第10話 下駄箱にて
白く、少しツヤがあり、4:3の美しい比率の長方形に折られたこれは……!
時は例のお買い物デートの次の日、その朝である。いつも通りに自転車を駆って学校まで来たわけだが、そいつは下駄箱にいた。
俺が下駄箱を開けると、白い封筒が上履きの上にそっと置かれていたのである。
やっときたか……
学生生活も11年目。本当に長かった……。毎日毎日、期待を胸に靴箱を開け続け、何度も何度も絶望に打ちひしがれてきた。だが、ついにやってきたのだ。
「よっしゃああぁぁぁぁ!!!!」
俺は周りの白い目線なんて気にもせず、勝利の雄叫びを上げた。
「どうしたの? 朝から嬉しそうだね」
そんな柔らかい声で俺に尋ねてきたのは六実小春だった。
「あぁ! それがな、―――」
「……どうしたの? 急に黙りこくっちゃって」
危なかった……
彼女に「見て見て!ラブレターもらったんだよ!」なんて言えるわけない……
「馨くん、大丈夫? 何か紙が見えた気がしたけど……」
「か、紙⁉︎ あ、あぁ。これは……は、果たし状だよ」
「果たし状?」
咄嗟に嘘ついてしまった……。まぁ、ラブレターなんていうよりはましか……
なんて俺は思っていたのだが、六実はそこまでちょろいヒロインではないようで……。俺は彼女の怪訝な視線に晒されている。
「馨くん?」
「は、はい……」
「嘘、ついてないよね……?」
「も、もちろんでございます……」
六実がふーん?といった表情で俺を見つめる。緊張と少しの恐怖で俺の両手は汗で濡れている。
「わかった。馨くんは嘘ついてないんだね」
六実は美しい笑顔で俺を許してくれたようだ。俺は内心でふぅーと安堵のため息をついた。
「馨くん! UFOだ!」
「なにっ!」
UFOというのはあれか。未確認飛行物体、Unidentified Flying Objectか⁉︎ 一時期、この世の謎を追いかけていたこの朝倉馨が見逃してたまるものかっ!!
「って……おいっ!!!!!」
俺が振り返ると、案の定六実はその白い封筒をまじまじと手に持って眺めていた。
あぁ、終わった。俺のカップル生活……。4日目で終了とか悲しすぎるだろ……。はぁ……。もうちょっといろんなことしたかったな。呪いのせいでまともに男女交際が続いたこともない俺にとってこれ以上ない機会だったのに……
「馨くん、ごめんね」
「……はい?」
俺が俯いていた顔を上げると、そこには申し訳なさそうな六実がいた。そして、彼女はゆっくりと紙をこちらに向ける。
「果たし状……?」
そこには、少し遠慮がちな字で、「果たし状」と書かれていた。
* * *
と、いうわけで、果たし状に書いてあった通り3階の多目的室まで来たわけだが……
俺はその部屋の前で立ち止まっていた。俺の額を汗が静かに伝っていく。
よく考えたら、俺は果たし状を渡されたのだ。漫画なんかでしか見たことないが、たしか果たし状って「ケンカをしませんか?」っていう手紙だろ? この前の金曜日、のび太くんがジャイアンに渡してた。
で、でもまぁ! 俺みたいな平凡な奴が恨まれる理由なんて……あったな……
この前、六実が俺と付き合ってる、と言った次の日。俺は幾多の殺意に晒された。その中の過激な奴が俺を……
その後はもう考えないでおこう……
俺はふんっ、と鼻を鳴らして気合をいれるとこう言いながらドアを開け放った。
「たのもう!!」
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