永遠の華となれ

水波 碧海

episode:1 突如現る変態

今日はお母さんの命日。

綺麗な満月と雲ひとつない星空に祝福されて、お母さんは一周忌を迎える。





「良かったね…」





空に向かって笑ってみた。お母さんもきっと笑ってくれていると思う。


人生全てを一瞬にして奪われて、それでも最後まで美しく、儚いひとひらの花びらが散っていくように微笑み続けたお母さんとの時間を思い出しながら。











独り宙を見上げていると、なにやら背後から1つの足音が近づいてきた。


この屋敷は華咲組の者しか立ち入ることの許されない場所で、しかも私が今いる場所は女部屋だ。さっき私が部屋を出てきた時にはもう皆寝ていたのを確認してきたし、私のあとをついてくる奴なんていないはずだ。


懐の中にいつもしまっている短刀を音を立てないように手に忍ばせ、履いていた下駄をそっと脱ぎ、寝巻きの帯を静かに解いた。


これは全て、お母さん直伝の対処法。追っ手が来た時、『相手を確実に仕留めることの出来るのは最初の一手のみ』ということを、私はいくつもの実戦で学んだ。衣服の帯を結んだままにしておくと、腹部の動きが制限されてしまうため、勝算も低くなる。帯を解いてしまえばやはり、中の方が見えてしまうけれどそれはもうどうしようもない事で、これはもはや最低限の戦法と言っていいだろう。





2度目の足音が聞こえ、私は勢い良く飛び出した。短刀を真横に振り回し、視点を狙い定める。相手の首筋を狙って刃先を刺すと、思いもよらない相手に驚いて手を止めた。そんな私とは反対に、そいつは私の手首を思いっきり掴んで私の短刀を手早く床になぎ落とし、身動きが取れないように両腕を拘束した。





「?!?!」





「…ったく...お前何してんだよ俺に向かって」





「…冬雅?!」





「どこ行ってんのかと思って探しに来てやったらコレだよ...さすがだなおい」





「なんで冬雅が女部屋に入ってきてるの?!そもそもそっちがおかしいんじゃない!」





「ハア?...........お前恭さんから何にも聞いてねえの?」





「.........えっ?お父さん???」





「今日の零時、恭さんの屋敷へ来いって...」





「なにそれ?!...初めて聞いたんですけど!」





「やっぱりそうかよ...念のためお前の屋敷に来といてマジ良かったわ........」

「.........お前さ...恭さんからの手紙とかどうしてるわけ?」





「え?手紙ィ?読んだのと読んでないのがあったと思うけど...」





「呆れるなオイ...それでも跡継ぎかよ…もっと自覚をもって女らしい振る舞いしろっての…」


「まあ女じゃねえのが永遠だからしょうがねえな...」





完全にはっきりしている態度と物言いで、冬雅が嘲笑ってくる。無性にムカついた私は、冬雅の溝の奥深くそこの底に一発(威力五発分)をお見舞してやると、なんともダサい小さな呻き声が聞こえてきた。




(なんとも言えないこの達成感と後味の良い快感...。たまらん...!)





女子のくせに、こんな快感を幸せに噛み締めるのはいかがなものか。永遠はもはや手遅れな女子なのかもしれない。





「っっっっっいってえなコノヤロ.....!」





「冬雅が悪いんでしょ。ふんっ。」





不貞腐れた顔でプイと反対方向を見つめ、随分とご立腹な様子だ。

冬夏の方から見える永遠の横顔は、永遠の母である桜にそっくりだ。いや、そっくりではないかもしれない。桜以上の美しさを持っていると言っても間違いではないくらい、周りを完全に引き離す美しさを持っている。まあ、周りの男達が毎回夜の晩餐になると寄ってくるのが永遠目当てなんてこと当の本人は知ったこっちゃないが。





(そんなとこも桜さんにそっくりなんだけどな。)








「でもどうして冬雅がお父さんに呼ばれたの?」


「さては何かやらかしたか。」





「何もやらかしてねえよ...お前はそうやってすぐ俺を確信犯に仕立てあげるな...」





「じゃあなんで...?」





冬雅が呼ばれるのに、事件を起こしていないのなら何故なのかを真剣に考える永遠..。





「俺が完全なる問題児のように扱うんじゃねえよアホ」


「...……詳しくは聞いてねえけど、1人で屋敷に来いって呼ばれたんだよ」





「1人で..?」


「夏樹様は一緒じゃないのか...」





しょんぼりと顔を垂れる。





「今日はいねえよ。悪かったな、夏樹がいなくて。」





「べ...別に冬雅が謝ることないよ。でも会えないのは残念だなあ。」


「そっかあ。なんだ来ないのかあ。」





あからさまにガッカリする永遠に傷つく自分がいる、その事実にはあまり気付きたくないのだが。





「お前こそ何か心当たりはないのかよ。」





「う〜ん...。そう言われてもなあ...。」





「まあ、分かんねえから行くんだろ。さっさと準備しろよ、置いてくぞ。」





「ちょ、ちょっと待っててば...!」





置いていかれそうになりながらもなんとか冬雅の着物の裾を掴むと、思いのほか冬雅が気持ち悪いくらいニヤニヤしながら私と目を合わせてくるから不思議に思った...。





「......なっなに?」





「永遠ちゃんどうしたんだよ急に積極的になっちゃって。」





「え???」





何を言われているのかさっぱりわからなかったので、とりあえず冬雅の視線の先にあるものを辿ってみた。すると...





「ぎゃあああああああアアアアっっっっ!!!!!!」





先程のプチ戦闘で寝巻きの帯を解いていたことをすっかり忘れていたのだ!そのせいで、私は下包だけの姿を冬雅に正面からバッチリ見られるという結果になってしまった。しかも今日の下包は、いつもより透け感倍増のヤツで運の悪さが変なところで思いっきり響いてしまった。





「なにその可愛い下包♪」


「俺に見せるために準備したとか?♪」





思いっきり変態丸出しの冬雅にふつふつと怒りが表れはじめていたが、今の言葉でブチッとキれた。





「バッカじゃないのっっっっっ!!!!!!!!!!」


「このエロ天狗っっっっ!!!!!!!!!!!」





「ったく...エロ天狗にさせたのはお前だろ?」





こんなに怒られてもエロを引っ込めないのは、やっぱり年頃の男子だからだろうか。


もはやしょうがないと悟った永遠は、右手を固くきつく握りしめ、冬雅の腹部中心めがけて勢いよく殴った。





「ふぐっっっっっ............…」





二度目の攻撃に、声にならない音を発してそのまま床にくずおれた冬雅を見た永遠は、まるで勝ち誇ったかのように飄々とした顔つきで自分の部屋へ支度をしに戻っていった。





その頃、冬雅はまだ床で一人悶え苦しんでいたのだった...。





























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