見習い弁護士と半裸師匠

名瀬口にぼし

 

序章

第1話 西の端の村

 やわらかな水色の秋空の下、村のはずれにある高い木の根元にその人は座り、一枚の紙に目を向けていた。ぬるく心地の良い日差しが木漏れ日をつくり、その青年の砂糖菓子のように白い髪に影を落とす。


 リーフェはすぐ横に腰を下ろし、その人が紙に書かれた文章をゆっくりと丁寧に読んでいくのを見つめていた。

「どうでしょうか。トマーシュ様」

 どぎまぎしながら、リーフェは聞いた。


 その人は名をトマーシュと言い、美しい青年であった。

 トマーシュは読み終えると紙から目を上げ、リーフェに微笑んだ。

「うん、よく書けている。これならきっと、試験も合格だ」

「そうですか? そう言ってもらえて、嬉しいです」

 ほめられたリーフェは照れて頬を染めた。そして姿勢を正して座り直し、頭を下げた。

「女で、しかも農民の子である私が、ここまで来れたのはすべてトマーシュ様のご指導のおかげです」

 切々と感謝の気持ちを込め、リーフェは言った。


 するとトマーシュは、リーフェの頭にそっと手のひらを置いた。

「私が教えたのはほんの少しのことだけだよ。君がとてもよく頑張ったのは、私が一番知っている」

 トマーシュの指がリーフェの褐色の髪をゆっくりと撫でていく。この手に救われて、リーフェはここにいる。

 自分が恵まれた存在であることを実感し、リーフェは笑みをこぼした。同時に、心の奥深くから果てない夢を求める気持ちがわきあがってくる。

「ありがとうございます。私は、」

 凛然と声を響かせ、リーフェはトマーシュの顔を真っ直ぐに見上げた。挑戦する意志を、その輝く茶の瞳に込める。


 トマーシュは何も言わずに優しく見つめ返した。


 リーフェはその温かさに安心して、野望を口にした。


「私はトマーシュ様と同じ、弁護士になります。必ずなります。そして真実を求め、守り、かつてあなたが私を助けてくれたみたいに人を助けます」


 リーフェ・ミシュカ、十八歳。それは弁護士の資格を得るための国家試験を前にした、決意表明であった。

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