コント 融資

ジャンボ尾崎手配犯

第1話

ナレーション「『起業』。今夜もその甘い言葉に誘われた、一人の男が融資を求め、この部屋にやってくる。男の名は、金雄呉夫。32歳、独身。そんな彼を迎え撃つのは、三人の社長たち。一人目は、長嶋雄二、45歳。飲食店経営のスペシャリスト。彼にかかれば水も酒になる。二人目は、太田友一、50歳、出版社を経営。彼が添削すればどんな文章も宝となる。三人目は、三浦慶子、36歳。ネイルサロンの敏腕経営者。爪を塗ることにかけては右に出るものはいない。金雄は彼らから金を引き出すことができるのか。」


部屋には机が3つあり、長嶋、太田、三浦が座っている。

司会を務める黒田が部屋の真ん中に置かれた椅子に座り、社長らと向かい合っている。

ドアをノックする音。

黒田「どうぞ」

金雄が部屋に入ってくる。

金雄「っしゃす」

黒田「元気がいいですね」

金雄「気合入ってますから」

叫びながら自分の顔面を平手で叩き始める金雄。

金雄「どうすか?」

黒田「ちょっと落ち着いてください。あの、その席についてもらって……」

金雄「あざます!」

黒田の隣に置かれている椅子に座る金雄。

黒田「では、希望する融資額の発表をお願いします」

金雄「3000万円です」

黒田「その使い道は?」

金雄「腋おにぎり専門店の開店資金です」

長嶋「すいません、ちょっといいですか?」

金雄「どうぞ!」

長嶋「腋おにぎりってなんですか?」

金雄「腋おにぎりというのは、女の人の腋を使って握ったおにぎりのことです」

長嶋「それの専門店と」

金雄「そうです」

長嶋「お前、馬鹿じゃねえか」

金雄「あざます!」

長嶋「うるさいよ。少し黙れ」

金雄「はい」

三浦「一応聞きますけど、一号店はどこに?」

金雄「代官山です」

三浦「なぜ代官山に?」

金雄「やっぱり、おしゃれな店にしたいので、雰囲気的に代官山かなと。後、芸能人の方がすごくいると聞きましたので。僕、食べて欲しいんですよ、芸能人の方にも」

長嶋「食べないと思いますよ、そんなもん。ゴミじゃないですか」

金雄「いや、ぜひ今日は試食してほしくて、持ってきたんです。腋おにぎりを。黒田さん、呼んでも大丈夫ですか?」

黒田「はい、あの、準備が出来てれば」

ドアの方に向かってあるく金雄。

金雄「(ドアから顔を出して)おーい、持ってきて」

椅子に戻る金雄。

金雄「今、呼びましたので、ちょっとお待ちください」

ドアから水着姿の女の子が入ってくる。

右手でお盆を持っており、おにぎりが四つと霧吹きが並んでいる。

金雄「みなさんに今日は試食という形で用意させていただきました。こっちの彼女は、臨時の従業員として雇っている子です」

長嶋「黒田さん、それは食べなきゃいけないんですか」

黒田「もし、よかったら」

三浦「ちょっとねー、食べるのはねー」

大友「いや、でもね、僕は話を聞いていて、ちょっと興味出てきた」

怪訝な顔で大友を見る長嶋と三浦。

大友「それは食べてから判断しないと、フェアじゃないと思う。長嶋さん、飲食経営してますけど、社員が提案したメニューは食べますよね」

長嶋「それは食べます。でも、こんなふざけたメニューはさすがに提案されないですよ」

大友「そのふざけたところに、可能性があるんじゃないかと思うですよ。僕は出版やってて、ふざけた本何冊も出してきました。『こんなの売れないよ』ってみんなから言われました。だけど、売れたんです。みんなが否定する物には可能性があるんですよ」

ナレーション「対立する社長たち。一体どうなる?」

黒田「それでは、一口だけ食べてみてはいかがでしょうか。大友さんが言うとおり、そこは食べて判断ということで」

渋い顔をする長嶋と三浦。

一人表情を変えない大友。

金雄「黒田さん、ありがとうございます。じゃあ、みんなにおにぎりを配って。あ、その霧吹きの中には汗が入ってますので、お好みでかけてください」

おにぎりを渡していく水着の女の子。

大友は霧吹きでおにぎりに汗を追加する。

おにぎりを深いな顔で見つめる長嶋と三浦。

黒田のところにおにぎりを持って行く水着の女の子。

黒田「僕も、ですか?」

金雄「黒田さんにも是非食べていただきたいなと」

渋々おにぎりを受け取る黒田。

大友「これはいつ作られたんですか?」

金雄「ついさっきです。本番入る前に作りました。なので、鮮度はまだ保ってると思います」

おにぎりの匂いをかぐ大友。

大友「匂いはまあまあですね」

大友の方を見る長嶋と三浦。

金雄「是非、感想を貰いたいです。今は、一種類しか味がないですけど、融資していただいたら、様々なバリエーションの腋おにぎりを用意するつもりです」

大友「例えば?」

金雄「熟女の方だとか、あと外国人の方とか。マニアのために、ワキガも用意するつもりです」

大友「なるほど。それじゃあ、いただきます」

嫌々ながらも、一口食べる長嶋、三浦、黒田。

普通に食べる大友。

大友「これは、そちらの女性が握ったということですよね」

金雄「あ、実は、私の腋で握ったものです」

おにぎりを吐き出す四人。

長嶋「水、持ってきてくれ、水!」

ハンカチで口を蔽い、えずく三浦。

霧吹きを長嶋のもとに持って行く金雄。

金雄「もし、あれでしたら、これで」

長嶋「いらんわ!」

霧吹きを叩き落とす長嶋。

大友「なんで、あんたが握ってるんだよ!」

金雄「すいません。試作品なもので、僕が……」

長嶋「帰ります。二度と呼ばないでください」

三浦「私も失礼させていただきます」

ドアから出て行く二人。

大友「裏切られました」

ドアから出て行く大友。

黒田「今回の融資額は0ということになりました」

金雄「おいしくなかったですか?」

黒田「はっきりいって最悪です。頭おかしいんじゃないかと」

金雄「また企画を練り直して再チャレンジさせてください」

黒田「二度と来ないでください」

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コント 融資 ジャンボ尾崎手配犯 @hayasiya7

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