本人達は真剣です
「レイ……」
「レイちゃん……」
今まで姿を現さなかったレイが。しかし、穏やかな雰囲気ではないのはひしひしと伝わってきた。
レイは俺を一瞥した後、ゆっくり動き出し栞の隣に座る。それから、置いてあるひらがな表記に指を走らせた。
『栞さん……一ついいかな?』
「な、なあに?」
『……あなたが一番黙れぇぇぇ!』
怒りを露にしたレイが怒濤の文句を綴ってきた。
『なぁぁぁにが禁止よ禁句よ! 禁止を命じててそれを真っ先に犯してるの栞さんじゃない! 無い無い無い無い、小さい小さい小さい小さい! 私を貶してそんなに面白いか! あ!?』
「ご、ごめんなさい」
『それに平均以下だと!? 以下ちゃうわ! 平均よりちょっと上だ! 勝手に小さくしないでくれないかしら!?』
「す、すいません……」
『胸が何だ! 胸がどうした! 巨乳は王女で貧乳は奴隷か!? 無駄な脂肪をこしらえて偉そうな事言ってんじゃない! ぶっ殺すぞ!』
説教される度、栞がどんどん小さくなっていく。鬼のように怒るレイに、俺は止める事も出来ずにただただ眺めていた。
『だいたいそんな話をする約束なかったでしょ! 昨日の件で悟史から聞き出す話だったでしょうが!』
……何だって?
「ちょっと待て、レイ。何だよそれ」
聞いてみると、しまった、という表情でレイが目をキョロキョロとしながら慌て始めた。
「あ~あ、バレちゃった。もう言っちゃったんだし、話していいんじゃない?」
縮こまっていた栞が復活。今度はレイが下を向いて縮こまり、それを見た栞がレイの変わりに話し出した。
「実は、悟史が倒れて私が看病してる時に、レイちゃん現れたのよ」
「は? だってお前、さっきレイと会えないとか文句言ってたろ」
「ああ、あれ嘘。レイちゃんと一緒に悟史を看てたわ」
「レイと?」
レイの方を振り向くと、恥ずかしそうに顔を背けた。
「でも、何でだ? 昨日喧嘩したのに……」
「バカ。悟史が倒れて心配になったからに決まってるでしょ。そこで、昨日悟史と喧嘩した事を聞いたわ」
「じゃああれか? 栞は俺から聞く前に事情を知ってたのか?」
「そうよ。それから、レイちゃんからお願いされたわ」
「何の?」
「昨日の件で悟史が何を考えていたのかを聞いてほしい、って。理由は分かるでしょ?」
ああ、なるほど。俺がレイの胸に手を伸ばしても謝らず、それから無い無いと言っていた事か。
「まあ、二人の思い違いという結果だったからレイちゃんも許そうとしたみたいで、悟史の後ろで現れる頃合いを見計らってたわ」
「えっ? レイはずっと俺の後ろにいたのか?」
「いたわよ。最初は視線で射殺すみたいに悟史を見下ろして怖かったけど」
「射殺す、って……」
その時の状況を想像したら、背筋が凍ってさまった。
「けど、私は待ったをかけて謝らせようとしたわ。さっき言ったみたいに、女性の胸に手を伸ばして何も言わないのは同じ女性として見過ごせないわ」
だが、それがエスカレートして胸についてまで話し出して、レイに怒られた、と。
「これが事の顛末よ」
「面倒臭ぇ事しやがって」
「喧嘩したらそうなるでしょ。二人とも素直にならないんだし。さて、レイちゃんも現れたし、お互い何か言う事は?」
「ああ、うん……」
『……』
俺は頭を掻きながら、レイはモジモジと身体を動かしながら向かい合う。
「まあ、その……悪かったな」
『……もういいわよ。私も思い違いしてたんだし。私の方こそごめんなさい』
二人して謝ると、謝罪特有の変な空気が部屋に充満する。
「はい。お互い謝って仲直りもした。これで万事解決。もうくだらない事で喧嘩しないでよ。見るのも聞くのもバカらしいから」
「はい……」
『はい……』
「よーし! 三人揃ったわけだし、遊ぶわよ!」
一人元気な栞だが、そのおかげで俺とレイも通常の雰囲気に戻る事が出来た。
「そうだな。せっかく栞も来たんだし、三人で何かやるか」
『でも待って。私幽霊だから何も出来ないよ?』
「大丈夫よ。私がレイちゃんも加われるゲーム持ってきたから」
そう言って栞が自分のバッグを引き寄せ、中からトランプを取り出した。
「なるほど、トランプか。たしかにこれならレイもやれるな」
『うん。ありがとう、栞さん』
「いいっていいって」
「さて、何やるか」
「まずは無難にババ抜き?」
『いいですね』
「よっしゃ、やるか」
『罰ゲームとかあり?』
「当然。ただゲームやるだけじゃつらないわ」
「レイは知らんだろうが、俺と栞のゲームはハードだぜ? 付いてこれるか?」
『望むところよ。悪いけど、私マジでいくからね』
「はっは! 後で泣きが入っても遅いからな」
「それじゃあ、ゲーム開始!」
俺とレイ、そして栞の三人は楽しいゲームを始めた。
***
二時間後……。
「てめぇ、栞! 今イカサマしたろ!」
「あら~? どこにそんな証拠があるのかしら~?」
「どこがフラッシュだ! ダイヤのAは俺が持ってるだぞ!」
「……ちっ、悟史が持ってたか」
「ほら、ペナルティーだ。さっさと掛け金全部渡せ」
「そうはいかない! 悟史こそこれは何? クローバーの8は私がさっき捨てたのに、何で悟史の手札にあるのかしら?」
「……ちっ、気付かれたか」
「悟史もペナルティーよ!」
『あの~?』
「よーし、次は掛け金倍でいくぞ。根刮ぎ奪ってやる!」
「ほっほっほ! いいのかしら、そんな博打に賭けて?」
『いや、二人ともちょっと……』
「イカサマ防止だ。今度は俺がカードを配る」
「ふざけないでくれる? そしたら悟史がイカサマするでしょ。私が配る」
「お前は信用できん。俺がやる」
「私がやる!」
「俺がやる!」
『……』
ゲームがヒートアップした俺と栞は、どちらがカードを配るかで揉め始めた。
『……私と悟史もこんな醜い喧嘩してたのか。次からは自重しよう』
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