カルマ わたしの名前を探す旅④

「ハッ?」僕は意識を取り戻した。


「……というわけなんですよ。わかりました?ひかるさん?ひかるさんってば、

聞いています?」


愛理栖が心配そうに声をかけてきた。


「愛理栖、ごめんごめん」


「もう! ひかるさんったら。

ちゃんと私の話聞いてくださいよ!」


愛理栖は不機嫌そうに言った。


ごめんね、愛理栖。

運転中にまた意識が飛んだらまずいし、

さっきの恐ろしい体験は二度とごめんだ。


ひかる、運転に集中だ、集中!


僕は心の中で自分に言い聞かせた。



「ひかるさん、聞いていいですか?」


愛理栖が尋ねてきた。


「いいよ、どんなこと?」


「ひかるさんはどうして星を観る仕事を始めたんですか?」


「それは、宇宙が好きだから……かな」


「ひかるさん、宇宙が好きなんですね。

実は私もなんです」


「愛理栖も好きなんだね。

嬉しいな」


「ひかるさんは宇宙のどんなところが好きですか?」


愛理栖は興味津々だった。


「宇宙にはさ、僕たちの日常じゃ考えられない不思議な謎がたくさんあって、

僕はその謎を解くことにワクワクするんだ。

だから、この宇宙の魅力をもっともっとたくさんの人たちに伝えたいんだ」


僕は照れながら話した。


「憧れるものがあって、ひかるさんは幸せですね!」


「そうかな、ありがとう」


僕はつい照れ笑いをした。


「そうだ!なんなら今度、愛理栖も一緒に星を観ようよ」


「いいんですか?そうですね」


「愛理栖は将来やりたいこととかあるの?」


「えへへ、まだ漠然とした感じなんですけど。でも、科学者になってみたいってずっと思ってるんです。」


「科学者!すごいね。何に興味があるの?」


「宇宙とか、生き物とか。

特に、宇宙にはまだまだ解明されていないことがたくさんあると思うとワクワクするんです。」


「宇宙か。ロマンがあるね。どうして科学者になりたいと思ったの?」


「 小さい頃、ある女性科学者が書いた創作童話で宇宙の面白さを知って、宇宙って素敵だなって思ったんです。

私もいつか、彼女みたいに宇宙の新しいことを発見して、そのワクワクする気持ちをみんなに伝えたいなって思っています」


「素晴らしい目標だね。アメリカとか、もっと大きな研究所で研究したいとか、具体的なイメージはあるの?」


「はい!いつかアメリカに行って、

宇宙に関する研究をしてみたいです。

大きな望遠鏡を使って、宇宙の果てまで見てみたいんです。」


「それはすごい夢だね。きっと愛理栖なら叶えられるよ。これからも頑張ってね。」


「ありがとうございます!ひかるさんのように素敵な大人になりたいです。」




僕らは会話が弾み、楽しい時間を過ごした。会話のネタも尽きた頃。


「けっこう遠いんですね」


愛理栖はナビの画面を見ながら呟いた。


「車だと2時間近くかかるからね。

整備されていない道路も通れば20分くらい早く着けるけど、どうする?」


「私をあてにしないでくださいよー!」


「は~い、ごめんなさ~い」


クスクス


愛理栖が笑った。

バックミラー越しに見た彼女の無邪気な笑顔は、しばらく僕の頭から離れなかった。


結局、近い方のルートを通ることにし、車は次第に山道へと入って行った。


『新しいルートに切り替えます』


「…………」


『新しいルートに切り替えます』


「…………」


どうしようもなく不安な気持ちを嘲笑うかのようなナビゲーションに、僕は本当に腹が立った。

しかし、愛理栖を不安にさせたくなかったので、ハンドルを強く握って気持ちを抑えることにした。


「おっかしいな~」

僕は本当に焦っていた。「もしかしたら、途中で入る道を間違えたかな?」


それでも、Uターンできそうになかったのでそのまま進むことにした。

辺りにはいつのまにか霧がたちこめてきて、状況は最悪だった。


『ガクッ!』


急なカーブを曲がろうとバックした瞬間、車がグラッと傾いた。まさかと思ったが、後輪が道の外に滑り落ちてしまっていた。

「あちゃー……」

焦ってアクセルを何度も踏み込むけれど、車はびくともしない。


しばらくして、愛理栖が言った。


「私、外に出て合図しますね」


「ごめんね、助かるよ」


僕はこのとき死ぬほど恥ずかしく、

自分の情けなさで顔が真っ赤になっていた。

彼女が外から見てくれたが、二人だけでは解決できそうになかった。


僕は自力での脱出を諦めてJAFを呼ぶことにした。しかしここでまたもや大変なことに気付いた。スマホが圏外だったのだ。


「愛理栖、申し訳ないけどスマホ貸してくれる?」


「私もひかるさんと同じキャリアだから圏外ですよ」


愛理栖もさすがにお手洗いをずっと我慢してて辛そうだった。

僕たちは夏の暑さもあり、

車内に戻り無言で助けが来るのをひたすら待つことにした。


気が付くと、辺りはすでに真っ暗になっていた。

立ち往生してから、かれこれ3時間は経っただろうか。

僕は車から降り、懐中電灯で深々と生い茂る木々を照らしてみた。


すると、僕たちが車で走ってきた方向からひっそりとした夜の山道に、場違いな無機質な音色が響き、神々しい光で暗闇を照らす何かが迫ってきた。



※今回の要約※

ドライブの途中、ひかると愛理栖は山道で車が立ち往生してしまう。助けを待っていたとき、

不気味な光と音が近づいてきた。

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