陣地に到達する6体の歩兵で相手のまだ未完成な防衛陣地を破壊し蹂躙しての完封というのがセオリーであった。種族は魔族を好んで使う。魔族は序盤に出る歩兵が他の種族より性能が良く数も多く作れる。しかし最終的に作れる兵は他の種族に劣るという序盤~中盤にかけて強い種族である。


 これらの情報はもうすでに戦う前から揃っている。それに対してとれるカウンターを用意しなければならない。

 開幕8分13秒後に来るとわかっているのであればそれを迎撃してしまえばいいのである。

言うのは簡単だが、この8分13秒というのが非常に厄介なのである。この8分13秒時点で敵の送り込んでくる魔族の歩兵は6体。

 それに対してyouの使う人族は8分13秒時点で生成できる兵士は5体である。

これが8分30秒になれば6体目の兵士が生成され、数の点では互角になる。それでも魔族の方が歩兵の性能は良いので普通に戦っては負ける状態である。だからyouは6体目の兵士を作るよりも優先して対地遠距離タレットを作ることを優先した。これにより8分28秒まで耐えることができれば敵の開幕ラッシュを防げるという対策を用意した。

 しかし、今回の相手は世界ランク2位である。よほどのトラブルが無い限り8分13秒遅くても14秒にはこちらに着弾するだろう。敵の攻撃を約15秒しのぐという行為をするには、相手をミクロで圧倒する必要があった。そしてyouは相手を圧倒するミクロを持っていた。


 you 世界ランク1位のSSランカーである。通称ミクロの神。正真正銘の世界ランク1位である。ただ、この世界ランクというのは勝率で決まる。直接対決をして入れ替わるゲームではないのでこうして年に一度SSランカーを集めてトーナメントを開催し直接対決によって真の1位を決定するのである。

ちなみに彼の勝率は今第8シーズン(シーズンは1年ごとに変わる)は100%である。1976勝0敗である。ちなみに第3シーズンから1位だった。ゆえにネット上では彼のプレイヤーネームも相まって運営が用意した人口知能だの、すべてを理論値で動けるようにしたCPUだの色々噂をされる存在になっていた。また、彼も第3シーズンから1位だったにも関わらず、この大会には一度も参加していなかったためその噂に拍車をかけることになっていた。彼は現在高校2年生の17歳であったが。5年前の第3シーズンはたった12歳だった。そしてこの大会はアメリカでしか開催されていなかった。また、不幸なことに彼は親元から離れ祖父の家に預けられ生活していたのだった。そこでたかだか中学生の少年が多額の賞金の出る大会に参加するためにアメリカに渡るなど頭の固かった祖父にはとてもではないが受け入れられなかった。そういう経緯がありこの大会に参加できていなかったのだが、ひょんなことからなんと今年は東京で開催されることに決まったのだ。彼は運営に参加を表明しこの大会に満を持して参加したのだ。

 彼の参加にネットの住民や世界中のプレイヤーは歓喜した。運営はCPU説を否定していたがその生き証人がとうとう参加するのだ。世界中のプレイヤーは彼の姿を一目見ようと東京に押し寄せた。そして、TVのニュースでも軽く騒がれるくらいの熱狂が東京を包んだのだった。




 さて問題の8分13秒が段々近づいてきた。現在は7分45秒である。you側の迎撃歩兵は4人。8分13秒の時点では予定通り5人で迎撃することができるだろう。ここがこの戦いの山場である。

この戦いでこちら側が敗北し,1人でも自陣に突入されれば戦闘力のない資源回収ユニットを虐殺されその時点でこちらの敗北は決まるだろう。逆にこちらの勝利条件はまず第一として敵ユニット6体を撃破すること。次点は8分28秒まで粘ることである。ここまで粘ることが出来ればこちらの対地遠距離攻撃タレットの建築が完了する。これさえ完成してしまえば、いかに魔族の歩兵がやってこようが追い払うことができる。そしてこちらの人族の特徴は序盤中盤終盤すべてでそこそこの性能を持つユニットが揃っている。終盤にかけて弱くなっていく魔族に対して中盤で時間を稼ぎ終盤に向けてマザーシップを生成することで最終的には魔族側の陣地を蹂躙することができるだろう。


 勝負は敵の着弾する8分13秒~こちらのタレットが完成する28秒にかけての15秒。たったこの15秒間の戦いにこの決勝戦の命運がかかっているのである。


 そして運命の8分13秒・・・予定通り敵側の歩兵・・・黒い鎧に槍をもった6体のリザードマンが姿を現した。

 youはあらかじめこちらの歩兵・・ソードアタッカー、一人一人に指示が出せるようにそれぞれをショートカットキーに登録し5人のソードアタッカーを敵に対して横一列の単横陣の隊列を組んだ。


 もう、この時点で会場の観客席には異常などよめきが起こっていた。youが5人のソードアタッカーを単横陣の隊列に動かしたそのミクロはもはや一人一人のソードアタッカーがまるで意思を持っているようにしか見えなかったのだ。キーボード操作もマウス操作も画面の右下と左下に移っているが早すぎて何をしているのか全く理解できないレベルであった。そんなどよめきの中うおーーっと観客席から歓声が上がった。


 舞台中央にある特設の特大スクリーンではもうすでに魔族リザードマン6体と人族ソードアタッカー5体との戦いが始まっていた。


 どうやらCrownのリザードマン6体は2・2・2の3部隊で構成されているようだった。それに対してyouのソードアタッカーは1・1・1・1・1の5部隊だソードアタッカーの部隊はそれぞれ単横陣で並んでいるが相手のリザードマンは前に2体その左後ろと右後ろに2体づつで部隊で三角形を作る形の陣形を取っていた。そして前の2体のリザードマンが中央のソードアタッカーに槍を突き刺そうと突撃した。

 武器の間合いは槍をもつリザードマンが有利だ。どうあがいてもシステム上近づけばリザードマンの攻撃はソードアタッカーよりも先に発動し回避されることもなく確実にソードアタッカーのHPを削る。

 しかし、リザードマンの攻撃は発動していなかった。youが中央のソードアタッカーだけをリザードマンの攻撃範囲ギリギリから後ろに大きく引かせたのだ。それと同時にその左右2人づついるソードアタッカーはリザードマンに対して少し斜め後ろへ移動する。三角形の陣で突っ込んできたリザードマンに対してそれを覆う形でソードアタッカーが陣取った。

 リザードマンは攻撃が発動しないとみると愚直に中央のソードアタッカーに追いすがってきた。三角形の陣の前の2体だけが突出して追いすがってきたのだ。後ろの4体のリザードマンは移動指定しかされていなかったのか前の2体との距離が出来てしまった。

 しかし、これはミスというのにはあまりにも厳しい。このゲームはこういう仕様なのだ攻撃指示をだすと攻撃が発動するまで相手を追いかける。それを止めるには別に攻撃指示を取り消す命令を出さなければいけないのだ。そしてCrownはリザードマンの攻撃範囲にソードアタッカーがすでに入っていると確信していただろう。そしてCrownは左下の部隊のショートカットキーを押し有効にしていた。その結果先頭の2体のリザードマンが突出してしまった。これを咄嗟に制御するなど常人には・・・たとえ世界ランク2位だとしてもできなかった。


 だがyouはその隙を逃がしはしなかった。前に突っ込んできたリザードマン2体に対して中央のソードアタッカーと左から2番目のソードアタッカーに、正面から向かって左側のリザードマンを右翼の2人のソードアタッカーにたいして向かって右側のリザードマンへ攻撃を指示した。その瞬間リザードマンは攻撃をする動作をしながら2体とも消滅した。リザードマンのHPは240、ソードアタッカーの攻撃力は130だ。2回ソードアタッカーの攻撃が当たればリザードマンは死ぬのだ。対してソードアタッカーのHPは200リザードマンの攻撃力は180である。ソードアタッカーは瀕死にはなれど、一撃では沈まないのだ。そしてHP低下での性能の低下はないこのゲームおいて2回攻撃を受けたら死ぬという点ではソードアタッカーとリザードマンは同等なのだ。ただし、HP1どうしのリザードマンとソードアタッカーではリザードマンの方が射程が長く先に攻撃が当たるためリザードマンが勝つ。そういう状況になれば詰みなのだ。


 しかしこの現状リザードマンが2体沈んだことで数的にはリザードマン4体に対してソードアタッカーが5人。瀕死が2人いるがこれで単純に攻撃を受けることのできる回数はリザードマンは合計8回ソードアタッカーは10回となった。最後の1vs1になったらソードアタッカーの負けという状況を差し引いても攻撃1回分you側が有利になったのだ。


 そしてこの現状にCrownは全くついて行けていなかった。2体のリザードマンが目の前で消滅したのをみて脳が停止した。あろうことかショートカットキーで呼び出していた左下の部隊に攻撃命令をだしてしまったのだ。これがCrown敗北の決定的な瞬間であった。


 youは目の前に迫って来るリザードマン2体を見つめふぅーと息を吐きながらHPが満タンのソードアタッカーをそれぞれ前にだしリザードマンの攻撃を受け止め攻撃指示を出した。そして裏箔をとるような時間差攻撃で瀕死のHPになったソードアタッカー2人でその2体のリザードマンにとどめを刺したのだった。


 もう決着は完全についていた。


 最後にもう動かなくなった2体リザードマンを包囲し容赦なく切り捨てた。


 結局最後には相手の心が折れて動かなくなったが、このリザードマン6体対ソードアタッカー5人の8分13秒から4秒間続いた死闘はソードアタッカー5人が全員生き残るという異常事態で幕を閉じた。

 そしてこの結果はCrownの心を容赦なくへし折ったのであった。


 観客席は茫然と口をあんぐり空けて立ち尽くすもの、熱狂のあまり奇声をあげているもの、様々だった。



 ただ、そこにいる観客は全員見たのだ。


 画面の中で意思をもったかのように動くソードアタッカーを。


 何年も何年も繰り返し訓練に励んだ軍隊のような効率的で戦略的な戦いをするソードアタッカーを。


 彼らは目撃したのだ。


 意思の無い人形を5人同時に魂を吹き込む奇跡を。


 神の域に踏み込んだミクロという技術を。






 ほどなくして、Crownはサレンダーボタンを押した。


 こうしてyouは名実ともに世界1位の称号を獲得した。

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