The Valley of Fear

 わたしは気がついた。

 モリアーティであった肉塊が、今や漆黒の完全球体と化した肉塊が、深々と地中に沈み込んでいることに。

 いや、気づいたときにはもう、遅かった。


「ホ

  ー

   ム

    ズ

     !

      」


 わたしが叫んだ刹那、

  ロンドンはモリアーティ球体によって

   真っ二つに割れ――巨大な峡谷と化した。


 そ

   し

     て

       、

         わ

       た

      し

     た

   ち

 は

   目

      に

        見

          え

         な

        い

      強

    い

  力

 に

 っ

  張

   ら

    れ

     て

       、

        地

         面

          を

         滑

        り

      落

     ち

    て

   い

  っ

 た



 ――モリアーティ球体の重力ベクトルに対して鉛直な平面画面を今なお地面と言って良いのなら。


「つかまれ、ワトスン君!」


 わたしは傍らを滑る鏡の国のホームズに言われるまま、やみくもに手を伸ばした。


「恐怖の谷、か」


 ホームズは、痩せた体のどこにそんな力があるのかと思うほど強固な力で私の腕を握りしめながら、苦々しげに呟いた。もう片方の手は、地面に突き刺したステッキのようなものを、やはり強く握りしめている。


「こんなことが現実に起こりうるのか?」


 最早もはや底すら見えない深淵には、しかし、間違いなくモリアーティ球体があって、今なお下へ下へと突き進んでいるのだ。













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