ワインで甘い生活

お家

★帝歴2500年 ヒューパの城 ティア


「ただいまー」


 私は、うちに帰ってきた、やっと帰ってきたぞー。


 あっちからお母さんが走ってくる。

 私も走り出したいけど、ジョフ親方の前に座っているので、走り出せない。


「ティアー、ティアー」


 お母さんが答えてくれているけど……あ、まずい、お母さん泣いちゃてる。

 私としては、明るく無事帰ってきましたピョーンって感じで行こうと思っていたのに、先に泣かれた。

 場の空気を和ます暇すらなかったかあ。

 人間、先に泣かれると冷静になるもんだね。


 ここに帰ってくる途中、私は自分の性格や行動が変化している事に気がついていた。29歳の冷静な宝樹若葉ではもう無くなっている。元々お転婆だったティアの性格に近いかも知れない。若い肉体から出されるホルモンの関係か、アグレッシブな性格が今の私を作っている。それでいて、自分の変化を受け入れている私がいる。

 そのアグレッシブな私をして、お母さんの涙は、冷静なさしめるものだった。


「ティア、無事だったの、どこか怪我はない? 大丈夫? ちょと見せてみなさい。お母さん死ぬほど心配したんだから」


 お母さんの愛は力強くて、私をモミクチャにしてしまっている。

 隣で見ているベック少年の視線が痛い。


「あいたた、お母さん大丈夫、痛い痛い、もう、お母さんたら大丈夫だったよ、ねっね。だから聞いて、ね……私ねえ、なんとワイバーンを倒しちゃいました……っと、これ王様からもらった牙、どこ飾ろうか?」


 お母さん目が点になっていますが、これも想定済みです、私経験値を積みました。


 そのままお城の中に入って、コートを脱ぐ。

 乙女の気持ちとしては、早くお風呂入りたいけれど、ぐっと我慢して、ファベル村の襲撃と、お父さんの事を報告しないといけない。


「奥様、実は……」


 あ、また私の頭の上で話しが始まった。

 無駄とは分かりつつ、両手を上下にパタパタ振って(肩ぐらいまでしか上がってない)存在をアピールしてみる。


 うちは貧乏開拓領なので、領内の行政のお仕事担当しているのは、税務官と軍事を兼任している騎士の2人と、狩猟番と書類仕事を兼務しているムンドーじいじ以外は居ない。


 家の中に関しては、家事をやってくれるメイドは雇えてないが、パートタイマーでお掃除おばさんが1人来ている。

 うちのお城の中のお仕事は、お母さんと、近所の掃除おばさんのメイプルさんの2人で回してる。おばさんは、去年からうちで働いてくれているタレ耳犬系獣人のちょとコロコロした体型のおばさんだ。


 なのでこの場で、私の顔を見てこの子大丈夫かしらって顔している掃除おばさんのメイプルさんに、無事帰って来たよーって手でアピールするぐらいしか、この行動に意味は無いみたい。多分。


 そうしている内に、体が気持ち悪い事に気がつく、命がけの事していて気が張っていたから気にならなかったけれど……私、長いことお風呂入ってない。お風呂入りたい欲がムクムクと沸き立った。


「お母さん、私お風呂入っていい?」


「あ、そうだったわね、メイプル、お湯沸かしてもらえる、ティアをちょちょっと入れておいて」


 私は荷物か。


 メイプルさんについて行って、数日ぶりのお風呂を堪能した。



 お風呂から出て来たら、ドワーフのジョフ親方とベック少年の2人は、しばらくこの城の門に併設している門番小屋で生活すると教えられる。


 ジョフ親方は、武器屋兼、近隣の生活用鍛冶屋をする予定で、近くに住んでいる親方の元弟子達を集めて大掛かりな工房にするようだ。ベック少年もそれを覚えなければならないらしい。

 近くに工房を構える準備をしている。

 工房の建物は、ヒューパにも大工仕事ができる専門家はいるが、材料と設計の準備を済ませれば、住人達皆んなで一緒に建ててしまうと言っていた。

 公共に関する建物の建設作業は、ヒューパに住む住人の義務らしい。



 外を見ると、うちの城から開拓民の若い衆が何人も荷車を押して、ファベル村へと向かって行っている。


 救援物資を送るという。

 お母さんがテキパキ指示を出している。

 さすが産まれた家が騎士団長のおうち、お父さんが留守の間の頼れる女将さんだね。



 私はと言うと、そのままほっとかれたのでウロチョロしてたら、邪魔しちゃダメって怒られた。

 内政物ならまずは自領の情報収集からだ。情報が戦いを制する、情報を手に入れ、私がこれから成り上がるストーリーを考えねばならない。



 開拓民の様子をメイプルおばさんや、ジョフ親方に聞いてみると、住民はお父さんに土地を与えられる代わりに、税金と労役の義務があり、地図を使った高度な行政管理が行われている。

 領内の開拓地では、お父さん達騎士を中心に、住民も参加して魔獣や魔物を追い出して、開拓地を計画的に広げている。

 昔歴史で勉強した、律令制のような形らしい。


 軍役もヒューパ領主のお父さんの指導で、開拓地の住人への義務に入っているらしく、力のある住人は、パイク長槍を使って、少しでも安全に戦えるよう、魔獣から距離を取った戦闘の訓練をされていると言っていた。

 そしてそれより非力な住民は、力が弱くても練習すれば兵力になる弓矢の訓練が主になっている。村祭りの時期には、村中で弓大会が開かれてそれは賑やからしい。


 弓矢は練習が必要なのと、弓と矢の生産が非常に技術がいるため、生産が追いついていないのが弱点になっているようだが、大自然を相手にしている住人には、これらの個人戦闘力は絶対に必要で、開拓地の住人の自宅には、どこでも大抵弓矢が置かれている。


 私がファベル村で冒険者に襲われた時に使用された魔石矢は、ファベル村の住人が村周辺に現れる強い魔獣用に常備していた物だと言われた。

 魔石武器は非常に高価なので、数は揃ってないが、開拓民には必要な物なのでお父さん達も領内への援助はしてるけれど、やっぱりお金が無いから大変と言っていた。


 住民全員で協力をしてはいるけど、開拓には金がかかってしまうので、どうしても年中うちのヒューパはカツカツなのが常態化してるようだ。



 こんな状態なのに、周りは待ってくれなさそうなのがハードモード過ぎる。

 ファベル村の襲撃事件や、ジョフ親方の話しを聞くと、この世界では本当に人の命が軽い。

 ホラの街の経済状況とか好戦的な騎士達を目にした今では、このヒューパへの戦争は近いと思っておいた方がいいかもしれない。

 戦力の用意は大事だけれど、どう考えてもお金がないし騎士を増やせそうにないなあ。まずいよねえ。



 シリアスな未来予想は疲れるので、生活に必要な事を考えてみよう。


 ウチに帰ってきて絶対に必要だと確信したのは、お風呂のシャンプーとか石鹸とかの開発だ。

 頭がキシキシする。美容大事。

 ヘチマ水とか作れないかなあ。5歳のピッチピチのお肌には関係ないけど、いつか必要になるだろう。


 色々と考えたが、まずは物を作るための素材収集と、何事もお金が無いと始まらない。財政再建とか兵力の充実とかだな。

 隣街が非常に問題あるから急がないと。



 それからとても大事な事を思い出す、お母さんにはなるべく時間作って早急に、お父さんとのラブロマーンスを聞かねばなるまい。

 ロマーンス、ジョフ親方からは肝心な話しが聞けなかった。


 やらなければならない事が多い、忙しくなるぞー。


 お城の中を走り回って、そんな事を考えている内に、床に転がって寝ていたらしい、子供の体の睡眠力は侮れない。


 朝起きたらお布団の中にいた。

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