角の無くなった魔王様

島地 雷夢

00

 俺こと魔王は油断した。

 めっさ油断した。

 何に油断したかって? そんなの決まってる。

 食事だよ。食事に睡眠薬が仕込まれてたんだよ。

 いやそこ、若干引かないで訊いて欲しい。

 魔王だからって睡眠薬効かないだろ的な解釈はしないで欲しい。

 魔王だって生き物なんだぞ?

 睡眠薬にも耐性があるとは思わないでいただきたい。というか思うな。多大なる誤解だから。

 実際は毒魔法は普通にくらうし、幻術魔法で幻見るし、ゾンビ魔法くらって回復魔法でダメージ受けたりする。

 というかさ、この世に耐性ばりばりの生き物なんていないんだよ。

 モンスターの代表格であるドラゴンだって火と物理攻撃、それに雷と氷と土と風には耐性あるけど毒や幻術、睡眠には耐性ないし。人工的に作られたモンスターのキメラだって毒と幻術、睡眠には耐性あるけど他の耐性は紙だし。

 でもさ、人間の魔王に対するイメージが偏り過ぎててこっちも大変なんだよ。

 魔王には角が生えてるとか。

 魔王は空を飛ぶとか。

 魔王は広範囲破壊魔法を無制限に放つとか。

 魔王にはステータス低下魔法が効かないとか。

 魔王にはステータス異常魔法も効かないとか。

 魔王には伝説の勇者の残した聖剣を使わなければ倒せないとか。

 魔王は第二形態があるとか。

 魔王には更に第三形態があるとか。

 魔王を倒しても大魔王が後ろに控えているとか。

 とか巷でほざかれてますけど、魔王って人間が思ってる程そんなに万能な生き物じゃないからね。

 魔王は空を飛べません。

 魔王は広範囲破壊魔法を無制限に放てません。

 魔王にはステータス低下魔法は普通に効きます。

 魔王にはステータス異常魔法も普通に効きます。

 魔王は別に伝説の勇者が残した聖剣を使わなくても倒せます。

 魔王には第二形態なんてありません。

 魔王には第三形態も当然ありません。

 魔王の後ろに大魔王は控えておりません。

 全く、変な妄想すんなっての。

 御蔭でこちとら人間が抱いている魔王のイメージを壊さないように人知れず努力してんだぞ。

 空を飛ぶ為に常に飛翔魔法を掛けてるし。

 広範囲魔法をずばずばぶっ放す為にMP回復薬(大)を常備してるし。

 ステータス低下魔法を掛けられたら即座にステータス上昇魔法を掛けるし。

 ステータス異常魔法を掛けられたら即座にステータス回復魔法を掛けるし。

 伝説の勇者の聖剣でしか倒されないように聖剣以外の物理攻撃を弾く特殊なマントを着てるし。

 第二形態になったと見せかけるように着てる鎧にトランスフォーム機能をつけてるし。

 第三形態になったと見せかけるように被っている兜にもトランスフォーム機能をつけてるし。

 大魔王が後ろに控えているように見せかける為に俺の後ろに幻術魔法で変な影を作成してるし。

 俺は何時も苦労してんだよ。

 ……まぁ、角は普通に生えてるけどね。

 二本。頭の横から。

 これだけは生まれた時から生えてたし。そこだけだよなぁ、俺が人間のイメージ道理にしようと努力しなくていいのって。

 というか、この二本の角があるからこそ、俺は魔王としての力を振るえるんだよ。

 これが無くなったら俺の力は激減するし。

 とまぁ、それは置いといて。

 食事に睡眠薬を盛られた経緯を話していくとしよう。

 それは今から四日前まで遡る。

 広範囲破壊魔法の練習をする為に空を飛んで人気の無い湖の上でぶっ放しまくってた。

 魔王だって日夜努力して魔法の修練はすんだよ。

 俺は秀才なんだよ。決して天災じゃない。あ、字が違った。天才じゃないんだよ。努力しないと何か示しがつかないんだよ。主に一人だけ俺に仕えてくれてるの臣下に。

 どうして一人しか臣下がいないんだっていうのは説明が面倒だし、どうせ後でモノローグ的なの挟むと思うから一方的に省かせて貰う事にする。

 話しを戻して、そんな訳で俺は毎日広範囲破壊魔法を連続して放ちまくっているんだ。

 今回はそれが仇となったんだよな。

 何時もより多くぶっ放してしまったからなんだろうな。

 あと、同時に飛翔魔法も継続して使ってたからな。

 飛翔魔法って一回使ったら何分間飛んだままの状態じゃないんだよ。MPを消費しながら飛ぶんだよ。実は非効率なんだよ、飛翔魔法。

 だからさ、やっちゃったんだ。

 MP完全に使い切っちゃったんだよ。

 いやそこ、間抜けって言わないで下さい。

 魔王だって失敗はするんだよ。この世に完璧超人なんていないんだよ。

 神だっておっちょこちょいなんだからさ。

 だって、あいつら浮気しまくってんだぞ。そして、何時も妻である女神にこっ酷くしごかれてんだよ。

 でもさ、神は懲りずに繰り返すんだよな。浮気と言う名の女遊び。今度こそばれないって思ってまたやるんだよ。で、毎回女神にばれるんだよ。その度にしごかれてんだよ。学習能力ないよな。

 というトリビアは置いといて。

 MP完全に使い切っちゃった俺は飛翔魔法も当然継続出来ずに切れて湖に頭から落っこちていったのさ。

 MP回復薬(大)を使う暇も無くな。

 背負ったリュックに入れとくもんじゃないな。直ぐに取れなかったんだもん。マントが邪魔で。

 今度からはMP回復薬(大)はズボンのポケットにでも入れておくべきだな。直ぐに取り出せるし。マントが邪魔にならないし。

 とかそんな事を思いながらながら湖にダイブした次第である。

 しかも、湖に水がすんげぇ冷たかったんだよ。なんせ雪の降りしきる真冬だったんだもん。水面は氷が張っててそれを俺の角でかち割って水の中へとダイブ。

 頭めっちゃ痛かった。

 角が折れるかと思った。

 折れなかったけどな。

 意外と頑丈だったよ。俺の角。

 流石魔王の角だと褒めたね。

 で、それも置いといて。

 全身を冷水に浸かった俺は直ぐに顔を水面に出して氷を掴んで水の中から脱出しようと試みた。

 でも無駄でした。

 だって、氷めっちゃ薄かったんだもん。

 掴んだ瞬間にぱきぱきと崩れていったんだもん。

 だから俺は寒中水泳を覚悟したよ。氷割りながらだったからえらく時間が掛かっちまったよ。

 なにせ、広範囲破壊魔法の練習をしていた場所が湖のど真ん中の真上だったからさ。

 どの方角を目指しても辿り着く時間が同じというある意味で均等である意味救いの無い場所だったよ。

 最悪だったよ。

 一時間掛けて湖の水から脱出したよ。

 人間だったら冗談抜きで凍えて溺れて湖の底に沈んで魚の餌になって死んでたよ。

 俺、魔王で良かったって思ったよ。

 全身ずぶ濡れになった俺はそのまま魔王城に帰った。

 臣下にものすんげぇ心配された。

 俺がただいまの挨拶をするよりも早く担がれて風呂に投げ込まれた。

「魔王を投げ込むとは何事かっ⁉」

 って怒鳴ったら。

「うるさい黙れいいから黙って温まって黙ってろ」

 って言われたから言われた通りに黙って身体を温めたんだよ。

 何で魔王である俺は臣下に黙れって三回も言われなければならないんだよって心の中で愚痴ったけどな。

 俺って臣下から信頼されてないのかな?

 いや、そんな訳ないよな。たった一人の臣下だもん。信頼されてなきゃとっくのとうに俺は一人だけになってただろうし。

 で、身体を充分に温めたんだけど、時既に遅し。

 次の日、目が覚めたら頭が痛くて喉が痛くて鼻水が出まくってたんだよ。

 要は風邪引いちまったんだよ。

 だからお前等引くなって。

 魔王だって普通に風邪を引くんだから。

 普通にインフルエンザの予防接種だって毎年近くの病院行って打ってんだよ。

 インフルエンザ舐めんなよ。インフルエンザに罹った所為で俺の父ちゃんは死んじまったんだよ。

 怖いんだよインフルエンザ。特に豚インフルエンザ。

 とか脱線した所で本道に戻るとして。

 風邪引いたから俺はベッドで横になってうつらうつらしてたんだよ。

 そして十三時頃に昼食が部屋に運ばれてきたんだよ。

 運んできたのは見た事も無いメイドだったんだ。

「お前は?」

 って訊いたら。

「バイトで本日から勤務する事になった新人メイドでございます」

 って答えたんだよ。

 俺は頭がぼぉーっとしてたからそいつの言葉を鵜呑みにしちまったんだよな。

 そいつは新人メイドじゃなかったんだよ。だって俺の城でメイドをアルバイトで雇ってないし。

 メイドすらいないし。

 まぁ、この時はついに臣下一人じゃ魔王城の何から何までの管理は大変なのだろうとメイドを雇う事にしたんだろうな、とぼんやり頭で思ってしまったが、それは無いと今なら言える。

 なにせ、臣下は自分一人で何から何までやらないと気が済まない質だからな。

 で、そんな偽メイドが持ってきたのは風邪引いた時の病人食粥だったよ。

 胃腸が弱っていたから粥が輝いて見えたよ。

 眩い黄金色に。

 でも、別にあの輝きって消化器官が弱ってた関係なく黄金色に輝いてたと思う。

 睡眠薬の中には黄金色に輝くものがあると今更ながら医療薬品の資料集に載ってたのを思い出したし。

 それに気が付かず、俺は緩慢な動作で粥を食べ始めちまったんだ。

 その黄金色に輝く粥を半分くらい食べたら急に眠気が差してきて、うつらうつらが五割増しになって、そのまま枕に頭をダイブさせて意識が途絶えたんだよ。

 で、次に目が覚めた時には俺の現状を疑ったね。

 いや、だってさ。

 風邪が綺麗さっぱり跡形も無く治ってたし。

 いや、そんな事より驚いたのが。


 俺は縄のついた首輪をつけられて何もない部屋に繋がれてたんだから。


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