俺と幼なじみが勇者になった件

Yuki@召喚獣

プロローグ

 今日も今日とてトラブルに巻き込まれる俺は不幸の擬人化イマジンブレイカーさんにも負けず劣らずの運命を背負っているんじゃないかと、高校生にもなって自分の存在に疑いを持ちはじめた今日この頃。

 後ろから迫ってくるスキンヘッドの厳ついヤーさんみたいな人の顎を、振り返りざま回し蹴りの要領で蹴り飛ばして片を付ける。周りにはそんな感じでぶっ飛ばした奴らが十数人も転がっている。阿鼻叫喚の図なわけだが、転がってるやつらに特に同情心とかは湧き上がらない。や、だって俺が襲われてた方ですし。

 そんな感じで顔を歪めている俺の横には、艶のある黒髪の短髪できりっとした意志の強さを覗かせる黒目を疲労の色に染めて、細身だがある程度の筋肉がついた身体をアスファルトの地面に投げ出し何故かへばってる今回のトラブルの発端『朝原光あさはらひかる』が寝転がっていた。別に俺が蹴り飛ばしたわけじゃないよ? こいつが勝手にへばってるの。

 俺の幼なじみのこいつは某アイドル事務所も目じゃないくらいのイケメンで頭も良く身体能力も高い。そして性格も誠実で困っている人は放っておけないという、もうなんなのこいつ神様にでも愛されちゃってるんじゃね? ぐらいの高スペックを誇る人外。俺はこんなのを人とは認めない。二次元に出てきそうなキャラクターは人ではないのだ。

 対して俺はどこからどう見ても一般ピーポーな人間。時々光から「お前人間か?」とか言われるが、失礼極まりない。俺から言わせると光の方が人間じゃないからな。俺は人間だ。少なくとも学校で日常的に女子に囲まれてキャーキャー言われるような生活を送ってない時点で人間だと断言できるね。

 まあでも、そんな幼なじみの俺達がなんでこんなヤーさん相手にやらかしたのかと言うと、隣でへばってる光がヤーさんに絡まれてる女の人を助けに入ったからだ。俺は巻き添え食らっただけです。

 でまあ、光が助けに入ったその女の人はヤーさん達に不当な利子(よーするに借金してたんだなーこの人)を迫られていた所だったらしく、そこにたまたま学校帰りの俺たち……いあ、光が遭遇。

 そのまま光が助けに入って近くにいた俺も巻き込まれた訳だ。マジ勘弁してほしいんだが。俺は光のように超人でも菩薩でもねーんだから。


「なんでお前がへばってんだよ。さっさと帰るぞ」


 俺は仰向けに寝そべっている光にそう声をかける。女の人はどっかに行った。光と何かしら話してたから警察かもしくは弁護士事務所にでも行ったんだろう。税理士事務所とか加茂? よくわかんないし興味ないからどーでもいーや。

 光は疲れた体に鞭打ってけだるげに立ち上がると、そんな俺に向かって一言。


「時々思うんだけど……悠里ってホントに人間?」

「失礼な。少なくとも光よりはまともな人間だ」


 光を引っ張り上げて肩を貸しながらそう返す。その質問が出た時のいつものやり取りなので、光から軽い笑いが漏れる。そのまま俺達は家に向かって歩き出した。ちなみに光は俺ん家の隣に家がある。まあ、だから幼なじみなんだけど。

 そんな感じの日常を過ごしながら、俺は概ね平和に過ごしていたはず――なんだが。


「何と言うことでしょう」


 ビフォーアフター的なお芝居っぽい口調でそう呟く。ちなみに発信源は俺じゃない、隣のイケメンだ。

 目の前にはなんか白い、紅茶のカップを服に仕立てあげたような(インなんとかさんみたいな感じの)服を着た水色の髪の毛と瞳を持つ大きな目の幼い顔立ちをした美少女がいて、その美少女は光を見て固まっていた。

 その後ろには鈍く光る銀色の甲冑? っていうの? に身を包んだ騎士っぽい人が多数。そして足元には幾何学模様が書かれた円形の陣――所謂魔法陣みたいなものがあった。

 なんか、目の前の美少女は所謂巫女さんっぽい雰囲気を醸し出しているし、足元の魔法陣はなんかアレで、んでもって後ろの騎士っぽい奴らと中世っぽい雰囲気からするに、どうやら俺達は――召喚、されたらしい。

 にわかオタクの俺にはなんとなくわかる。こんな雰囲気を醸し出すのは異世界に召喚されたに他ならないんだろう。けど、なんで二人? こういうのって普通相場は一人じゃね。……一人だよな? そうだと言ってよバーニー。

 そういえばなんか帰り道で黒い穴っぽい何かに引きずられる時に、穴は俺じゃなくて積極的に光を飲み込もうとしてた気がする。だって明らかに俺より強く引っ張られてたし。


 ……ん? そう考えると俺って巻き込まれたんじゃね? だって俺光に服捕まれて穴に吸い込まれた挙句に此処に連れて来られた訳だし。


「悠里! おい悠里! 助けてくれって! 俺たち幼なじみだよな!?」

「うるせー! お前が自分で何とかしろよ! そんな怪しげな黒い穴に引きずり込まれそうになってるやつを助けられるか!」

「薄情だなお前!? 絶対この手を離さないからなっ!」

「それ恋愛の時に言うセリフだから! いいから俺の制服を掴んでるこの手を離せ!」

「嫌だ!」

「離せ!」


 みたいなやり取りをして、結局二人とも引きずり込まれたわけだ。おのれ光、許すまじ。


「あの……君は? それで、此処は?」


 隣の光が目の前の美少女に聞いた。安心させるためか無意識かはわからんが、とびっきりのイケメンスマイルで。すると固まっていた美少女は瞬く間に顔を赤く染めると、慌てて光に喋り始めた。

 直感的に思った。あ、こいつ光に惚れたな。今時ニコポとかはやんねーから!


「こ、此処はフィディール王国の王宮内にある『召喚の間』と呼ばれる場所です。あ、貴方はこの世界の勇者として呼ばれたんです」


 美少女の視界に入ってないことに痛恨の一撃! 美少女の視界はどうやらイケメンしか映さないようにできているらしい。なんだよそれ、フツメンに人権はないってのか。

 俺はイケメン爆発しろなんて思いながら美少女に質問した。


「なあ、名前は? 俺達のっていうか勇者の役目は?」


 俺がそう言うと美少女さんは初めて俺に気が付いたのか、ビクッと小動物みたいに肩を震わせて物凄くびっくりしていた。もうあれだ……イケメン爆発しろ。


「私はフィディール王国第二王女の『ミリア・ミスリル・フォン・フィディール』です。そして、勇者様の使命はこの世界に現れた魔王を倒すことです」


 質問したのは俺なのに、何故か光の方を見ながら言う王女様。……ふっ、いいぜ、わかった。俺のことなんか眼中にないってか。イケメン、俺と顔変われちくしょー。

 典型的なロープレの最終目標なんか示されたってちっとも面白くないというか王道過ぎて何も言えない。竜の冒険はあんまり好きじゃないんだ。もっと別の役目くれよ。なんなら村人Aとかでもいいからさ。


「この世界は今魔王と魔王が放った魔物によって蹂躙され、危機に陥っています。人々の生活は脅かされ、魔物が外を闊歩する……貴方は、そんな世界を救うために神に選ばれて呼ばれた勇者なんですよ」


 おい、王女様。もっと頭を使って物事を考えようぜ? そんな光が大好きそうな話を光に振るなよ。うんとしか言わなくなるだろーが。そして俺が巻き込まれることになる。そのパターンはもう見飽きました。

 そして案の定光は――


「そうなのか……わかった、俺に何が出来るかわからないけど、呼ばれたからには頑張るよ。任せてミリア」


 そう王女様に微笑みながら言った。キラースマイルかよ。もううんざりだよ。俺のことも考えてくださいお願いします。


「悠里もそれでいいよな?」


 全身全霊で異議があるっていうか、もう異議しかないんだけど。でも俺の意見なんて聞かないんだろうなぁ。


「ミリア、俺達――」

「気安く呼ばないで下さい」


 はぁ? 光は呼び捨てスルーだったのに俺は注意されるのね。但しイケメンに限るってか。そっちがその気なら俺だってそういう感じで対応させてもらうぞ。


「そもそも召喚の儀で呼び出される勇者は一人しかいないんです。貴方は一体なんなんですか? 勇者様の従者ですか?」

「俺は光の従者じゃない、幼なじみだ。それに俺は光みたいに世界を救ってくださいはいわかりましたなんて言う思考回路はしてないの。勇者なんてやりたくねーし、俺を今すぐ元の世界に返しやがり下さい」


 俺がそう言うと光が慌ててこっちを見てくるし後ろの騎士達は腰の剣を一斉に抜くしクソ女は肩をプルプルさせて怒り浸透みたいな感じになるしで、なんか場に緊張感的な何かが漂い始めた。

 まぁ、王族に対してあの暴言だからな。いくら光と一緒に召喚されたとはいえ不敬罪? ってやつで捕まってもおかしくはない。わかってやったんだが。だってむかついたし。

 俺の発言で一気に険悪な雰囲気になった感じだけど、ここで黙ったりしたら話が先に進みそうにないというか、流されてしまいそうだ。そんなのは俺としてはごめん蒙るわけだから口を閉じるわけにはいかない。


「そもそも自分達の世界のピンチは自分達で解決するもんじゃねーのか? それをこんな見ず知らずの初対面の人に頼るとか、情けねーとか思わねーの? 俺たちまだ子どもだよ? 子どもに世界の危機を押し付けて、自分たちはのうのうと後ろ側で安全に暮らしてるんですか? それってありえなくない? 人として終わってない? あ、この世界って俺たちの世界と価値観が違うから、それが普通なのかな? いやー、とんでもないところにお呼ばれしちまったな」


 俺がそう言った瞬間、クソ王女サマの中でなんかキレたらしい。後ろの騎士に俺を討ち取るよう指示を出した。マジかよ。一応光の知り合いっぽい認識はしてたみたいだと思ってたから、これは予想外だ。やっぱり馬鹿なんじゃないのこいつ。俺をどうにかしたら光が言うこと聞いてくれなくなるかもとか考えないの? 考えないんだろうなぁ……けどま、光がいればなんとかなんだろ。

 そんな軽い気持ちで突っ立ってる俺に騎士達が剣を構えて向かってくる――というところで部屋に綺麗な、それでいて人を従わせるような力を持ったソプラノくらいの高さの声が響いた。具体的にソプラノってどれくらいの音の高さなのかいまいちわかんないんだけどね。


「剣を収めなさい。その者は召喚の儀で召喚された勇者なのですよ」


 凛とした女性の声。騎士達のさらに後方にある両開きのでかいドアが開いていて、そこになんかすっげー高級そうなドレスを着た水色の髪の女性がいた。良く見ると目も水色っぽい。

 その人のおかげか、騎士達はおとなしく剣を鞘に収めた。その様子から、どうやらあの人は王女よりも上の立場の人らしい。ファンタジーな世界で王女より身分の高い女の人なんて俺は王妃しか思い浮かばない。もしくは女王。


「お母様!? 何故此処に!?」


 どうやら当たりらしい。目の前の王女サマが慌てている。


「思ったより強い波動を感じたからよ、ミリア。来てみたらびっくり、勇者が二人もいるじゃない」

「違います! 勇者はこの方だけで、こっちの馬の骨は勇者でもなんでもありません!」


 強い……波動? リアルにそんなことを口に出す妙齢の女性を前にして、思わず吹き出しそうになってしまった俺を誰か許してほしい。

 勇者の時に光を指して、馬の骨の時に俺を指して喚くクソ王女サマ。ここまでボロ糞に言われたらいくら温厚な悠里さんでもいい加減に怒りますよ? 今ちょっと笑いそうになってたけど、それとこれとは話が別ですから。ちなみに今までのは別に怒ってたわけじゃないんですよ? ええ、本当ですよ? ……いったい誰に言い訳してんだ、俺。


「キレちゃ駄目だからな。さっきみたいになるから今は堪えてくれよ、悠里」


 イケメンが俺に耳打ちしてくる。うるせ、お前に俺の気持ちがわかるかリア充爆発しろコノヤロー。俺があんなことしたことの発端はお前にあるといっても過言じゃねーんだぞ。


「けど、そのミリアが言う馬の骨も勇者様と一緒に召喚陣から出て来たのではないの? だったらその馬の骨も勇者様と同じじゃない」


 あ、それに関しては全力で否定させていただきます。ごめんなさい。勇者とか言われるくらいなら馬の骨でいいです。僕、馬の骨です。

 王妃? は騎士達を下がらせるとクソ王女を押し退けて俺の前に来た。途中で光に礼をして。


「申し訳ございません、娘が粗相をして御気分を害されたでしょうが、あの子も召喚の儀で気が立っていたのでしょう。普段はあのようなことは言わないのです。何卒、お許し下さい」


 そう俺に言ってきた。

 どうやらお母様の方は(俺にとっての)常識があるらしい。まあ王族? が簡単に頭を下げていいのか現代日本で暮らしてた一般人の俺にはよくわからんが、俺の前まで来て頭を下げながらそう言ったんだから、少なくともこの場では許される行為なんだろう。

 一国のトップがそんな簡単に頭を下げていいものなのか甚だ疑問が残るが、まあそんなことは俺が気にする問題じゃないからいっか。

 それにぶっちゃけあんなことは光といれば結構あることなので別に怒っちゃいないわけだが、ま、謝られて悪い気はしないし、別にいいや。


「あー……別にそこまで怒ってるわけじゃないんで、いいですよ。あんたの娘さんはどうにかしなきゃいけないかもしれませんけど」


 俺のこと無視するし。光の方しか見ないし。無視するのっていじめなんだよ? 知ってる?


「ありがとうございます勇者様。ところで、お二方のお名前を伺っても?」


 終始笑顔で対応する王妃? あーもうめんどくさいから王妃でいいや。たぶん王妃だろ。そんな感じがするし。王妃は、なんか掴み所がない人だ。こういう人間ちょっと苦手なんだよね、俺。ストレートな人間が好きです。


「俺は朝原光です」


 そう言って王妃にお辞儀をする光。


「俺は宮城悠里みやぎゆうりです。勇者じゃないです。馬の骨です」


 俺がそう言うと王妃は俺達二人と握手をした。


「ヒカル様とユウリ様ですね。ではお二人共、私に着いて来て下さい。これから王へと謁見していただきますので」

「わかりました」

「俺馬の骨だよ? いいの?」


 対称的な俺と光の反応。おいおい光、お前は何面倒事に全力疾走で突っ込んで行ってんだ。そんな、お前王とかに謁見しちゃったら勇者確定で魔王倒しに行かなきゃいけなくなるじゃん。嫌だよ俺。全力で却下するよ? そんでなんで王妃サマは俺の言葉を無視するの? やっぱり母娘なんだなってそんなところでアピールしなくていいからさ。


「では行きましょう」


 お、オヤオヤ~?

 そんな俺の反応も願いも無視して歩き出す王妃。あー! やめてー!

 普通に着いて行く光は俺に「行かないのか?」とか言ってくる。行かないのか、っていうか行きたくない。俺は元の世界に帰りたいのだ。

 光の横で俺を睨みながら王妃に着いて行くクソ王女。


「いーやー! 行きたくないー! 俺を帰してー!」


 俺の必死の抵抗虚しく、俺は騎士達に両腕をガッチリ掴まれるとズルズルと引きずられるように連れて行かれるのだった。

 部屋を出る時に一瞬、ドアの近くにいた赤い髪の腰に剣を提げた女の剣士と目が合った。



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