おとぎの国のセレン
哲翁霊思
おとぎの国のセレン
とある街にセレンという女の子が住んでいました。
セレンはお話が大好きで、自分でお話を作っては遊んでいました。
ある夜の事、セレンは気が付くと大きな月の出た夜の森の中にいました。
見覚えのない森の中を進んでいくと一匹のタキシードを着たカワウソが現れました。
彼はニーモックと名乗りました。
セレンがここはどこかと尋ねると、ニーモックは君の作った世界だと言いました。
セレンはそういわれてニーモックのことを思い出しました。
いつも作るお話に必ず出てくるからです。
ニーモックは続けて、ここは君の世界なのだから、君が欲しいものや行きたい場所は君が好きに作れるのだよ、と言いました。
セレンが一緒にニーモックと森の中を進んでいくと、深い霧が現れました。
ニーモックがセレンに聞きます。
この世界を歩きたいならそう願えばいい、ほかの世界に行きたいならそう願えばいい、願えば霧の向こうは願った通りの世界になる。
どうしたいかい。
セレンは明るい海辺に行きたいと願い、ニーモックとともに霧の中へ進みました。
すると、そこは今までの森ではなく青空のある浜辺だったのです。
セレンはそこで感じた風や海のにおいで、夢でないことを信じました。
それからセレンは、ウミガメや金魚なんかを願いました。すると、海の中にウミガメも金魚も、願ったものがすべて現れました。
それからもセレンは、世界の端にある霧に出会ってはお願いをしてニーモックと一緒に遊びました。
おなかがすいたらおいしいケーキを願って、冒険したくなったら洞窟の世界を願って、次々と世界を作っていきました。
そしてある時、家に帰りたいと思いました。
いつものように家に帰りたいと願っても、一向に家には帰れません。
セレンは、なぜ家に帰れないのかニーモックに聞きました。するとニーモックはこう答えました。
この世界には君のほかにもう一人この世界の「君」がいる。その君が帰るのを邪魔しているのだよ、と。
セレンはさっそく世界の端に行き、もう一人の自分がいる世界を願いました。
深い霧の中を進んでいくと、大きな月の浮かんだ夜の世界に着きました。そこにある大きなお城に入っていくと、一番上の階にセレンそっくりな子がいました。
セレンにそっくりな子はアレンと名乗り、セレンを捕まえようとしました。
セレンはとっさに、ニーモックが素晴らしい騎士で自分を守ってくれると願いました。
するとニーモックはタキシード姿から騎士の姿へと変わり、手に持った剣で敵を倒し、アレンを捕まえました。
セレンはニーモックにありがとう、と言うと家に帰りたいと願い目を閉じました。
目を開けると、見慣れた部屋が広がっていました。
外はまだ暗く、セレンは夢だったことに気づきました。
楽しい夢だったと思う反面、もう少し遊んでいたかったと思いながら、もう一度眠りに入ったのでした。
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