夕暮れの風車

藤原遊人

第1話 不気味な子ども

この想区にはこんなお話がある。



「願いことを叶えてくれる神さまがいる」



人の子は神さまにお願い事を告げることができる。神さまはお願い事を成就させる。


でも、忘れてはいけない。


誰かにお願い事をしたあとにはきちんとお礼をしなければいけないということを


だから、たまには、ね?


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エクスたちが降り立った場所はどこまでも続く長い長い道だった。右手側にも、左手側にも黄金色に染まる稲穂が垂れて、どこか懐かしい気持ちになる田園風景だ。

綺麗ではあるが、歩いても歩いてもなかなか変わらないこの風景に飽きてきたころだった。


どこの想区でも迷子になる迷子の達人でもあるレイナがいてさえ、迷いようのない真っ直ぐな一本道だった。

それもただひたすらに長く景色も代わり映えしない。何も通りかからない。ヴィランすらでない。


ここまで、何もないといないのが有難いにも関わらず、ヴィランさえ出てきてほしいと思い始めるから不思議だ。



「おい、あんなところに」


「子どもですかね」



日も傾いて赤い夕陽があたりを照らしはじめたころ、エクスたちの歩いていく先の草むらに潜んでいるのだろう子どもの姿が見えた。

彼的には草むらにこっそりと、隠れているのかもしれないが、その派手な赤い衣装のせいで丸見えになっていることを本人は気がついていないようだ。あれだけ派手な衣装で隠れようとするのは無為な努力だ。


話しかけようとエクスたちが近付いて声をかけようと思ったそのとき、子どもは低い声で唸った。



「今日こそ」



肩に触れるあたりで切り揃えられた黒髪が風に靡くが気にすることなく目の前の道を睨み付けている。

美童であるのに、歯ぎしりして、縄を握りしめる様は不気味さがぬぐえない。逆に美童であるからこそ、迫力がある。



「祟ってやる」



不穏な言葉が聞こえた。



「今なんか」


「聞き間違えじゃなさそうね」



ストリーテラーから空白の書を渡されて、演じる役を与えられなかったエクスを含めてから、幾ばくか旅を続けてきた。ある世界では桃から生まれた青年にであったり、海賊と一緒に行動させられたり、様々なことがあった。


そんな世界を渡り歩く四人でもいきなりこんな不穏な言葉を呟く子どもと出会ったのは初めての経験だった。



「まあ、おかげさまで早くカオステラーは見つかりそうだが」



タオは彼の発言からこの世界のカオステラーに繋がるヒントを見つけられたらしい。



「ようやくおでましね」



面倒なことが嫌いなタオは既に素早く解決しそうな兆しに笑みを浮かべながら走り出していた。

その子どもの背後にわきはじめたヴィランを見てとった他の三人も目配せをして、その背中を追った。

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