生者の行進

@Whitefly5

汚れた善と飾られた悪


むせ返りそうな密度の臭いと、朱に染まる大地にて、少年は一人歩いていた。彼は死者が身に着けている装飾品や金銭、また、その亡骸をも貪っている。見上げる空は夕暮れのようにくすんでいて、生者は彼一人とさえ思わせる。一つ、また一つと少年は薄汚れた服のポケットに装飾品を拾い集めていく。その手は赤黒く染まり、亡者の手という表現もあながち間違いではなかった。彼が時折、汗を拭う仕草を見せるとき、その表情を伺えるが、到底、何を思い、何のために、人の道から外れる事をしているのか、誰も分からないであろう。自身、何も思っていなかった。もっとも、そんなことを考える余裕すら無いというのが正しい。服のポケットと、背負っている麻袋が「遺品」でいっぱいになると、重い足取りで戦場を後にした。


陽が傾く頃、町は火を灯し始め、その醜態を明らかにしていく。ところどころに穴の空いた石畳の上では、まるで亡霊のような姿をして倒れている人々、すでに息の無い者までいる。だが道を行き交う人々は、それに一片も表情の濁らせない。これが、この町の風景であったから。弔う者も一人いる。分厚く、ほとほと破れた聖書、らしきものを持った老人がその亡霊に近づき、何かを唱える。気味の悪い、耳障りな声で、一心不乱に、狂ったように。そうして長い茶番を終えた”聖者”は亡霊から遺品を奪い取る。その表情は吐き気を催す程薄汚れた笑みを浮かべている。

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