最恐ボードゲーム

『わあ~、懐かしい! 人生ゲームだ!』


 栞が取り出した人生ゲームを見て、レイは言葉通り懐かしそうな目を向けていた。


 人生ゲーム。


 それは一から十の数字が書かれたルーレットを回して、盤上に振られたマスを進みゴールを目指すボードゲーム。職業やお金というアイテムも備わり、各マスには人生に因んだものが書き示されている。プレイヤーはそれに従いながら富と栄誉、時には挫折を味わい、まさに人生を経験するゲームだ。


「えらい古いゲーム持ってきたな」

「なんかないかな~、って部屋漁ってたらこれが出てきたのよ。少し痛んでるけど遊ぶ分には問題ないわ」

『小学生の頃だったかな。友達とよくやりました』

「だな~。結構ハマった記憶がある」


 昔、栞や地元の友達とワイワイ笑いながらやりこんだものだ。たかがゲームといえど人生を賭けたゲームという事もあり、みんな成りたい職業を狙いながらルーレットを回したりした。


「道具は一式残ってるから大丈夫よ。早速やりましょうか」


 栞の掛け声でテーブルを片付け、ゲームの準備を始める。


『あー、これこれ。人に見せた棒に車。これを走らせたのよね』

「こんなにちっちゃかったのか」

「昔は丁度いい大きさに思ってたよね」

『あっ、お金。そうそう、たしか金額で色が違ったんだ』

「これが本物の金だったら、なんて話したな~」

「したした。たしか、そのお金入れる財布を手作りで持って来た子もいたよね」


 人生ゲームの思い出を三人で語り合いながら着々と準備を進めていく。


「よ~し、準備完了」

「悪いが遊びのつもりでやるつもりはないぞ?」

『当然。私の最高の人生を見せてあげるわ』

「私の実力を甘く見ないでよ、レイちゃん?」


 俺達三人は肩を回したりして、威嚇に似たやる気を発し始める。


『それじゃあ、順番決めのじゃんけんを――』

「待った。栞、ルールの確認だが、昔のままか?」

「そうね。それで問題ないわ」

「ライフは?」

「う~ん、四でいいんじゃない?」

『……?』

「そんなもんか。二人しかいないが判定はどうする? 一対一の場合は?」

「イーブンの時はセーフでいいでしょ」

『……??』

「お前、まさか無理難題な試練を用意してないだろうな?」

「それは進めてみてのお楽しみ」

『……???』

「よし、オッケー。んじゃ、じゃんけんするぞ――」

『いやいやいやいや、ちょっと待ったちょっと待った!』


 じゃんけんをしようとすると、レイが身体を割り込ませながらストップを掛けてきた。


「なんだよ。心の準備が必要、ってか?」

「レイちゃんは小心者?」

『違う違う。さっきからライフとか判定とか試練とか言ってるけど、一体何の話? このゲームにそんなのないでしょ?』

「何のって……ああ、そうか。レイは知らなかったな」


 そうだ。レイがを知るはずもなく、顔の周りを『?』が飛び交うのも無理はない。俺は内容をレイに説明をする。


「俺らの人生ゲームは一味違うんだ」

『何が違うの?』

「基本のルールは一緒だ。ルーレットを回してゴールを目指す」

『いや、基本も何もそれがこのゲームでしょ』

「いや、俺達のはそこにさらにルールを加えているんだよ」


 俺は人の棒を四つ手に持つと車に差し込んだ。


「まず、スタートはこれで始める。本来は家族構成の意味で使うけど、これはライフとして扱う」

『ライフ?』

「そう。私達はこのライフを残したままゴールを目指すの」


 俺の説明に栞も加わり、引き継ぎをしてくれた。


「ルーレットを回して進めてマスの内容に従うんだけど、このマスは今上に紙が被せて内容が見えなくなってるでしょ?」

『あっ、本当だ。こんなの無かったような……』

「それがこのゲームの醍醐味。適当に一つ捲ってみて」


 栞に言われた通り、レイがポルターガイストを利用して捲る。そこには……。


【一発ギャグをやる】


『一発ギャグ!? 何これ!?』


 レイが内容に驚き目を見開いた。


「これがこのゲームのマス。プレイヤーは止まったマスに書かれた内容を行わなければならないの。そんでここに判定カードがあって、他のプレイヤーはその行動を判定する」


 栞が○と×が書かれた紙を上げる。これが判定カードだ。


「良ければ○、ダメなら×を上げて、もし×が過半数を越えてたらプレイヤーはライフを一つ失うの。今日は二人だからイーブンはセーフにするわ」

「そのライフがゼロになったらその時点で失格。最後まで残った者、もしくは最初にゴールした者が勝ち、という感じだな。つまり、人生を真っ当するのではなく生き抜くための人生ゲームだ」


 最初の頃は単純に人生ゲームを楽しんでいた。しかし、やればやるほど内容を覚えてしまうので当然だが飽きてくる。そこで、自分達でマスの内容を考えて新しいゲームとして作り上げたのがこれだった。


『人生は人生でもサバイバル的な人生!?』

「俺達はこれを『人生ゲーム ~波瀾万丈 生と死は隣り合わせ~』と名付けている」

『なんか知らない副題が付いてる!?』

「もちろん、職業やお金も使うマスもあるから安心しろ」

『安心出来ない! だって全部のマスが見えないじゃん!』

「だからいいんだろうが。先が分かる未来なんて面白くもなんともないだろ?」

『変な所でリアルな人生観を取り入れないで! というか、一発ギャグとか罰ゲームじゃないの!?』

「罰ゲームなんて生温いものも書いたわよ」

『罰ゲームが生温い!? えっ、これ栞さんが書いたの!?』

「そうよ。いや~、全部考えるの苦労したわ~」

『ちょっと待って!? 何を書いたの!?』

「それはやってみてのお楽しみ」

「教えたらつまらんだろ。人生は山あり谷あり。歌でもあるだろ? 人生楽ありゃ苦もあるさ~」

『そうだけど! いや、これは……ちょっと待……えぇぇ……』


 思っていたゲームではなく、初めて目にしたゲームだからだろう、レイは困惑して頭を抱え始めた。


「先にアドバイスしとく。これはマジで気合い入れてやらないと死ぬぞ」


 ゲームといえど侮ることなかれ。生き残りたければ自分を信じて突き進むしかない。人生で大切な事を教えてくれる、それがこの人生ゲームだ。


 しばらくレイは俯いていたが、顔を上げると覚悟を決めた顔付きになっていた。


『……いいわ。やってやろうじゃないの。私は絶対に生き残ってやるわ!』


 よし、レイも心の準備が出来たようなので順番決めのじゃんけんをするか。


 さぁ、始めよう。俺達の人生を賭けた闘いを!

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