第6話
「それで、結局私の何を調べたんですか。それって話してくれるんですか?」
センリの態度が最初とだいぶ変わった。おどおどした感じがだいぶ取れて、普通に話せるようになったというか。最初部屋に入ってきた時はなんか迷子の子どもみたいにビクビクしてたからな。今のセンリの方が話しやすくて俺は助かってるけど。
俺とディアナのやり取りとか、さっきの年齢の話とかでだいぶ緊張がほぐれたかな。いいことだ。……も、もちろん狙ってやったことですよ? と、当然でしょ?
『そんなしょうもない嘘はつかぬ方がよいぞ』
『途中で逃げたやつに言われたくないわ!』
っていうか、さっきの年齢の話を引きずっているのか、センリの目が半眼になってて怖い。威圧感があるというか……いや、怖いなんて思ってないよ? そんなことあるわけない。視線(死線)がビシビシ刺さってても俺は認めないよ! かわいい女の子から死線が飛んでくるとか、そんな事実は一切ないから!
というか、センリの正体の話か。正体って言ったらなんか悪者みたいだな。うーん……出生? 種族? 上手い言葉が思い浮かばない。まあ、俺は話してもいいんじゃないか、なんて思ってるんだけど、信じるかどうかはセンリ次第だからなぁ……。
その旨を俺はセンリに伝えた。
「あー……いや、俺は別に話してもいいんだけど……たぶん、センリが信じてくれないというか、衝撃を受けるというか……そんな感じなんだよね。センリがそれでもいいって言うなら話すけど、俺が言ったこととか否定しないでよね? いや、否定してもいいけど怒らないでね?」
「衝撃ってどのくらい受けて信じられないってどのくらい信じられないんですか? っていうか、怒らないでねって……そんなに失礼なことを調べてたんですか?」
「センリの実年齢と見た目くらいの衝撃とセンリが王宮に士官しに来た時の宮士の心情くらい信じられない」
その俺の言葉にセンリは笑顔になって一言。
「潰しますよ? ナニをとは言いませんが」
「全力ですいませんでした!」
すかさず日本人の最大の武器であり、最高の謝罪の意を示す土下座を繰り出す。センリの笑顔はさっき挨拶された魔王なんかよりもよっぽど怖かった。さすがにふざけすぎました。反省しています。今回に関しては後悔もしています。
『お主にも後悔するという感情があったんじゃな』
『お前俺をなんだと思ってるの?』
突然床に両手両膝額を着いて謝った俺を見て、いくらか溜飲が下がったのか俺のナニが潰されることはなかった。よかった……命拾いしたわ。
「……それで、話して下さるんですね?」
「ん、まあ……いいでしょ。話した後センリがどう思うかはセンリ次第だからな。あんまりに衝撃的で信じられないことだからって俺のナニを潰そうとか思わないでくれよ? これ調べたのあくまでさっきの神様なんだから」
「はい、わかりました。っていうか、そんな、本気で潰そうなんて思ってませんから。さ……たこと……んて……いし」
最後の方はなんか声が小さくて全然聞こえなかったけど、取り合えず俺の言葉が真面目な言葉だと受け取ったのか、神妙な顔になって頷いた。なら、もう話しても大丈夫だろう。大丈夫だよね?
「センリ、お前は神様曰く――半人半魔、らしい。半分は人間だが、半分は魔族だそうだ」
「……は?」
俺の言葉を聞いて、一言だけ口から声が漏れて呆然とするセンリ。
まあ、その反応は当然かもしれない。人間と同じ容姿で人間の国で人間と同じように育ったのだ。両親もいない。自分のことを教えてくれる人もいない状況だった。
魔族だなんて考えたこともないだろう。ずっと人間だって考えてきたはずだ。俺だって、あの時あの場所でディアナに言われるまで邪神だなんて思ってなかったわけだし。今のセンリの気持ちはよくわかる。
「本当なら存在しない存在……それが半人半魔だって。俺はこの世界のことよく知らないけど、神様が言ってんだ。なら、そうなんだろうなって、俺は納得するしかない。センリがどう受け取るかはセンリ次第だ」
「そう……なん、ですか……」
そう呟いて、センリはそのまま押し黙った。何かを考えているように見えるし、何も考えていないようにも見える。その辺のことは本人に聞かないとわからないけど、
今は聞くときでもないだろう。いきなり意味の分からないことを言われて衝撃を受けてるんだ。そっとしておくのが一番だと思う。
俺はそのままセンリが何か自分から言動を起こすまで待つことに決めた。
そして、それから数分して。
「そう……なんですね……、はい、わかりました」
センリはそう言って頷いた。うんうん、信じられない気持ちはわかるよ――って、へ?
「今、なんて?」
俺がそう言うと、何故かセンリの方が不思議そうな顔をして俺の顔を覗き込んできた。いやいや、不思議な気持ちなのは俺の方だから。
俺はまじまじとセンリの顔を見た。
「ですから、わかりましたと。どうしたんですか?」
「いや、あまりにもあっさり頷くもんだからさ。もっと取り乱したり詰め寄って来るもんだとばかり思ってたから意外で。だって自分人間じゃないって言われてるんだよ?」
「そんなこと……第一ユウリ様が言ったんじゃないですか。凄い衝撃を受けるし信じられないことだって。それにこれを調べたのは神様だぞって。私はその言葉で心構えを作ったんですよ? 神様が嘘を吐くはずがないって。神様が言うなら本当のことなんだろうなって」
俺の話を聞いて、神様が調べたことだからってことで、心構えを作った、と……。
やっべ、この子メッチャええ子や……! 人の話を聞かないあんなクソみたいな王女サマなんかよりもよっぽど出来た子や! 俺より年上だけど。俺は感動した! いやマジで! こっち来てから俺の話まともに聞いてくれる奴なんていなかったし!
『ええ子じゃな。主なんかよりもよっぽど出来た人間じゃな』
『ディアナさんよりもできた子なんじゃないですかねぇ……』
『わらわは子どもではない!』
『いや論点そこじゃねーから』
ディアナは途中で逃げ出したしな。俺を一人にしやがったから。そんなディアナなんかよりはよっぽどできてるだろ、センリの方が。
「ふう……じゃあセンリは俺の話を信じるのか? 自分で言うのもなんだけど、勇者って役目以外俺って相当怪しい人間だと思うぞ」
異世界人だし。光のおまけみたいな扱いだし。王サマに嫌われてるし。
けれど、そんな俺の言葉にセンリは笑顔で首を振った。
「こんな私の為を思って下さるユウリ様を疑う心など私にはありません。異世界人だろうがなんだろうが、例え周りの人がユウリ様のことを怪しいと言っても私はユウリ様を信じます。ユウリ様と、神様の言葉を」
「……そういうもん? 簡単に信用しすぎじゃない?」
たぶん今俺の顔は苦笑いのような感じになっているのだろう。会って数時間の人に言われたことを信じるって言われて、おまけにそれを言った人も信じると言われて。
人を信用するなとかそんなことはかけらも思ってはいないけど、こんな突拍子もないことを言われてよく信用できるなって気持ちはある。人を簡単に信じすぎじゃないだろうか。いつか痛い目にあったりしないだろうか。そんなお節介かもしれない心配事まで頭に浮かんでしまう。
でも、センリの顔は俺のそんな心配を吹き飛ばすような笑顔で俺に言った。
「これでも考えて信用したんですよ? 小さい時から観察力だけはあるって言われてますから」
「そうか……なんかありがと」
「いえ、そんな! 私はユウリ様の従者ですから! それに、お礼を言うのは私の方です!」
俺がお礼を言うと、途端に慌て出すセンリ。首を左右に振って両手をわたわたさせている様子を見るとなんだか笑えてくる。
「こんな言いにくいだろうことを私に教えてくださって、ありがとうございます!」
そう言って頭を下げたセンリ。
まあ、なんだかんだで結構いい感じに纏まったというか。終わりよければ全てよしって言うし、今回の出来事はよかったってことだろう。そういうことにしておこう。
俺はそう思ってセンリに「これからよろしく」と言った。
「それで、話が一番最初に戻るんですけど……」
それから少しして、センリがそう話を振ってきた。一番最初の話って……なんだっけ。飯の話かなんかだっけ?
「――飯の話だっけ」
「違います」
センリに一瞬で否定された。完全に俺とのやり取りになれたのか、息つく間もないほどの速度の否定だった。
『お主はたわけか……?』
『ちょっとボケただけだ』
『……』
『いやホントだって! そんなすぐに忘れたりしないって! だからその無言はやめてくださいお願いします!』
「ごめんって。えっと……イリアに気をつけろって話だっけ? ……だったよね?」
「そうです。イリアさんから魔の気配がしたって言いましたよね? 魔の気配って言うのは簡単に言うと魔物達から感じるオーラというか、魔力というか、そんな感じのものなんですよ。それが――」
「あー……いや、大丈夫。イリアについては問題無い、と思う」
朗々と俺に説明してくれていたセンリの言葉を遮って俺はそう言った。途中で言葉を遮られたセンリはいったい何事かと、怪訝な表情で俺を見る。まあ自分が気を付けろって注意しに来た相手の話をしてるのに遮られたらそんな顔で見たくなるわな。でも――
「俺はあいつの正体を知ってる。センリが警戒するのもわかるが、俺に対して、というか、今のところ何かをしてくるような感じじゃないから大丈夫だと思うよ」
俺に何かをしてくるつもりだったらわざわざ俺に俺の正体を知っていることをアピールしてこないだろう。というか勇者なんてもんが召喚される前に何かしてるはずだ。今はレベル一の勇者だろうが、成長したらそれこそ自分の脅威になるかもしれないんだから。何かするんだったらそんな勇者が誕生する前に何かしているはずだった。だから、今のところ何も行動を起こしていないイリアは安全。俺はそう思う。
『まあ、そうじゃろう。わらわもお主の考えに賛成じゃ』
『だろ?』
女神さまのお墨付きももらったし、俺の考えは大筋は間違っていないだろう。
「えっと、イリアさんの正体って? 人間から魔の気配がすることなんて普通は無いんですけど……もしかして私と同じ、とか……?」
イリアの正体が気になるのか、センリがそう聞いてくる。まあ、隠しててもすぐにばれそうな事柄だし、センリに早めに伝えたって構わないだろう。同じパーティだし、隠し事はなるべく無しって方向で行きたい……問題無いよね?
『うむ、問題無かろう』
女神様からのお許しも得たので、俺はイリアの正体をセンリに話した。
「あー……センリ、イリアはセンリみたいに半分じゃなくて、そのものなんだわ」
俺の言い回しではピンとこなかったのか、センリは首を傾けて聞き返してきた。
「そのもの……?」
俺は頷いて肯定を示して、続きを話した。
「そうだ。つまり、イリアは純粋な魔族ってこと。しかもただの魔族じゃないんだよなーこれが」
「ただの魔族じゃないって、どういう……? ま、まさか……!?」
俺の言い回しで俺が言いたいことがわかったのか、センリが顔を驚愕に染める。っていうか、俺のあの微妙な言い回しでわかったの? マジで? 頭よすぎじゃない? ウソやろ?
俺はセンリの言葉に頷くとそれを言葉にした。
「そうだ。イリアは――魔王だ」
俺がそう言った瞬間、センリは大きな声で驚きを露わにした。予想はできても実際に言葉にされるとまた衝撃が襲ってくるらしい。
「そ、そんな!」
「おっと、ストップだセンリ。取り乱すなよ?」
イリアの正体に取り乱しそうになったセンリにそう声をかける。俺の声がちゃんと届いたのか、センリはほどなくして落ち着いてくれた。そして取り乱しそうになったことを俺に謝ってきた。
俺は「謝んなくていいって」なんて言いながら改めてセンリの顔を見る。落ち着いたはいいが、センリの目はひしひしと俺に訴えかけてくる。「魔王を討たなくていいのか?」と。
俺はそんなセンリを安心させようと口を開いた。
「そんな目すんなよ。大丈夫だって、俺が死ぬようなことも、この国が何か被害受けるようなこともたぶんないだろうからさ」
「……ですけど、魔物を放っているのでは?」
「あー……それか。ちょっと俺の話を聞いてくれるか、センリ?」
どこか納得がいかないといった顔のセンリに、俺はディアナから聞いた魔族の話をすることにした。あの、領域を荒らさなければーって話。してもいいよね?
『問題ない。人間でも知っておる奴は知っておる話じゃからな』
『そうなんか。じゃあ確かに問題ないな』
「神様から聞いた話なんだけど」と前置きをして、センリに魔物の話を伝える。その話を聞き終わった後のセンリの反応は劇的だった。
「そんな……それじゃ勇者なんていらないじゃないですか! 人が魔物を襲わなければ、いがみ合うことなく平和に暮らせるんでしょう!?」
「まあ、そうだな」
「だったら! 今すぐ王に報告を――」
「待て、センリ」
慌てて王サマの所に報告に行こうとしたセンリを止める。センリはなんで自分が止められたのかわからないのか、俺を睨みつけてくる。そんな視線で喜ぶのはロリコンだけだ。そして俺はロリコンじゃない。だから喜ばない。
「なんで止めるんですか!?」
「落ち着けって。お前はこの短時間で何回俺に落ち着けって言わせるつもりだよ」
「ですけど!」
「だぁー! いいから止まれって! な?」
俺の制止を聞かずに部屋を飛び出そうとしたセンリに向かってそう声を上げる。俺の大声が予想外だったのか、一瞬肩がビクッと震える。だが、飛び出していこうとしていたんだから仕方ない。今王サマのところに行かれても困るのだ。
とういか、イリアの話を聞いて冷静さを失ったセンリは、普通に考えて気付きそうなことに気付いてない。だから、尚更行かせるわけにはいかなかった。
「いいか、よく考えろよ。あの俺のことを無視する王サマがお前の言葉を信じると思うか? ……思わねーだろ。そもそも自分の立場を考えろ。この城に来て一日も経ってない俺でも知ってるぞ、言っちゃあ悪いけどお前が落ちこぼれの魔導師って呼ばれてること」
「ですが、それとこれとは話が別――」
「いいや、別じゃない。あの王サマがどうかは知らないが、世間ってのは風評やら噂やらを結構重視する。センリが落ちこぼれ魔導師なんて呼ばれてる限り、少なくとも上の奴らはセンリの意見なんか聞き入れてくれない。俺はそう思うぞ、悪いけど」
光の言うことは信じても、俺の言うことは信じない。何度かそういうことがあったからこそ言えることだ。
俺の言葉を受けてセンリが押し黙る。何かそんなような体験でもあったのだろう、逡巡して、結局は報告に行くことを止めた。センリは遣る瀬無さを外に出すように溜息をつく。
「いい判断だと思う。今は大人しくしてたほうがいい。ってかぶっちゃけ今その考えが広まると俺の幼なじみが失業者になっちゃうんだよね。ほら、勇者って魔王様を倒すために呼ばれたわけだし。それに帰り方もわからないし」
「あ……」
俺の言葉に申し訳なさそうに目を俯かせる。光が失業イコール俺も失業という考えに到ったらしい。別に俺は問題無いんだけどね。っていうか、重要なのは失業とかよりも帰り方とかだよな。……いや俺チート持ってるし、帰ろうと思えば帰れるんじゃ……? 後で可能性について考えとこ。
『そこに気付くとは……天才じゃったか?』
『やめろよ照れるだろ』
『冗談に決まっとろうが』
『なん……だと……?』
『それよりも、センリが魔の気配を探れるという話、他人には話さないようにさせたほうが良いぞ』
『なんで?』
『さっきも言ったが、人間には魔の気配など探れん。センリがどういった存在なのかバレることはないと思うが、念のためにじゃ』
『あー、了解』
センリが落ち着いて一段落したところで、今ディアナから指摘を受けた魔の気配を探れるっていうセンリの技能について話をすることにした。
「そう言えばセンリ。お前が魔の気配が探れるってことを知ってる奴って俺の他にもいんのか?」
「えと……他の人にも何度か言ったことあるんですけど、皆信じてくれなくて……。魔導士なら感じ取れるものだと思ってたんですけど」
「……よし、わかった。だったらもう誰にも言うなよ、その力のこと」
俺の忠告にセンリが不思議そうな顔をする。
「なんでですか?」
「普通の人は魔の気配? っていうのは感じ取れないらしい。神様が言ってた。あくまで感じるのは魔力であって、それが魔物かどうかなんてのは判断がつかねーんだって」
魔力の大きさとかで判断してるらしいけど、そんな不確実な方法じゃ全然信用出来ないし。たぶんセンリは半分魔族だから魔の気配が感じられるんだろうな。ていうか魔力の大きさで判断って、適当すぎでしょ。魔力が大きい人がいたら魔物と間違えられちゃうわけ?
「それは私が半人半魔だということと関係してるんですか?」
「どうだろうな。何とも言えん。センリの特異体質なのかもしれんし、魔族のことが関係してるのかもしれん。まあ、そんな考えてもわからんことは仕方ない」
そこで俺は言葉を一旦切って、念を押すためにもう一度センリに釘を刺す。
「とにかく、だ。その力のこともう誰にも言うんじゃないぞ。もし御偉いさん方に目をつけられでもしたら何があるかわからんからな」
「……わかりました。気をつけます」
これで大事な話は終わり。それを示すように俺は話題を適当なものに変えた。
「ところでセンリ。お前大分俺に対する態度変わったけど、最初のあれはなんだったわけ? あの、めっちゃおどおどしてたやつ」
するとセンリは少し恥ずかしそうに頭をかいた。
「えっとですね……私、人見知りが結構ひどくて……。他に知ってる人が一緒にいればそうでもないんですけど、私一人だけで慣れてない人相手だとどうしてもあんな感じになっちゃうんですよね」
「じゃあ今は俺に慣れた……ってこと?」
「そうですね。ユウリ様なんだかとっても良い人でしたし」
そう言って笑顔を向けてくるセンリの顔が眩し過ぎて直視出来ない。なんてことだ。ちくしょう、浄化されそうだ……!
『お主の心の中はわらわが悲しくなるほど汚れきっておるからのう……』
『うるせー! 仕方ないだろ、リア充が悪いんだよ! もっと言うなら光が悪い! 俺は悪くない!』
『お主の性格にも問題あると思うがの。お主、センリの笑顔を見て内心で「ふつくしい……」とか言っておったではないか』
『な、なぜそれを……!』
『お主の頭の中におるんじゃ。お主の内面のことなど全て御見通しよ。勿論、お主のあのまんがとかあにめとからのべとか言うやつの知識もな!』
『俺にプライベートは存在しないのか……!?』
『わらわに憑かれたんじゃ。そんなものあるわけ無かろう!』
『横暴だ! 断固抗議する!』
高らかに頭の中で笑うディアナ。駄目だコイツ、早くなんとかしないと……!
……とりあえず今はディアナのことは置いとこう。後でコイツとはじっくりたっぷり細部まで話し合わなければいけない。主に俺のプライベート空間とその他の知識に関して。プライベートないとか死ねる。
そう言えば飯の時間だった気がするけど……まあなんだかんだ俺腹減ってないから食べなくてもいいんだけど、センリはいいんだろうか。
「センリは飯食わなくていいのか?」
「え? ああ、そういえばご飯の時間でしたね……といっても、もう過ぎてしまいましたけど」
センリが来てから結構話してたもんな。そりゃ、時間も過ぎるか。誰も呼びに来ないのはアレだけど、まあいっか。誰か来てもめんどくさいだけだったし。負け惜しみとか嫌味ではなくマジで。
「じゃあ飯どうすんだ? といっても俺はあんまり腹減ってないし、無くても構わないんだけど」
「食堂に行けば何か貰えると思いますよ。私が呼びに来た食事の時間というのは、もう一組の勇者様達との会食みたいなものでしたし」
「それって行かなくても問題ないわけ? 御偉いさん方が来たりとかは?」
「さあ? でも元々行くつもりはなかったんですよね? だったらそんなこと聞いてこないで下さい」
なんかセンリが刺々しい。俺の最初の姿を見てたからか、俺が元々行く気がなかったのを見抜いているらしい。まあ俺寝る直前だったしね、仕方ないね。
「それに――」
そこで一旦言葉を切るセンリ。何故か俺に向けてニヤリと笑いかけてくる。
「私、あの人達嫌いなんですよね」
言葉を失う俺。まさかセンリの口からそんな言葉が出て来るとは思わなかった。
それから笑いが漏れてくる。うんうん、いい奴だなセンリは。俺基準でだけど。
「お前とは気が合いそうだよ、センリ。これからよろしくな!」
「はい! よろしくお願いします!」
もう一度お互いに挨拶をして、センリと握手をする。それと同時に、センリのお腹がくぅ~と可愛いらしく鳴った。
「あ、あの、これは……!」
俺は恥ずかしそうに頬を染めて慌てるセンリの頭をぽんぽんと撫でて、立ち上がった。少しだけ笑いが漏れてしまうが、許してほしい。だってタイミングがさぁ!
「んじゃあ食堂に行くか。俺も腹減ったしな」
「さっき食べなくてもいいって言ってたじゃないですか!」
「気分が変わったんだよ。いいから、食堂行こうぜ、食堂」
なおも恥ずかしそうにするセンリを引き連れて、俺たちは食堂に向かうのだった。
この世界の料理ってどんなのがあるんだろ。なんだかんだ言って楽しみになってきた。美味い飯があるといいなぁ。
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