第7話
「何故こうなったし」
俺は目の前の状況を見てそう呟く。
例えるならローマのコロッセオみたいな、円形の闘技場で向かい合うテライケメンの金髪の青年と俺。女性の視線も声援も全部青年に向かってる。王国のリア充男子共も青年を応援してる。俺の味方は哀れな毒男達だけだ。ちょっとアウェー過ぎない?
クソ……! リア充なんて死んじゃえばいいんだ! この世から消えちゃえばいいんだ!
『哀れよのう主よ……』
『うるせー!』
とりあえず落ち着こうか俺。
とりあえず、俺は今日の朝からのことを振り返ってみることにした――。
召喚されてセンリと話したあの日。食事に行かなかった事のお咎めを受ける、と言ったこともなく結構自由に場内で過ごしていたりした。
なんで直ぐに魔王討伐に行かないのかって、そりゃ召喚された勇者とはいえ俺たちは素人だから、まともに剣を扱えない。だからある程度一人でもしっかり戦えるようになるまで訓練期間と言うものが設けられているのだ。で、今はその訓練期間中ってわけだ。
その間イリアと何度か話をしたりしたけど、何かを起こすといった気配もなく、かといって何かを言ってくる気配も無いから放置していた。こっちから起こせるアクションなんか思い浮かばないし。
「光、最近どうよ?」
「訓練キッツイんだけど。だんだん魔王倒さなくてもいい気がしてきた」
「いやお前が言い出したんだから頑張れよ。巻き込まれた俺の気持ちも考えろよ」
「だからごめんて。悠里は?」
「帰りたい」
「知ってた」
なんて光と休憩がてら話したりしながらも訓練はこなしていく。基礎体力作りとか、剣の扱いとか。ゲームみたいに簡単にはいかないのだ。
そんな感じで数日が経ったある日、なんか王子様が外交先から戻ってきたとかなんとかで場内で小さいパーティーが開かれるらしいというのが耳に入ってきた。
その情報を持って来たのは数日の間に仲良くなった俺付きの執事さんで、一応儀礼的に王サマが俺にも声をかけたのだとか。まあ腐っても俺だって勇者だしな。声をかけないわけにもいかないか。
「如何なされますか、ユウリ様?」
「それって行かなきゃ駄目なわけ?」
「一応、ユウリ様に関しては任意でのご参加と承っております」
「じゃあ、出席の義務はないわけだ。なら行かないです。パーティー開くってことはその時間訓練がないんでしょ? せっかくの空き時間なんだから、部屋でゴロゴロするわ。それかセンリとかカイリさんと喋ってるか。パーティーよりはそっちの方が楽しいでしょ」
「そうおっしゃると思っておりました。では、その旨をお伝えしてまいります」
そう言って俺に一礼した後、執事さんは部屋を出てった。ちなみにカイリさんってのは執事さんの名前。カイリさんは金髪青眼の爽やかな好青年といった感じの人で、いつも燕尾服を着ている。イケメンと言うほどではないけれど、柔らかな物腰と笑顔が特徴的だ。
俺はベッドに座っていた態勢から立ち上がると部屋着から、王国から支給されている服に着替える。動きやすい訓練用の服装だ。最初に着ていた
それから俺は部屋から出て、あの日以来仲良くなった
「ユウリ様! 今日のパーティーには出席されないんですか?」
「行かない。出席義務ないらしいし。めんどくさい」
どこにいるかなーとブラブラ歩いていると、食堂の入口でセンリに会った。これから朝食を取ろうとしていたらしい。パーティの話とかあるし、せっかくだから一緒に食べることにした。
学校の体育館くらいある食堂には長い長ーい机が十数個並べてあって、奥にカウンターがある。カウンターの近くにはたくさんの料理が並べられていて、その料理を自分からとっていくセルフ方式だ。王城に勤める人はたくさんいるからこういう形式になったらしい。食堂の上からは窓を通して太陽の光が降り注いでくる。
お盆を持って料理を取った俺とセンリはカウンターに近い席に陣取った。
「ユウリ様、おはようございます!」
「センリちゃんおはよう!」
「ユウリ様おはようございます!」
「センリちゃん、今日もユウリ様と仲良いね!」
「おーう、おはよー! 俺も頑張るから、お前ら今日も頑張れよ!」
「おはようございます、皆さん!」
朝ご飯を食べながら席に座っていると、様々な人から声をかけられる。俺とセンリが一緒にいろんな所に出没するから、顔と名前を覚えられたらしい。皆気さくで良い奴ばっかだから、俺も挨拶を返す。
センリは魔導士見習いといっても、そもそも魔導士になれる存在がそんなにいないから、場内での評判は悪くはない。貴族からの評価が低いだけだ。まあ、確かに見習いを仮にも勇者のパーティに加えるのはどうかって思うし。俺はセンリのこと好きだけどね? 今更パーティ変えますって言われてもお断りだし。
いろんな人に挨拶されるけど、中でも兵士の人達は挨拶するだけじゃ飽きたらず、俺と手合わせしたいと頼んでくる奴も多い。俺が勇者だからか、どれくらい強いか確かめたいとか、腕試しがしたいとか。そんな人たちにはもれなく邪神の力の練習台になってもらっています。でも、そのせいで城内ではなんか俺が結構強いということになってるらしい。それは俺が強いんじゃなくて邪神の力が強いんです。
『邪神の力はお主のものじゃろうが』
『なんか違うじゃん? こんなぽっと手に入ったものが俺の力って、そんな風には思えないというか。チートコード打ち込んでプレイしてるみたいな』
改造コード打ち込んでゲームプレイしてるみたいな感じ。まあここは現実なんだけど、感覚的にね?
というか、なんで俺がこんなに話しかけられていて、なおかつ手合わせまで頼まれるかって、場内の兵士の人たちとか、いわゆる平民出身の人たちは光に話しかけづらいかららしい。光は本命勇者っていう扱いだから、王サマと王女サマが囲っていて、よく貴族の人たちとも一緒にいたりする。だから話しかけづらいんだとか。その点俺は一人でぶらぶらしてることもあるし、誰かと一緒にいてもセンリとかイリアとかいった、平民出身の人たちにも馴染のある人と一緒にいるから話しかけやすいんだと。
俺ももっといろんな人と話したいんだけどなぁ、なんて光が愚痴っていた。まああいつだって普通の一般家庭の出身だからな。貴族とか王族とかと一緒にいたら疲れるんだろう。ご愁傷さまだ。
「センリはパーティー出るの?」
「ユウリ様が出ないなら出ません。主が出ないのに従者が出る意味はありませんし」
「そっか。パーティーって美味い飯とか出るんかね?」
「さぁ……? 私そういうのに出たことないのでわからないです。私が出たことあるパーティーと言えば、孤児院で誰かの誕生日にやるためのささやかなパーティーくらいですし」
「俺も似たようなもんだわ」
しばらくセンリと他愛ない話をしながら朝食を食べていると、食堂の入り口の方から赤い髪をポニーテールに纏めた凛々しい顔をした美人が近づいてきた。
「おはようイリア。何、お前も朝飯?」
「ああ、そうだ。それとユウリ、お前は今日のパーティに出席するのか?」
お盆を置いて俺の隣の席に座ると、イリアはそう聞いてきた。
「いんや、出ねーよ」
サラダを食べながらそう返す。行儀の悪い俺の行動にセンリが注意してきた。
センリは始めこそイリアを警戒していたけど、何も行動しないイリアにもう慣れたらしく警戒を解いていた。今では結構話すような仲らしい。パーティの仲がいいのは良いことだ。
イリアがトレーを置いて俺の隣に座る。ちなみに俺達三人は特別待遇で貴族と同じような飯が食べれるらしいけど、俺がこっちの食堂を使ってるから他の二人もこっちを使っている。
だって、貴族と同じご飯食べるってことは貴族と同じ食卓に着かなきゃいけないってことでしょ? すっげー疲れそうじゃん。俺は庶民なんだよ。だから食堂で食べるの。っていうかこういう食堂で食べるのとか結構好きだしな。学校の宿泊学習みたいな感じで。
「イリアは出るのか?」
朝食を食べ始めたイリアに聞き返す。
「あんな奴らのパーティなど願われてもお断りだ」
「ふーん……」
イリアも出ないのか。これで俺のパーティは全員欠席が確定、と。なんという不敬な勇者パーティだろう。これでも一応お国から給金をもらっているというのに。俺はもらってないけど。
うーん……だったら今日暇になった訳だし、力の訓練とかしておくか。剣とかの訓練とは別で、これはお城の兵士とか騎士の人とかに教えてもらうわけにはいかないし。
「それじゃ、今日は俺の訓練に付き合ってくれよ。二人共暇なんだろ?」
俺の言葉に二人は頷くと朝食を流し込んで立ち上がった。
「そんなに急いで朝飯食わなくったっていいんだぞ? 何か予定があるわけでもないし」
そう言うとイリアは眉を潜めて俺を急かした。周りには聞こえないような小声で訓練場に行こうと促す。
「早く移動しよう。奴が来る前に」
「奴……?」
その俺の呟きにイリアもセンリも答えることなく、半ば引っ張られるように俺は訓練所へと連れて行かれた。センリも何も言わずに移動するってことは知ってるってことか? 奴って誰だよ!
イリアに引っ張られて訓練場に着いた俺たちは、さっそく訓練を始めた。訓練場は城の外側に建っていて、学校の校庭くらいの広さがある円形の闘技場みたいなところだ。なんでか知らないけど観客席みたいなものまで付いている。
まず最初にウォーミングアップをする。準備体操をした後、魔剣を取り出してイリアと打ち合う。魔剣の威力は知っての通りドラゴンを一刀両断するくらいの威力がある。その魔剣を、量産されている兵士の支給品の剣で受け止めているのだから、イリアの実力の高さが窺い知れる。
正直イリアの強さは規格外なので、普通の兵士じゃ相手にならない。あいつ俺の従者になってから極端に力を抑えることを止めたし。普通の兵士が何百人相手にしたって相手にはならない。無双ゲーみたいな光景がリアルで再現されるだけだ。
ちなみに、センリが落ちこぼれ魔導師で、未だに見習いから抜け出せていなかったのは、上手く魔法が使えていなかったかららしい。魔力は人の数倍あるのに魔法が上手く使えないので、落ちこぼれなんだとか。
それもそのはずで、センリは見た目は人間だが中身はかなり魔族に近い。そして人間が使う魔法と魔族が使う魔法は似ているようで全然別物らしい。だからセンリは魔法が上手く使えないのだ。
なのでセンリには特別メニュー。ディアナから聞き出した魔族用の魔法をセンリに練習させている。センリ曰く魔族用の魔法は威力が強すぎて制御しにくいらしい。
まあその辺の案配は俺にはよくわからんから、センリの訓練は放置。俺からは何も言えない。魔法なんて使えませんしおすし。
イリアとの打ち合いを止める。ウォーミングアップには十分だろう。体も温まったし。
今日の訓練は俺の力の訓練だ。だから、俺の力を使って訓練する。
――と言うわけで、作り出したのは俺の分身。ディアナがいた世界で作ったドラゴンみたいな感じで作り出した。
その分身は見た目はほとんど俺と同じ。実力も同じだ。某忍者漫画の影分身みたいな感じだ。その影分身と違うのは簡単には消えないこと。
……の、はずなんだが。
『ディアナ、コイツ強すぎじゃね!? 実力は俺と同じなんだろ!?』
『主と別れる時にわらわの知識を流し込んでおいた。主よりも邪神の力の扱いが数段上じゃぞ』
『この、ドS幼女があぁぁぁ!!』
相手の影から、真っ黒な触手のようなものが数本生えてくる。その触手が俺に向かって伸びてくるのを、魔剣を使って防ぐ。金属を弾いたような音が響く。何でできてんだよその触手!
防ぎきった直後に魔剣を振って黒い衝撃波を飛ばす。が、何か見えない壁みたいなものに簡単に弾かれる。お返しとばかりに俺の倍くらいある衝撃波が飛んできた。
「うえぇ!? 何あれ反則だろ!?」
『ほれほれ。防ぐなり避けるなりせんと大ダメージじゃぞい!』
「くっそおぉ!」
魔剣を両手で握って衝撃波を思いっきり叩く。衝撃波をなんとか弾き飛ばすと、いつの間にか目の前に俺の分身がいた。
「はや――」
横凪ぎに振られた分身の魔剣を、俺の魔剣を立ててなんとか防ぐが、あまりの衝撃に弾き飛ばされる。空中でなんとか態勢を立て直し上手く着地した。
いや、強くね? 何なのアイツ。ホントに俺かよ。もはや別人だろ。
「っかー! 勝てる気がしねえ!」
『何を言っておる。自分自身に勝てぬ道理なぞこの世にありはしないぞ』
『いやいや、あいつ明らかに俺よりつえーじゃん!』
『元は主と同じじゃ』
そんな会話をしている間にも分身からの攻撃は断続的に続く。触手とか、魔法っぽい何かとか、斬撃とか。それを必死にいなす。一瞬でも気を抜いたら絶対にやられる!
「やられて……たまるかぁぁぁぁ!!」
触手が一斉に襲い掛かってきて、その間を縫うように黒い斬撃が飛んでくる。それを渾身の力で弾き飛ばす。ああもう鬱陶しい! こんなのと戦い続けたら身が持たんわ!
「これで――最後だあぁぁぁ!!」
叫びつつ、全力で邪神の力を練り上げる。その練り上げた力を右手に溜めて、エネルギー弾のように相手に向かって発射した。
青色の巨大なエネルギー弾が分身に向かって高速で飛んで行く。分身はそれを防ごうとしてさっきと同じような壁を作り出した。そんな壁で防げるかよ!
エネルギー弾と壁が衝突する。凄まじい音と光を放ちながら、数秒の均衡。光が収まるとそこには防ぎきれなかったエネルギー弾が当たって、ボロボロになりながらも立つ分身の姿があった。
「マジかよ……」
『ふふん。主もまだまだじゃな。じゃがまあ……あやつも限界みたいじゃな。もう消えるぞ』
その言葉の後、光を放ちながら俺の分身は消えた。助かったぁ……。
俺の体力はもう限界だった。さっきのエネルギー弾は俺の邪神の力の大半を注ぎ込んでいたので、もう俺の中の力は空っぽだ。それだけの威力だったのだ、あのエネルギー弾は。それを受けてボロボロでも立っていられるって、どんだけ頑丈なんだよ。
「いつ見ても凄いですね、ユウリ様の戦いは。流石勇者様ですよ!」
へとへとになって崩れた俺の所に、自分の訓練を中断したセンリが来た。イリアは訓練所の向こうの方でちぎっては投げちぎっては投げと無双していた。なにやってんだアイツは……。
センリは身の丈程もある、先端に髑髏をあしらった飾りが付いている杖を支えに立っていた。どうやらセンリ自身も魔法の訓練で相当疲れてるらしい。二人して訓練所の端に移動してへたり込んだ。すっげー疲れた。しばらく動きたくない。
しばらく休憩がてらお城の兵士の訓練を眺めていると、イリアが訓練を止めてこっちに来た。
「どうしたユウリ。もうおしまいか?」
「休憩中。あれと戦うのは疲れる。なんか俺より強いらしいし。全力で力を込めてやっとってどんだけだよと」
「そうか。センリもか?」
「はい。少し魔力を使い過ぎまして……」
「……だったら私も休憩だ」
そう言って俺の横に腰を下ろした。
今の俺の状況はセンリとイリアに挟まれて座ってる状態。可愛いらしい少女と少し怖い美人に挟まれて座ってる……って、あれ? もしかして今の俺って傍から見たらリア充なんじゃね!?
遂に俺の時代がキタ――――!!
と思ったのもつかの間。よく考えたらこいつら人間じゃねえ。全然リア充じゃねーよ! いや美人だけどさ!
やっぱり俺にはリア充への道なんて拓けないのか……? 神様、どーなんだよ!? なんで俺ってリア充になれねーの? 俺がなんかしましたか!?
『わらわが知るわけなかろうが!』
『お前じゃねーよ、神様違いだ!』
『神様と言ったではないか!?』
『お前以外にも神様なんて腐るほどいるだろーが!』
日本には八百万の神様がいるんだよ!
そんな感じの脳内論争を繰り広げながら落ち込む俺。なんで勇者パーティに純粋な人間が一人もいねーんだよ……。おかしくね? 俺含めて人間一人もいないじゃん。何をしに行くパーティなんだよ。世界征服でもするの?
そんな落ち込む俺を見たセンリが、なんで俺が落ち込んでいるのかわからないまま、俺を必死に励ましてくれたのが心に響きました。俺、ロリコンに目覚めそうです。
そんな俺達を冷めた目で見ていたイリアの身体が、何かに反応したようにビクッと震えた。そして嫌そうに、心底嫌そうに顔を入口に向けた。
そんなイリアを不審に思いながら未だに俺を慰めるセンリを止めて、俺はイリアの視線の先を見た。ありがとうなセンリ。少しだけ浄化された気分だわ。
訓練所の入口――そこにはテライケメンの男子が立っていた。絹みたいな金色の神に、光のような輝きを持つ金の瞳。切れ長の目に高い鼻。形のいい眉と輪郭。そして高級感溢れる法衣に身を包んだテライケメンの男子。
俺には到底到達できないような
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