五日目――其ノ三
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ノアノアが亡くなりました。死因は焼死です。
本日の夕刻のことです。私は新宮神社にいました。それは、そこにいればまた彼に会えるのではないかと思ったからです。彼と会いたかった理由は、もちろん個人的な問題も含まれるかもしれませんが、本当の目的はムン君がらみの一連の騒動を解決するためです。しかし、そこには彼どころか人一人来ませんでした。
仕方なく石段に腰かけボォ~としていると遠くで煙が上がるのが見えました。どす黒いそれはまるで物語に登場しそうな龍のようでした。煙は、しばらく時間が経っても消える様子が無かったので、さすがに気になりその出所へと向かうと、そこにはワン君がいました。
でも、そこにいた彼の様子はいつもと違っていました。彼は地面に膝をつき、苦しむように大声で叫んでいました。私は近寄って声をかけたのですが聞こえていないらしく、結局彼はその場で意識を失ってしまいました。
最初は状況が読み込めなかったのですが、私のすぐ後に駆けつけてきた警察官が、すぐ近くに落ちていた黒い物体を見て「人の形に見えますねえ」と言うのです。まさかとは思いましたが、それが人だと判断されるまでに時間はかかりませんでした。
詳しい調査をしてみなければ、それが誰かを判断することは難しいそうなのですが、様々な情報からそれが乃愛ちゃんだと言うことは、誰にでも分かりました。
私にはワン君にかける言葉を見つけることはできませんでした。
彼は憔悴していました。
警察は必死に捜査を進めてくれています。みんなが彼の心中を慮ってくれています。私たちもそうですし、ノアノア探しを手伝って下さった村の人たちもそうです。しかし、そんなことをいくらしても、彼の傷が癒えることは無いでしょう。
そんな彼を見ていると、自然と涙がこぼれ落ちてきました。
一体誰がこんなことをしたのでしょう? 決して許されることではありません。まさかムン君でしょうか? いえいえ、そんなはずありません。と願いたいところですが、どうしても彼が引き起こしてしまったのではないかと言う危惧がしてならないのです。
私はムン君を探しました。辺りはすでに真っ暗で、村は闇の中に沈んでいました。
どうすれば彼に会えるのかは分かりません。そもそもどうして彼を探しているのかすら分かりません。居ても立ってもいられなくなって、気がついた時にはそうしていたのです。
村内は恐ろしいほど静かでした。それは、私の足音や息遣いまでもが響き渡るほどです。その完璧なまでの静寂は、言葉ではなんとも表現し難い、とても嫌な感じがしました。
村は私が知っている村のはずなのですが、なぜか始めてきた場所のような気がしてなりませんでした。それほどまでに私自身が取り乱しているのでしょう。
私は田畑の間を突っ切り、民家の間を走り去り、秘密の裏道を通り抜けました。
そして、私が小さな公園へと侵入したその時、横から大きな何かが飛び出してきて私の視線を奪ったかと思うと、さらに別の何かが私の右目をきれいに貫きました。
それは、想像を絶するほどの激痛なのでした。
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