ゆめのほし
灯宮義流
第1話『世界征服』
私はメイター星人のウェリー、地球を征服しに来た異星人だ。
誇り高きメイター星人は、奇しくも地球人と酷似した外見をしている。だから私も、地球のジョシダイセーなる種族として潜入することが出来たのだけど。
進んだ文明中で生きていた私にとっては、地球は実に遅れた星だった。おまけに日々の進歩の愚鈍さには、心底呆れている。
そんな星を何故私が狙っているかと言えば、理由は簡単。今、私達若者の間では異星侵略がブームになっているからだ。
地球人のように宇宙進出も出来ていない下等な者達は、そんなブームが存在し得ることすら知らないだろう。が、我々のように進んだ文明を持つ星からすれば、この程度の星を侵略するなんて、趣味の範疇でしかない。
そう例えば、この私のように、地球で言うところのジョシダイセーくらいの年齢でも、遊び感覚で侵略を画策出来てしまうほどに。
地球人が私一人のために蹂躙され、足元に跪く姿を見る日がいずれくると思うと、思わずニヤついてしまう。いかんいかん、いくら遊びとは言え気を抜けば痛い目を見るのはこちらだ。しっかりと気を引き締めていかなくては。
というわけで、地球で暮らし始めてから半年以上。この星のことは大体学ぶことが出来た。いよいよ地球征服のための計画を立て、実行に移す時だろう。
迅速かつ効率的に、この星を支配しなくては、ブームが終わってしまうかもわからない。ブームが終わってから自慢しても何のステータスにもならない。
早急に始めないといけないのだが、私には一つだけ大きな誤算があった。
というか、計画を立てているうちに、ある重大な失敗に気づいてしまったのだ。
故郷のコインロッカーに、世界征服セットを忘れてきてしまったことを。
「何しに来たんだ私はぁ!」
くそ、これはぬかった。なんて大ポカ! しかも家に忘れてきたならまだしも、コインロッカーに置いて来るとか、本当に何をやっているんだ、っていうか何しにきた!
どうしよう、故郷に帰る頃には引取料がすごい値段まで跳ね上がっているに違いない。いや、それ以前に処分されちゃったらどうしよう。あのセット、すごい高かったのに……。
流石に宇宙電波通信機、略して宙電の電波は向こうまで届かないから、家族に連絡することも出来ない。いや、むしろ連絡したら両親にこっぴどく叱られて、家に入れて貰えないかもしれない。
……というか、地球には基地局ないんだから使えないの当たり前じゃん! それじゃあ、なんでこんなの持ってきてるんだ、私!
自分のボケ加減に頭を抱えて悶えていると、ふいに宙電、ではなく携帯のアラームが鳴り始めた。
いけない、もう今日のバイトの時間だ。自分のアホさ加減に失望して膝を付いている暇はない。
鞄を引っ掴んで急いでボロアパートを飛び出す。遅刻したらまた先輩にどやされてしまう。
地球征服の野望達成は、まだまだ果てしなく遠い……。
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