恋のABCDE(以下略)

二木弓いうる

恋のABCDE(以下略)

「あのさ、昨日お母さんの持ってた古い漫画読んでた中に出てきたんだけど、

恋のABCって何?」


放課後。本を読んでいた僕の耳に、クラスメイトの浜田さんの声が入って来た。


「まぁ知ってるけど……何だと思う?」

「お母さんに聞いたら、恋に関する行動の頭文字って言われた」

「お母さん考えたな。で、何だと思うよ?」

「うーん……Aは挨拶する」

「……うん」


とりあえず一通り聞いておこう。


「Bがね……何だろう……バビブべボ……」


バビブべボになってる時点で間違いだと思うんだ。


「……ブラジャーを見せる」

「まぁ……含まれるかな……」


本来のBをするまでの過程に含まれると言っても過言ではない。はず……。

とりあえず僕にとって難易度が高い事は分かった。


「Cは……えっと……チュー……」


一瞬だけ本から目を離し、浜田さんの顔を見る。赤く染まっていた頬。


「何でその位で照れるの。ピュアか。それなのにブラジャーを見せるなんて

発想するのか。恐ろしい」

「だって分かんないし! もう次ね、次。Dでしょ。えーと、デートに行く!」


流れ的に後日談みたいになってる。


「で、えーと、次がEだから」


……E?


「待って。アンタの中で恋のABCってどこまであるの」

「Zまであるんじゃないの?」

「……まぁ良いや。とりあえず思いついたの言ってって」

「え? う、うーんと、Eは……エクセレントって言ってあげる……」

「何で」

「その位仲良しって事でどうだろう」


自分でも分かってないのか。


「仲良しって言ったって、恋仲相手にエクセレントとは言わないと思うけど。まぁ 次。サクサク言ってみよう」


どうせ深く考えても間違ってるだけだしね。サクサク行った方がいいよね。


「Fでしょ。そうだなぁ、フレンドリーになる」


ブラジャーを見せてキスした相手とフレンドリーになるのか。


「……次、Gだよ」

「Gって言うと、もうゴキしか浮かばないんだけど。恋に関係しないね」


それを言ったらフレンドリーになるもおかしいって事に気づいてほしい。


「他にも色々あるでしょ」

「Gは……ゴールデンレトリバーを見に行く」

「それ恋に関係する?」

「デートコースの中にペットショップが入ってるんだよ」


今決めたな、絶対。


「そう……」

「で、次はHだから……Hだから……ぇっち」


次第に小声になる浜田さん。どうしよう、かわいいぞ。


「まぁそうなるだろうね。じゃあI」

「……イチャイチャする?」


おぉ、急に甘くなったな。


「Jだと」

「ジャズを聞いて」


ん……んん? ま、まぁ良いだろう。


「K」

「かわいいよ」


お前がな。


「かわいいよって言うの? 言ってもらうの?」

「言ってもらう方が良いなぁ」

「アンタの好みで判断してるね? まぁ良いけど……次、L」

「L、サイズのTシャツを買いに行こう。デートだよ」


デートって言っても、何か流れ的に甘い雰囲気が薄れたなぁ。


「M」

「M、サイズのTシャツしか置いてなかったから、LサイズのTシャツを

 探すデートに変更する」

「物語になってるんだけど」

「もう良いの。どうせ違うんでしょ。分かってて全部聞いてるんでしょ」

「まぁね」

「酷いや。じゃあ次ね」


それでも全部考えようとしてるんだから、浜田さんは変な所で真面目だ。


「Nだから、のんびり過ごす。二人でね」

「良かった。Nサイズとか言い出したらどうしようかと思った」

「言わないもん」

「じゃ、次」

「Oでしょ、親御さんに会う。それぞれの」


一気に難易度が跳ね上がった気がするんだ。


「Pは?」

「プリンを食べる」


プリン!?

こっちは親御さんと会った結果が気になるんだが……。


「……Q」

「きゅう……クエスチョン。今更だけど、互いに知らない事を質問する」

「あぁ、それは良いかも。何年も一緒に居るのに知らない事があるカップルも居る

って聞くしね」


僕も浜田さんについて知らない事ばっかりだ。好きな食べ物ですら知らない。


「次Rでしょ……リターン……C」


また照れてるな。もう見なくても分かる。


「Cってキス? Hじゃダメなの?」

「だっ、はっ、はずかしい!」


デートより先にブラジャーを見せるという行動が出来るなら、恥ずかしくはないと思うけど。


「そうかなぁ……まぁ次、S」

「LサイズのTシャツが置いてな」

「もう良い、次」


何でそんなにLサイズのTシャツ無いんだ。

ってあれ、次Tじゃん。


「Tシャツ見つけた」

「Tシャツストーリーはもうこれで終わりで良いね」

「うん」


LサイズのTシャツを探す話って、本だとしたら相当つまらないとは思うんだけど……デートだったら楽しいのかな。


「U、うさぎを見るデートです」

「動物園じゃなくて兎限定なのか」

「兎だけの動物園。あれば良いのに。きっとかわいいよ」


ないもんなぁ。というかそれはもう動物園じゃないな。

だったら動物園でデートする方が良いよな。やっぱり。

まぁまず誘えるかって話なんだけど。


「諦めてVを考えな」

「人を集めてサッカーでもやって、勝って、Vサインを見せよう」

「負けたらどうするの」

「次頑張ろうのVサインを」

「普通しない」

「じゃあ負けなきゃ良いんだよ」


僕運動得意じゃないからな。サッカー練習した方が今後のためかな。


「あぁそう。はい次、W」

「テンポ早いね。実はちょっと飽きてきてない?」

「W」

「……Wデート」


うん、そんな予想は出来てたよ。


「よし、もうまとめて言って。XYZ」

「やっぱり飽きてるでしょ、むー……」

「ふてくされないで。はいX」


Xって結構難しくない?


「クリスマスっ。デートしよう!」


なるほど。


「YZ」

「Yは……よろしくお願いします。って、プロポーズして、あ、されて、かな。そ してZで……ずっと一緒に居ましょうかって返事をする」


あ、結構良い終わり方。

途中でエクセレントだのTシャツだのおかしな所あったけど。

終わり良ければ全て良しって感じ。


「あー、終わった終わった」

「飽きたなら飽きたから止めろって言ってくれても良かったのに。ところで、どこまで合ってたの?」

「Aから違うけど?」

「それは嘘だぁ」

「これで嘘だと思うんだから恐ろしいよねぇ。悪い男に引っかかるんじゃないよ?」


僕は悪い事は一切しない男だが、彼女にそう言えないヘタレ野郎ではある。


「大丈夫だよー……あれ? 教室もう三人しかいないね。もうそんな時間なんだ」

「うわ、ホントだ。そろそろ帰……あー、忘れてた。あたし今日帰りに牛乳買って こいって言われてたんだ」

「わぁ、早く買って帰らないと暗くなっちゃう。めぐちゃんち、ちょっと遠いし」

「ホントだよ。責任とってスーパーまでついて来てよ」

「私の話のせいで遅くなったと言いたいか。酷いなぁ。まぁ良いかぁ。一緒に行  くー」

「あたし相手だから、そんな返事なのかもしれないけど……アンタ本当に心配だ  わ……っと。こんな事言ってる場合じゃなかった。行くよ」


そう言って席を立つ、浜田さんと岡本さん。

スタスタと教室を出た岡本さんの後を、ひょこひょことついて行く浜田さん。

まるでひよこみたいだ。

さて……僕も帰るかな。本を閉じて、カバンに入れる。


「あっ」


うん? 

声のした方を見る。教室の入り口で、浜田さんが僕の方を見ていた。


「山下君、またねっ」

「……さいなら」


にーっと笑って教室を出て行った浜田さん。


やっぱり僕には、浜田さんの言う恋のABCは難易度が高すぎる。

今の所、Aの挨拶だけはクリアだ。

次をクリアする前に、僕はまず告白しなきゃ……だけど。難しいな。

入学して早九ヶ月、僕らは未だ挨拶以外の会話をしてないのだから。

とりあえずは……僕から挨拶出来るよう頑張ろう。

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