五日目――其ノ一

 昨晩は寝られませんでした。なぜなら、シーズーが行方を眩ませたからです。ここは山です。夏だとは言え素人が迷子になると非常に危険です。とても心配です。昨日、山道で彼女に呼ばれた気がしたことは、思い過ごしでは無かったのかもしれません。

 私は紅茶を入れ、リビングのソファに腰かけました。今日こそは彼女を見つけなければなりません。そうでなければ、命にかかわります。と、気が気では無かったのですが、そんな私を尻目に彼女はあっさりと帰ってきました。

 彼女は全身泥だらけでした。

「シーズー、どうしたの、それ? 大丈夫だった? 怪我無い?」

「ええ。平気よ。心配かけたわね。私、シャワー浴びてくるわ。」そう言い彼女はお風呂場へと消えていきました。シーズー自身は平静を装っていたのかもしれませんが、声のトーンや表情から、彼女の身に何かが起こった事はすぐに読み取れました。

 それは、山で迷ったとか、そんなことでは無いと思います。彼女は幼い頃、別の山で遭難しかけたことがあるのですが、その時は全く動じた様子はありませんでした。しかし今のは、彼女には珍しく動揺していたのです。

 シーズーが帰宅してから少しして、ハルハルが帰ってきました。

「ハルハル。どこ行ってたの?」

「ちょっと散歩。」

「そうなんだぁ。そういえばさっきシーズーが帰って来たよ。」

「うん。知ってる。さっき会ったから。」

 彼女もまた、シーズーと同様に浮かない顔をしていました。

「大丈夫? 何かあった?」

そう問いかけると彼女は話してくれました。数分前のシーズーとのやり取りを。

 彼女も私と同じく、シーズーの異変に気がついていて、心配しているようでした。

 彼女の話で一つ気になったことは、ハルハルとシーズーの仲です。話を聞く限りシーズーはハルハルに冷たく当たったようでした。ハルハル自身はそれについては気にしていないようでしたが、私には二人の関係が悪化しているように思えて仕方ありません。もちろん、シーズーの身に起こった何かしらの出来事のせいで心が不安定だったために、そうやって強く当たってしまったのかもしれませんが、やはりシーズーがハルハルのことを悪く思っているという要因も捨てきれないのです。

 私は六年前のシーズーの恋愛事情やハルハルがしたことなどを尋ねました。最初は言葉を濁していた彼女ですが、何とか詳細を聞き出すことに成功しました。

 親友同士が仲たがいしているところなどもう見てはいられません。他人が二人のことに介入するのは良くないことだとずっと思っていましたが、これだけ長い間、妙な関係が続いているのです。これはもう、私が何とかするしかないのでしょう。




                   ○

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