拝み屋兄。崇り屋妹。

ひらゆき

第1話 お兄ちゃんと私





よく道を尋ねられます。

私は、話かけやすいのかもしれません。

亡くなったおじいちゃんには、人には親切にと教えられてきました。


お年寄りに親切に。

なんでも、先に、先に考えなさい。

動きなさい。

おじいちゃんはそういいました。


マザーテレサの言葉に

「ラブイズアクション」というのがあると教えてくれました。


だから、私はできるだけ道を教え、時には一緒に目的地まで行くこともあります。

目的地がたまたまうちだったりすることもあります。


おじいちゃん。あたしは、まちがっていないですか?

時々、心配になります。


私にはお兄ちゃんがいます。

身長が180センチで、力持ちのお兄ちゃんです。

自称ワイルド系で、確かに筋肉質です。


「お姫様抱っこができるぜ」


そういいますが、お兄ちゃんは、30近いのに童貞で(たぶん)、女の影もありません。きっと、妖精さんになれるはずです。あ、魔法使いだったかな?


こんなお兄ちゃんですが、霊感があります。

お祓いも出来ます。

そんな看板はでていませんが「拝み屋」と呼ばれています。


これは、私達兄妹をひとりで育ててくれた、おじいちゃんがやっていた生業でもあります。

今でもちゃんとお客さんが来るところをみると、お兄ちゃんも、それなりに役にたっているようです。


ただ、引き戸になっている、うちのちょっとした門を開けると賽銭箱つきの小さな祠が祀られていますが、これは、お兄ちゃんが新設したものです。

お賽銭目当てじゃないかと勘ぐったら、ものすごい怖い顔で睨まれたので、この話題には触れないことにしています。



「お前は馬鹿だ」

お兄ちゃんは、私が道を尋ねられてお客さんを連れてくると、たいていそう言います。

「金にならないお客を連れてくるのはやめろよ」

お兄ちゃんはそういいます。

私は、案内しているだけなのに。

失礼な話です。


「料金表でも作って貼っておけば?」

と言ったら苦虫を噛んだような、変な顔をして「自覚のない奴だ」と言いました。

おもしろくなかったので、学校の友達に借りたマンガを拡げて見せました。

綺麗な顔の陰陽師が活躍する人気マンガです。


「ほら、これが世の中のイメージなんだよ。

どうだ、参ったか。イケメンだぞ。

お金も受け取らずに、魑魅魍魎と闘うんだよ。

世のため人の為。美しいよね。」


お兄ちゃんは私の顔をまじまじと見てから、ギャハハハと笑いました。

「何笑ってるのよ!」

お兄ちゃんは「腹がよじれる」と言って笑い続けました。

こうしていると、お兄ちゃんが霊能力者でそうゆう類いの相談を受け、解決しているようには見えません。



お兄ちゃんは、御札も作ったりします。

家内安全、交通安全、商売繁盛の御札などがありますが、私には皆同じように見えます。

でも、外の井戸で、なにやら唱えながら勢いよく何度も水をかぶって身を浄めてから、墨をすり、気を込めて書き上げる御札は、好評のようです。


今日も学校から帰ってくると、御札を届けるように、お使いを頼まれました。

おじいちゃんの代から御札を頼んでくれている「入江商店」という、古いお店に行きました。

シャンプーや洗剤などの生活用品も売っていますが、駄菓子屋さんです。

だから、お客さんのほとんどが子供です。


最近は万引きが増えたので、泥棒よけの御札だそうです。


お店のお婆さんが、「泥棒が減って助かってますよ」とニコニコして、お布施と、かっぽう着のポケットからあめ玉を出してくれました。

私はもう高校生ですが、小学生の頃からこうしてあめ玉をくれるので、もはや習慣なのかもしれません。


入江商店をあとにして、家に帰ろうと歩いていると、カラスが門柱に一匹ずつ止まっている家を見ました。

最近のカラスは人を怖がらないようで、私を見ても平気でした。


横を通りすぎても、左右の門柱の上で、二匹のカラスはぴょんぴょん跳ねながら、黒い翼をバサバサ広げたりたたんだりしています。

つつかれると嫌だなと思いましたが、襲ってくる気配はありません。

私はちょっとドキドキしながらカラスの脇を通りすぎました。



ほっとすると、私の前に女の人が歩いていたのに気がつきました。

この人も、きっとカラスの側を通るとき怖かっただろうな。と、思っていたら女の人は電柱の番地の表示を見ました。

どこかに行くようですが、迷っているようです。


また道を尋ねられそうだなと思った時、女の人は振り返りました。







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