オレが世界を護るなら

モトチカ

クソおもんない日々に終止符が

 なんだかなぁ……え?名前を言うのが普通だと?

 待てよ、名前……そうだ。


「アルファって呼んでよ――」


 そんな事をして数年が経つ。

 今は高校生を終えて、職に就くのだ…!


 オレは今、面接官の前にある椅子に座っている。


「えーと……麻衣総司あさぎそうじ君だっけ?」

「そっそうです」

「君……不合格だ」

「……はい」


 くっ、また落ちたぜ。

 これで100も落ちたってことだぜ? ワイルドじゃね?


 まぁそんな馬鹿な事は置いといて、また今日も落ちたって訳だ。


 親のすねかじり――

……そうかもしれない。


 いくら過去にデカイことをしても今はしがないフリーター。

 本当にツイてない。


 ため息をつきながら、歩いていると赤くてちょっと優しい感じのする不思議な自販機を発見した。


 おっ……自販機でジュースでも買うか…。

 おしるこ……夏だから無いよなぁ。


 使い古した財布から五百円玉を入れて、コンポタを買おうとした時。


「なんだこれは……!! すっ吸われる!」


 謎の力によって自販機の小銭入れる所に吸い込まれてしまった。

 吸引力はタイソン並だ。


「あぁ! まったく……なんて日だ!」



……ってここ何処だよ……。

 周りはよくわからない、真っ暗で何も見えないんだから。


「いやここ何処だよ!」


 大声で叫ぶがやまびこのように帰ってくるオレの声。


「君も吸われたのか……?」

「おい、君も連れてこられたのか? 的な感覚で言わないでくれる!?」

「すまなかった。君って吸われちゃったの?」

「なんだよ、第三者の厳しい目の人みたいに言いやがって。お前も被害者だろうがぁぁ!!」


 もう適当に叫ぶしかなかった。

 目の前にいる男は、よくわからないけど真顔だった。


「わかったから、んで……どうして来たんだ?」

「五百円玉入れて、コンポタ買おうとしたら、吸われた」

「僕は千円入れたから、僕の勝ちだ」

「うるせーな! その千円で過去でも拭いてろ!」


 しかし、この変な空間やだなぁ。


「まぁまぁ、適当に流しておくよ」

「そうか、詰まらせないようにな」

「これからどうする?」

「いや何が?」


 まて、嫌な予感がする。

 男の顔はにやけていたのは見逃さなかった。


「このまんま、永遠にここに居るか、異世界で世界を救うか…」

「おい、なんて言った」

「世界を救うか救わないか」

「なんて極限で極端な選択なんだチクショウ」


 すごい、無理ゲーを押し付けられてるという言葉が1番当てはまる時。


「―いいじゃん、元勇者なんだからさ?」

「何故それを……」

「知らないなぁ……で? どうするの」

「もちろん…ここから出るために世界を救うさ…」


 自販機め……今度から五百円入れないからな。

 マジな話、俺は――


俺の意見はもう身体に出ているようだ。


「決まりだ、そこのトビラ開いて、救ってきな」

「わかった、今から行ってくる」


 オレは世界を護る為に……いや、自販機から出る為に、白くて変なトビラを開いた。


「――頑張ってよ、







――なんなんだよここ……。


 確か、俺は門を潜って……そこからなんだよな……。

 記憶がない。 仕方ないけども無いのだ。

 とりあえず、棒立ちはやめよう。


 周りには草原が広がっている。

 さらに言えばスライムみたいな奴がいる。

 もちろん、ドロドロの方。


 懐かしい感覚でモンスターに近づいて、語りかける。


「なんだ? スライム」

「……いや別に」

「喋るんかぃ!」


 ツッコミも刃こぼれしちゃった。

 しかし、平和に見えるのに、何があるんだろう……。


 村無いかなー。


――ん?


「なんだこれ」


 地面に剣が突き刺さっていた。


「ワクワクするな!」


 そう言いながら、俺は剣のもとに駆け寄る。


 しかし、イバラが巻きついた剣だった。

 その剣は余りにも不格好で、傷も激しく……。


「よっしゃ! これで身を守れそうだな!」


 思いっきり、その剣を引き抜いた。


 俺……アルファは馬鹿だった事を覚えている。


――30分後―

 村ってもっと先かな?

 きっとそうだ。


 お腹も空いてきたな。



 ――凄いぞ、雲がほぼ消えた。かなり時間経ってしまってる事は容易に想像出来た。


 もうやめだ! 家作って寝る!


 流石に時間の消費だし、家を作らないとゆっくりして寝れない。 夜は危ないと相場が決まってる。


 実は拾った剣でサクサクと木材を切っていける。捗るぜ。


 伐採しまくっていると……

――ポキッ


 え……剣が折れたぁぁぁ!!


 余りにも虚しく響いた音はその辺の木々を揺らしたような気がした。


 折れた刃を見つめ……投げ捨てることにしか出来なかった。


 視線を逸らして木を見つめる。


 最悪だ。パンチで木を壊すなんて、何処のマインクラフト?


 もう仕方ないから切った木材で斧を作る事にする。


 木の棒に、斧の刃をかたどった部品をイイ感じにはめ込む。がっつりはまって、もう離れそうにない。

 そう! これが!


――木の斧


 なんだろう、この虚しさと悲しさ。


 ……そうか、気づかなかったんだ。

 この斧は虚しさで出来てる。


 ダイヤの剣は虚栄心で出来てる。


 きっとそうなんだ! 神様!教えてくれてありがとう!


 とか馬鹿な事を考えながら木に対して全力で木の斧を振りかぶってフルスイングしながら一撃をぶち込む。


 凄いぞ、面白いくらい木が切れる。

 剣とは違う。


 辺りの風が強くなってきて、木々はもちろん、草も大きく揺れる。


「クラフト……するかな」


 そういうと、オレはその辺に置いた木材を前に置き、上段構えで振り下ろす!


「チェストォォオ!!」


 とか言いながら、全ての丸太を処理した。



 軽く作るならテント……とは考えたが、やめておく。


 とりあえず、木の板と棒を合わせ、板を削ってスコップを作った。

 適当に山みたいなの無いかな。


 ……普通にあった。

 山のような土をスコップで器用に掘り出す。

差し込んで土を取ってはその辺りに投げ捨てる。


 ザクザクほって時間は過ぎていく。

 気がついたら、穴は大きくなっていた。


 土が落ちないように……っと。

 オレだって馬鹿じゃない。土に木の板を貼り付けて、行く。

 悔しいが、腰が痛くなりそうな角度で押していく。

 椎間板ヘルニアにはなりたくないぜ……!

 流石に崩れないが、念には念を推して、木の板で

土を押し返すようにペタペタと貼っていく。



 少し休憩がてら、外に出て、仮住まいを見てみる。

 あぁ、なんて残念な見た目なんだろう。


 まだ見た目にこだわれないよな!


 ……と心に念じて置く事にする。


 こんな世界に来たのだ、どんな事があるかもわからないのに、見た目に構う暇はない……のだ。うん。


 また穴の中で黙々と木の板を貼ったり作業しているが……空がオレンジ色になってきた。


 この板ハメたら、1度完成にして、寝よう。

疲れた…。


 更に念を推して、木の剣を……明日作ろう。


「おやすみ」


 今作ればよかったと後悔するのは言うまでもない。


――異世界生活1日目が終わった。












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