再びのシンデレラの想区(グリムノーツ)
西玉
第1話戻ってきたエレクとその後のシンデレラ
エレクはレイラに導かれるまま、タオとシェインと共に、次の想区にやって来た。
何故か懐かしい感じがする森だと思っている時、ヴィランに遭遇した。
想区によってヴィランの形状が少しずつ違うが、このヴィランはどこかで見た記憶があった。
「ねぇ、レイナ、この想区、以前に来たことがあるのかな? 僕、このヴィランはと戦ったことがあるような気がするんだ」
戦闘が終結し、一息ついた時、エレクはレイナに尋ねてみた。
「ええ。私たちは2度目ね。でも、エレクは少し違うわ」
「……少し違うって、どういうこと?」
「あんたはここに来たことはない。だけど、ここに居た。そういうことでしょ」
シェインは、いつものように表情が少ない。シェインはあまり感情を表さないが、感情の起伏が少ないということはない。むしろ、本人が興味を抱いていることにたいしては、我を失うほどだ。
「ええ、そうね」
レイナが同意した。考えられることは一つだ。
「ここは、シンデレラの想区だ。坊や、黙っていたのは、お嬢なりに気を使ったんだ。怒らないでやれ」
タオが言った。普段は口も態度も悪いが、誰よりも仲間思いで、面倒見がいいことを、エレクは知っている。
「そう。ううん。怒ってなんかいないよ。ただ……びっくりしたな。だって、シンデレラの想区は、カオステラーから解放されたはずでしょ。レイナが調律して、シンデレラは王子様と幸せに暮らしているんだ。そうでしょ?」
いつもはまっすぐにエクスを見るタオが、視線を逸らした。シェインはまっすぐにあさっての方向を向いたまま、エクスを見ようとしない。
ただ、レイナが言った。
「カオステラーは、一度失負したからといって、その想区を完全に諦めるとは限らないわ。でも……それなら、もう一度調律すればいいだけ。私が、あなたに黙っていたのは、別の理由ね」
レイナは言いにくそうにしていた。言いにくいことだから、黙っていたのだろう。
タオもシェインも承知している。だが、エクスだけが知らない。
「僕は、まだ仲間だと認めてもらえないの? 僕が知ると、困ることがあるの?」
レイナは驚いた顔をしていた。まるで、侮蔑されたような顔だ。だが、侮蔑されたように感じたのは、むしろエクスの方なのだ。
「坊や、落ち着け。俺たちは……俺もシェインも、レイナだって、坊やのことは仲間だと認めている。認めているからこそ、言えなかったんだ。言うのが、怖かったんだ」
タオが口をはさむ。エクスは首を振った。
「だったら、隠すことはないだろ」
「ええ。その通りよ。レイナ、教えてあげたら」
シェインは短く言い、レイナに水を向けた。レイナが深呼吸するかのように息を吸い込み、言った。
「私は、以前に来た時に、シンデレラの運命の書を見てしまったの。もう一度カオステラーが悪さをしかけたとき、何が間違っているのかわかるように。シンデレラも承知しているわ。その結果を言うとね……シンデレラは、とても強く王子様と結ばれるの。それには、大きな試練がある。大きな試練を乗り越えて、強く結ばれるのが、シンデレラの運命なのよ」
「僕がそれを聞いて……ショックを受けると思ったの?」
仲間たちの配慮は嬉しい。エクスとシンデレラは幼馴染だ。好きだった、と言ってもいいだろう。
綺麗に振られた。
もう、未練はない。そのつもりだ。
「それだけじゃないの。もし、カオステラーが運命を書き換えようとしたら、シンデレラをどんな不幸な目にも、簡単に陥れられるって思ったわ。それを、特別にやりやすい運命の書の持ち主が、シンデレラなのよ。もし、不幸のどん底に落ちているシンデレラに会っても、平気でいられるの?」
「だ、だ、だ、大丈夫だよ」
エクスは動揺した。道ばたでマッチを売って糊口をしのぐ幼馴染の、可憐な少女の姿を想像した。
悪くない。
エクスは慌てて自分の妄想をかき消した。
シンデレラなら何をしていても似合いそうだが、決して不幸になってほしいわけではない。
美少女は何をしていても似合うのだ。
「動揺してるじゃない」
シェインに覗き込まれる。エクスは、赤面していることを自覚していたが、認めるわけにはいかなかった。
「坊やのことは信用しているさ。だがな、それ以上に、坊やがいなくなる不安の方がでかくなっているってことだ。それは、誇ってもいいんだぜ」
タオが言った。褒められている気はしないが、褒めているのだろう。
結局、エクスがシンデレラを放っておけないかもしれないということについては、信用されていないのだ。
それでも仕方がない。エクスはあらためて思った。
エクスは、シンデレラが好きなのだ。
何度かヴィランと戦闘を重ねながら、分岐している道に出た。
一つの道はエクスとシンデレラが生まれ育った家を、もう一つはシンデレラが幸せな結婚をしたはずの城に向かって伸びていた。
「どうする?」
レイナが尋ねたのは、本人が方向音痴だからではない。レイナが方向音痴であることは疑いようもない事実だが、方向に迷って尋ねたのではない。
迷ったのは、行き先についてだ。普段ならタオに尋ねたのに、今日だけはレイナの視線はエクスに向いていた。
「家に戻っても、父さんも母さんもいないはずだよ。シンデレラも、継母と義姉と同居していたから、居づらかったはずさ。実家に戻っているとは思えないよ」
「そう。なら、お城ね」
「はいよ」
馬車を御していたタオが応じる。
なんでもできて、頼りになる男だ。レイナやシェインと一緒に、馬車の中にいたエクスは申し訳なくなった。
そのあとも、何度もヴィランに襲われ、襲い返しながら、先を急いだ。
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