エピローグ

☆修行 僕の心宇宙《かがく》の旅は終わらない


ほんの刹那の時間が果てしなく永遠に感じる海馬の旅をしてきた旅人は今ようやく目を覚ます。


気がつけば僕は母さんの病院で眠っていた。母さんは穏やかな表情で眠っていた。


しばらくして、病院の先生が部屋に来てくれた。僕は母さんの頬に触れ、まだ温かさが残っていることを確認する。


「お母さん、お母さん~!」

僕の心からは、ずっと我慢していた涙が溢れてきた。


僕の側には、みんながいた。

希美さん、愛理栖のおばさん、空さん、奏ちゃん、詩織ちゃん、そして愛理栖。

みんな何も言わず、ただ僕の手を握ってくれた。


「お兄ちゃん、起きるの遅いよ!」


可織の声!?

しかし、病室には誰もいない。

「ねえ、愛理栖?可織は今病室にいたよね?」


「え、そうですか? 私は会ってませんよ」


やはり僕の気のせいだったのだろうか。



「ねえ、ひかるさん?」

愛理栖が突然、僕に小声で耳打ちしてきた。


「どうしたの?」


「希美さんって人、随分仲がいいようですけど、も、もしかして彼女さんですか?」


「ち、ちがうよ!!」

「ひかるさん、声が大きい!」


「ご、ごめん……」


「で、本当はどうなんですか?」


「いや、だから違うんだ」 


「ひかるさん、私これでも勘は鋭いので

隠し事はしないほうがいいですよ」 


「だから違う。この人は職場の後輩ってだけ」


「イ、イヴ……」

「ちょ、愛理栖、何でそれを!」


「私はこれでも5次元少女ですよ」


「じゃあ、知ってたのか?」


「あ、図星ですね!

私、ひかるさんがうなされていた時に寝言でイヴって言ってたから女性かなと思っていたのですが、やっぱり。

ひかるさん、節操なさすぎです!!」


「夫婦喧嘩か。あんたら仲いいよな」


「こ、これは違くて……」」

僕と愛理栖は空さんの疑いを阿吽の呼吸で否定した。


「あの、お二人とも、病室ではお静かにお願いできませんか?」

詩織ちゃんが苦笑いしながら言った。



気がつくと、病室の窓の外はすっかり暗くなっていた。

「ねえ、今日は流星が観れるらしいよ。

この後、よかったらみんなで近くの高台までいかない?」

僕はみんなに提案した。


「お、いいねえ、あたい行くよ」

「あたしも行く」

「あたしも!」

みんな僕についてきてくれた。





「わぁ〜みて、あそこに今流れたよ!」


「え、どれどれ?

ほんとだ」



僕はみんなと夜空に流れる流星を眺めながら思った。

僕は自分の今のこの幸福を喜び、

まだまだ謎の多い確かな心宇宙の旅を……

大切な仲間達と一緒に

目をキラキラさせながらまた歩み始めよう。

そう決意した。





2年後の2月25日、僕達は科学雑誌ネイチャーにある論文を発表した。

宇宙のかなたで一瞬フラッシュのように電波が観測される

「高速電波バースト」と呼ばれる謎の現象の正体は、

約50億光年離れた銀河で起きた大爆発とみられると……。


そう言えば、僕の心の中に響いていたあの声の主はいったい

誰だったんだろう?


僕は職場のみんなが揃っている時に聞いてみた。

すると、地質学に詳しい同僚が興味を持ってくれて、その時の事を僕に詳しく聞いてきた。


  後日、僕はその同僚と一緒に長野県の僕が住む町近くの高台へと地質調査にやってきた。


「まてよ、彼への説明はあれで良かったのかな……」

僕は何故かこの場に及んでそう思ってしまう。


「お~い、五色!何してんだ? 早く現場こっちに来いよ~!」


「は、は~い! ごめ~ん、今行く~!」

この時の僕がまるで試験結果に自信が持てない受験生のように心許ない気持ちだったことは今更言うまでもないかもしれない。


僕たちは現場で花崗岩が異常に強い磁気を放出していることに気づいた。その原因は宇宙線バーストだと彼は言う。宇宙線バーストがこの地域の地質の磁場を活性化させ、その磁場が僕の脳に影響を与えたというのだ。特に大脳辺縁系が刺激されて、幻覚を見たり、嗅覚に違和感を感じたりしたということらしい。


彼は科学者としての説得力を持って話してくれた。


 だけど……僕には、

何故かこう、もっと他の何か未知の

科学的なメカニズムが関係しているような、

そんな気がするんだ。



なにも宇宙に進出したり、

高度な人工知能やロボティクステクノロジーを使わずとも、

壮大で素敵な科学の大冒険は

そう、君の何気ない日常の中に隠れている。

そっと目を閉じ深呼吸し感じてみて。

ほら、君のその心の中にも……。


to be continue


———————————————————————

※この作品は、

イーハトーヴ5次元少女 【2】鏡の宇宙と三千世界

第0章 単位円上のNULL~すこし不思議な学園青春物語グラフティ

に続きます。

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